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STARDUST #1/HEART OF THE MAELSTROM

たまには自分のことでも書こうかな、なんて思う。
1回ではきっと書ききれないので、
少しずつ、何回かに分けて書こうと思ったりもしている。
それで今回が#1。記念すべき第1回。
極めて後ろ向きな思考が垣間見られるかもしれませんが、ご容赦を――

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人間にはそれぞれ相応/不相応がある。
きっと僕にとって相応しい立場があるのと同じように、
相応しくない立場もある。
そして僕にとって相応しい立場、
それは別の誰かには相応しくないものかもしれない。
何が自分にあった立場なのかなんて、そんな簡単に分らない。

小学校時代。
1年生、2年生と担任は同じ先生だった。
中年の女性の先生で、厳しい人だった。
授業中、指されても答えない児童は
「あんた生きてるの!?」と激を飛ばされ、
プールの時間に水を恐れる児童は無理やり水に突っ込まれた。
図工の時間に書いた絵が、他の児童と同じだった場合、
それは破り捨てられた。
恐ろしい。今もこんな先生いるんだろうか?
いたら問題になりそうだなあ。

そんな先生が、2年生の終わりに僕に言ったことがある。
「君は3年生になったら委員長をやってみなさいよ」、そう言った。
委員長。
3年生になると、
児童全員が何らかの委員会に所属することになっていた。
今ではもう具体的な委員会名は忘れたけれど、
給食委員会とか、保健委員会とか、何かそんなものだったように思う。
そして各クラスからは、1人ずつ委員長が選出される。
委員長。
まあ一応クラスの取りまとめ役だ。
僕が委員長? 僕にできるのか? ホント?
先生は「君ならできる」と言う。

そして、よせばいいのに、僕は調子に乗った。
乗ってしまったんである。

小学校三年生のころ。
当時の僕は8歳だ。その年の誕生日で9歳になる。
当時の僕は、黒いランドセルをしょって、
いつも中日ドラゴンズの帽子を被っていた。
青地に白い糸でDって入ってるヤツ……だったと思う。
別にファンだったわけじゃないんだけど。
でも取り合えず人に訊かれたときは
「ドラゴンズファン」と答えていたように思う。
ん、話が逸れた。

僕は小学校3年生の4月だか5月だかに、
委員長を選出する学級会で、立候補してしまった。
してしまったんである。
対抗馬はいたものの、見事に僕は当選。
晴れて人生初体験の「委員長」となった。
意気揚揚。
「俺ってひょっとしてスゴイ?」、
小学校3年生の委員長がどれほどチッコイ仕事か知らない僕は、
そんな風に勘違いして、チョットだけ気持ちよかった。

だがしかし!
委員長としての仕事が始まってすぐに、
自分には「不相応」であることを実感。
人に働きかけが出来ないのである。
「あれやって」、「これやって」、
そういう風に人に指図できないのである。
愕然とした。
「○○くん、花に水やっといて」、
その言葉が出てこなくて、
自分で水をやったくらいである(笑えないけど笑ってしまう…)。
それに学級会でもオタオタして進行を担当できない。
副委員長に“おんぶに抱っこ”である。
とにかく人前で言葉が出てこない。
初期のやる気はどこへやら、
日を追うごとに、「これはヤバイ」という気持ちが膨れ上がっていった。
「俺って…ひょっとして…もしかして…ダメなんじゃ…?」、
そんなモヤモヤした気持ち。

そんな年の秋だったと思う。
クラスメイトが転校することになった。
当時の担任(例のおっかない人ではない)は、
僕に「お別れ会の計画を立ててね」と言ってきた。
下校前のホームルーム、いわゆる“帰りの会”で、
クラスのみんなに話を持ちかけ、意見を聞き、計画を練る。
そんな段取りでいく予定だったんだけど……。
僕はいっこうに話をもちかけられずにいて、
計画は立たず、そのまま数日が過ぎた――

ある日の夕方、
僕は先生に声をかけられ、独り教室に残されてしまった。
「ぜってえ怒られる」、鈍感な僕だけど、そのくらいは分る。
確信あり。
僕と先生以外の誰もいない教室で、激が飛んだ。
そこで言われた言葉は書かないけれど、
先生は「失格」という言葉を何回か使っていた。
「あんたは失格だ」というニュアンスで使っていた。
そりゃあ僕が悪いんだけど、
でも…「失格」ってキツイよ、先生。
僕は泣いた。というか、泣きそうだった。
目に涙がたまり、まばたきしたら零れ落ちそうだった。

先生に解放された後、
僕はウルウルしたまま下駄箱へ行き、靴を履き、帰路についた。
そう、そういうときに限って、
クラスメイトなんかが僕を発見するのである。
僕から発せられる異質の空気を感じ取り、
子供ながらの悪気のない残酷さで
「あんれぇ、どうしたの?」みたいな感じで近寄ってくる。
イヤホント、今だけはほっといてくださいよぉ――
僕の方はそんな気持ちだ。
僕は帽子を目深に被って、手だけ振って、
無愛想に、そして足早に、クラスメイトを振り切った。

僕は帰り道にある緑の生垣が滲んで見えたのを今でも覚えている。
いんや、生垣だけじゃなくて、すべての景色が滲んでいた。
もちろんその景色は、
僕の主観に基づいた記憶の再構成の産物かもしれない。
だけど僕にとってそれは今や事実となってしまっているんである。

帰り道にある押しボタン式の信号。
そのボタンを押しながら、僕は誓ったことがある。
「二度と、人をまとめあげるような、
人前にたってあれこれ話さなきゃいけないような、
そんな立場にはつかない。
どんなに大金積まれたって絶対やんねえぞ」。
そんな風にひねくれてしまったんである。

「『不相応』なことをしてしまった」。
僕は当時『不相応』という言葉を知らなかったけど、
今思い返すと、あのときの僕の心、
そこにはその言葉が当てはまるんじゃないかと思う。

それ以来、僕は以前よりもっと引っ込み思案になった。
「自分はダメなんだな」と、
「何かができるような人間じゃないんだ」と、そう思うようになった。
「何かしようと思っちゃいけないんだ」、
「目立ちたくないや」、そんな風に思うようになった。
まあ、あのときの体験が僕の全てを形作ったわけはないし、
何より僕自身が全ての罪をそこにおっかぶせてしまうのも問題だろうけど。

そんな、素直なんだか
ひねくれてるんだか分らない気持ちを根っこに抱えたまま、
僕は小学校時代を送った。
別に普通に笑えてたし、友達とも楽しく遊んでたけれど、
何かへの『挑戦』は全くと言っていいほど、しなかった。
でも、心の底では、「何かやって、人から認められたい」、
そう思っていたかもしれない――

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*英和辞典を引いてみると、stardustと言う単語には、
「小星団、宇宙塵」の他に、「夢見るような(ロマンチックな)気持ち、
恍惚」といった意味があるようです。

2002/04/28 (最終修正日:2003/06/04)
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