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ブレインデッド

今回はエッセイと言うよりも、単なる映画紹介です。
ということで気楽に読んでください。

そう、先に断っておきますが、
以下では「ブレインデッド」という映画の内容について触れます。
今までこの映画を観たことのない方で、
これから観ようと思っている方、その中でも
作品の内容を予め知りたくないという方は、
これ以降の文章をお読みにならないようにお願いします。

また、僕がこの映画を鑑賞したのは数年前の話なので、
以下の内容には誤りがあるかもしれません。
そのような場合には訂正したいと思いますので、
メールか掲示板にてご一報ください。
そんな曖昧な記憶で書くなといわれそうですが、書かせてください{笑}。

さて、「ブレインデッド」という映画がある。
レンタルビデオ屋に行って、運がよければ
ホラーの棚に置かれていると思う。
パッケージは、「いかにも」な感じ。
僕が借りたときは、血の気の悪い看護婦さんが描かれていたように思う。
パッケージのうたい文句のどこを見ても、
「この映画がいかにすごいホラーであるか」ということしか書かれていない。
と、断言できるほどの記憶はないけど、おそらくそうだったと思う。
ところがドッコイ、こいつはホラーの衣をまとったコメディだ。
あるいはホラー的な設定が根底にあるがゆえに、
コメディとして受け取れるのかもしれない。
はっきり言って、監督のねらいが「笑い」にあるのか、
「恐怖」にあるのか分らないんである。

ホラーってのは、だいたい主人公があやうい状況に置かれる。
怪物とか、隣の変人とか、正体不明の存在とか、
まああるいは自分の中の黒い欲望とかによって、
やばい状況に陥るのが常である。
そして大体ホラーには伏線がある。
例えば、主人公の隣の部屋の住人が
「やばい人かもしれない」ってことを、いくつもの要素を使って表す。
夜中に隣から変な声が聞こえる、
だから人はいるんだろうけど、でも一度も扉が開く音を聞いたことがなく、
やっぱり人がいるのかどうか分らない、だけど物音はする、
でもチャイムが鳴っても誰も出ない、
ベランダから覗き込んだ人の話だと部屋の中は荒れ放題だった、とか。
そういう情報の積み重ねがあった上で
主人公がその部屋に入っていくことになれば、
観ている方は、これは「何か」あるな、けれどその「何か」が分らない、
といったふうに、正体不明の「何か」に対する恐怖心が少なからず芽生える。
それは当然その物語の主人公にも共通の「恐怖感」で、
主人公は部屋の中にすばやく目を走らせながら、
「何か」との直面にそなえたりする。
普通「恐怖映画」といえば、
こんなように主人公は鑑賞者と「恐怖感」を共有しているものである。
そして主人公はそういう「恐怖感」を感じる状況の中で、
たいがいはこちらの予想範囲にある行動を取る。
僕らが想像もつかないような素っ頓狂な行動はまず取らない。

けど、「ブレインデッド」の中では、
主人公を始めとした登場人物たちが、
どこか的はずれな行動を取る。
「ああ、これやばい状況だよ。どうするんだよ」ってなときに、
どうもおかしな行動を取るんである。
でもその行動に対して周囲の人間は笑ったりしない。
あくまで対応が普通なんである。
「何やってんだよお前」みたいな言動は取らない。
そんな調子だから、
その「おかしい行動」を笑っていいのかどうか、
映画を観ているこっちは一瞬迷ってしまうくらいである。

だから――

だから、この映画は観る人によっては「怖い」と言うかもしれない。
そしてまたある人は「おもしれえ」と言うかもしれない。
僕は、「おもしれえ」と感じた方の人間である。

これ、基本的にはゾンビ映画である。
人びとが次々にゾンビと化していくんである。
まず、主人公の青年の母親に、
ゾンビ化の兆候が表れるシーンがある。
化粧をしている母親の頬の皮膚がペロンとはがれるんである。
息子はそれを傍らで見ている。
さあ彼の反応やいかに!
彼はなんと近くの棚(たな)からマジメな顔で瞬間接着剤を取り出した!
そして母親の頬にそれを塗り、
はがれた皮膚をぺったり貼り付ける。
「もう大丈夫だよ母さん」みたいな感じだ。
オーイ!何で顔の皮膚に瞬間接着剤なんだよぉ! おかしいよ。
誰も何も言わないのはおかしい、絶対に。

そしてそして、
ついにゾンビ化した母親を鎮める際に、主人公は薬を使うんである。
注射器でぶっすりとその薬を注入してやれば、
ゾンビ母さんはおとなしくなるんである。
ところが!
その注射を刺す個所がいつでも鼻の穴!
  「グワォオオ!」と母親が暴れるたびに、
息子は「クソッ!エイッ!」って感じで、鼻の穴にぶっすりと注射するんである。
なんでぇ!? 鼻の穴!? 
ひょっとして脳に薬をやるにはそれが良いんだろうか?
でも観てて笑うんだなあ。
すんごくせっぱつまった行動なのに、行き着く先が「鼻の穴」。
笑いを喚起するなあ。

母親の葬式のシーン。
教会で神父さんがおごそかにお話をなさっている。
隣の部屋で、息子は母親の棺おけの前に座っている。
と、急にゾンビ母さんが棺おけから飛び出して暴れだす!
息子はもみあいながらも、
例の注射をゾンビ母さんの鼻の穴に刺すんである。
母さんは途端におとなしくなるが、
勢い余った息子は母さんを抱きかかえたまま壁をぶちやぶり、
神父さんがお話中のところに飛び出してしまう。
静まり返る空間。いっせいに注がれる視線。
母親の死体を抱いて壁をぶちやぶった興奮気味の青年。
はたから見ればそんな感じだ。
そこで神父さんが青年に一言、
「悲しみをあらわすにしても程があるぞ」ときたもんだ!
普通「君はここをどこだと思ってるんだ!」とか一喝しそうなんだけど。
すごいセンスだ。

ゾンビが町に溢れ出した頃、名うての神父さんが登場する。
この神父さん、どうやって数多のゾンビを倒すのかと言うと、 なんとカンフー!
カンフー映画並みのアクションで、ゾンビどもをなぎ倒すんである。
もう、パワフルとしか言いようがないこの映画。
何でゾンビにカンフーで立ち向かうんだよ、そう言いたい。
銃だってあるはずじゃない。
まるで「キョンシーズ」みたいだよ。
だけどこの神父さん、結局ゾンビにやられてしまう。
そして自らもゾンビ化…。
てっきりこの神父さんが救世主だと思い込んでいた僕は
トホホな感じである。

話題はまだつきないんであるが、
主人公は幸か不幸かゾンビの子供を育てる羽目になる。
この子供がすごい! ゾンビの子供だけあって、力が並みじゃない。
主人公の青年は振り回されっぱなしである。
たまりかねた主人公はベビーカーに有刺鉄線をつける始末。
近所の人は「元気なお子さんねえ」とか言ってるけどさ、
一目見てあの子供は人間離れしてますよ!
だって他の赤ちゃんより1.5倍くらいでかいし、
泣き声もなんかおかしいし。
異常に気づいてください! やばいですよ奥さん!と言いたい。
とにかくおかしい、この映画。
シリアスに演技されればされるほど、笑えてくるんである。

ラストの何分間かでは、
映画史上最多の血のりが使われてると言う話もある。
お屋敷のホールで、
主人公が芝刈り機でもってゾンビたちを刈りまくるんである。
主人公はゾンビたちが流した血によってスリップして、
前に進まないくらいである。
きっとそのシーンの血のりだろう。
とにかくパワフル。押して押して押しまくる。
これはもうA級のB級映画(何じゃそりゃ)。

というような映画であります。
もし上を読んで観たいと思った方、是非観てください。
そして笑ってください。
紹介が断片的で申し訳ありませんが。
ここで挙げた以外にも笑えるネタ(と言っていいのか?)が満載のはずです。

それからそうそう、この映画の監督、
「指輪物語」の監督さんピーター・ジャクソンである。
「ブレインデッド」みたいなチープでパワフルな映画を作ってた人が
どういうきっかけで、あそこまでの巨額をつぎ込んだ超大作を作った、
というか作れたんだろうか。
そのへんの経緯に興味津々である。

2002/05/12/(最終修正日:2003/05/16)
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