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IF YOU DON'T, DON'T.

タイヤクというものがある。
「すげ〜よ、オレ今度の学園祭でタイヤク任されちゃったよ」
そのタイヤクとは違う。
海外のアーティストが出したCDに付いてくる、
歌詞の日本語訳のことである。
もちろん、輸入盤にはつきませんが。

歌詞というものはおそらく
作詞者の思考が如実に反映されるものであるから、
それを訳す、
というか第三者が理解可能なように翻訳するのは
大変な努力が必要だと思います。
加えてその言語圏独自の思考体系と言いますか、
その歌詞が生まれるべき背景と言いますか、
そういった文化・慣習とでも呼べそうなものを
勉強あるいは吸収していないと、
作詞者の意図を汲み取って訳すなんていうのは
とんでもなく難儀な仕事になると思います。
そう考えると対訳を手がけている人たちってスゲーなと思うわけです。
多分訳してて「勘弁してくれぇ!」と
叫びたいときもあるんじゃないでしょうか。
「何が言いたいのかサッパリ分らんぞ!何じゃこのアーティストは!
難しすぎるわ!ボケが!やめさせてもらうわ!」って
そう思うときもあるんじゃないでしょか。
そんなときでも
その難儀な歌詞を書くアーティストと同じ言語圏の人は、
その歌詞を理解あるいは解釈できてるんでしょうか?

う〜ん、日本のアーティストで考えてみよう…。
んんん〜、歌詞が「奇天烈!」と言うのは何だろう…。
ミッシェルガンエレファントかなあ、
確かに解釈が難しいかもしれない。
解釈をすべきものなのかどうか良く分らないけれど。
こう考えると、
国内アーティストの歌う詞でさえ
バッチリ理解・解釈できるモノって少ない気がしますね。

ん、何か話が見えなくなってるな。
えーと、そう、
僕は対訳を読んで「おお!」と思ったことが
正直そんなにないんである。
例えば英語で歌われる歌詞の対訳を読みながら、
頭をひねり「やっぱ英語の出来ない僕には、
日本語に訳してもらっても、解釈はできないのかな〜。
読んでも何が言いたいのかよく分らないな〜。
歌詞で深い感銘を受けることはないのかな〜」と思うことが
ほとんどだったんである。

そんな僕が最近ガツンとやられたのが、
ジミー・イート・ワールド(以下、ジミーズ)のアルバム
『ブリード・アメリカン』の対訳である。
先に言っておくと「ガツンとやられた」のは、いい意味で、である。
訳を手がけているのは吉田香織さんという方である。
対訳の歌詞に僕がガツンやられたのは、
訳が分りやすかったのと、
プラスその訳が僕の心の琴線に触れたからである。
そのような効果が生まれた要因が、
吉田さんの解釈力の素晴らしさにあるのか、
それともジミーズの歌詞の日本語への訳しやすさにあるのか、
あるいはその両方の相互作用なのか、
残念ながら僕には分らないけれども、とにかく良いんである。
僕にとってはおそらく“リアル”なんである。

あまりによかったんで、
無断で申し訳ないと思いつつ、
そしてチョット長いんですが、
以下に一曲だけ紹介したいと思います。
先に断っておきますが、
作詞はジミー・イート・ワールドで、対訳は吉田香織さんです。

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IF YOU DON'T DON'T

what's wrong baby?
don't they treat you like they should?
did you take them for it?
or every penny taht you could?
we once walked out on the beach and once i almost touched you hand
o, how i dreamed to finally say such things
then only to pretend
don't you know i'm thinking?
driving 405 past midnight
you know i miss you
ninth and ash on a tuesday night
i would write to you from museum mile
toast to you:
your whisper
your smile
up the stairs at the wheatherford
a ghost each place i hide
i left you waiting
at the least could we be friend?
should have never started
ain't that the way it always ends?
on my life i'll try today
there's si much i've felt i should say but
even if your heart would listen i doubt i could explain
so here we are now
a sip of wine
a sip of water
medy maybe
maybe someday we'll be smarter
i'm sorry that i'm such a mess
i drank all my money could i get,
took everything that you had and never loved you back
would you mean this please if it happens?
won't you get your story straight?
if you don't know, honey why'd you just say so?
i need this now more than i ever did
if you don't know,
well honey,
then you don't

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以上がオリジナルの歌詞である。
そして以下が吉田香織さんの対訳。

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どうしたんだ?
ちゃんとした扱いを受けていないって?
ちゃんと扱ってくれると思って
それともお金のために彼らのほうを選んだのか?
いつかビーチを二人で歩いたよね
その時君の手に触れそうになったんだ
こんなことを君に言いたいとずっと思ってきたよ
でもいつもカッコつけるだけだった
君のことを思っているのは知っているよね?
夜に405号線をドライブしている時
俺が君のことを恋しく思っていることを知っているはず
火曜日の夜に9番街とアッシュ通りの角
博物館通りで君に手紙を書くよ
君に乾杯
君のささやきに
君の笑顔に
気象台の上で
俺は幽霊と化してた
君をずっと待たせてしまった
友達としてでも付き合えないのかな?
付き合い始めさえしなければよかった
だっていつもこうやって終わってしまうからね
今日はちゃんと生きてみるよ
言わなければならないことがたくさんあるような気がするけど
君のハートが俺の言葉に耳を傾けてくれても
俺がちゃんと説明できるかどうかあやしい
そんなこんなで今に至る
ワインをひとくち
水をひとくち
いつの日かきっと
きっといつの日か俺達はもっと賢くなれるよ
俺がこんなにダメなやつでごめんね
手に入れられるだけのお金を飲み干してしまった
君が持っていたものをすべて奪い取って
君に愛さえも返さなかった
寄りを戻せることってあるの?
君は何を考えているの?
分からないなら何でそんなことを言ったの?
今の俺には愛が必要なんだ
君が分からないということは
君には必要ないってことだね
--------------------------------
いい!何がいいってサビの部分、
「君が分からないということは、君には必要ないってことだね」。
思わず泣いてしまった。
そう、ジミーズの歌詞が前面に押し出されて語られることはまずない。
実際彼らの歌詞は特に詩的というわけではないと思う。
僕には詩的センスがあるかどうか分らないので、
僕の判断はあてにならないけども。
少なくとも雑誌等では詩的だという評価はなされていない。
だけども僕はジミーズの歌詞が大好きなんである。
もちろん好きなのは歌詞だけじゃないんだけど、
でもジミーズの歌詞の素晴らしさに
気づかせてくれたのは吉田さんの対訳だった。
あるいは吉田さんの訳こそが、 僕にとってのジミーズの歌詞を
素晴らしいものにしているのかもしれない。
人によっては上の歌詞も「はあ?」って思うかもしれないし。
まあとにかく、
ここんところ対訳不感症になっていた僕に対して、
吉田さんの訳は見事なお薬になったのである。
そう、英語の良く分らない僕のような日本人でさえ、
英語の歌を聴きながら涙を流せる、それは何のおかげかと言うと、
対訳のおかげなんである。
やっぱスゲーよ、対訳を生業にしてらっしゃるみなさん。
ほんと大変だと思いますが、これからも頑張って下さい。

とか言ってる僕だけど、
自分自身で歌詞を訳したいというか
解釈したいという思いも持っているんである。
翻訳者によって訳された日本語からではなく、
オリジナルの歌詞からダイレクトに何かを感じたいという思いも
持っているんである。
まあ今のところ「持っている」だけなんですが…。

お、1つ思い出したことがある。
スクーデリア・エレクトロの石田小吉さんが、
以前NHK-FMで火曜深夜に
ミュージック・パイロットという番組を担当していたときのことだ。
確か「『輸入盤は対訳がついてないから嫌い』とかいう奴!
自分で訳せっつうの! 甘ったれんな!」
という旨の意見をおっしゃっていた{間違っていたらスミマセン)。
それを聴きながら「なるほどなあ」と
感心している情けない自分がいたことを思い出した。

ちなみに『ブリード〜』には
アメリカの香が漂うポップなソングがつまっている。
しみったれたアルバムではない。バラードはあるけれど。
どちらかというとカラッとした曲が多く、
それにヴォーカルのジムくんの透き通るような伸びやかな歌声がのる。
とても切ない歌声だ。


2002/04/11(最終修正日:2003/05/15)
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