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SILENT HILL

『SILENT HILL(サイレントヒル)』というゲームがある。
プレイステーション用のソフトウェアとして
1999年にKONAMI(コナミ)から発売された。
現在では、廉価版“KONAMI The BEST”や
“PS one Books”としても発売されており、
低価格で購入することが可能だ。
結構なヒット作だと思うので、
プレイした人も大勢いることだろう。
僕も遅ればせながら、
去年の冬ぐらいにようやくプレイしてみた。

このゲーム、ジャンルとしては、
「ホラーアドベンチャー」というらしい。
まあ音楽と同じように
ジャンル名などは別にどうでも良い。
『サイレントヒル』のゲームシステムは、
基本的には『BIOHAZARD(バイオハザード)』と同じだ。
舞台となるサイレントヒルは、3Dポリゴンで描かれた世界。
いつでも白い霧が立ち込めており、視界は極めて悪い。
そんな世界の中、
プレイヤーは主人公であるハリー・メイソンとなり、
サイレントヒルで突如行方不明となった
娘シェリルを探さねばならない。
当然ながら、と言ってしまうと何か申し訳ないが、
町の中には正体不明の怪物たちがウロウロしている。
そして怪物たちの姿は霧によって見えにくく、
かなり近づいてくるまで確認をすることができない。
『サイレントヒル』が『バイオハザード』と大きく違うのは、
視界が霧によって大きく制限されているという点だ。
ゲーム開始時に入手できるライトをつければ
視界は多少広がるが、それでも霧が晴れるわけではない。
ライトを消せば当然視界はゼロに近い。
怪物たちの接近を感知するラジオというアイテムはあるものの、
プレイヤーが奴らの接近に気づくのは、
たいがいにして足音や声、羽ばたきなどによってである。
それらの“音”によって
「近くに何かいる…!」と気づく瞬間が、怖い。
そうなったら、息を潜めて感覚を研ぎ澄まし、
全神経を集中して、
どの方向から怪物が出現しても良いように、備える。
そんな緊張感は実生活ではなかなかお目にかかれない。
というか経験したくない類のものだ。

『サイレントヒル』は突き詰めれば
娘探しの道程であるわけだけど、
当然ながらそう簡単にはいかないわけで、
プレイヤーは色んな謎を解いていかなければならない。
もちろんときには怪物を倒しながら、
そしてときには必死に逃げ回りながら。
また話が進む中で、
サイレントヒルで一体何が起こったのか、
プレイヤーは自分なりに整理をつけなければならなくなる。
そもそも主人公のハリーはサイレントヒルの住人ではない。
休暇でサイレントヒルを訪れた際に
事故で車ごと崖から転落、
気が付いたら隣にいたはずの娘のシェリルがおらず、
彼は車から降りて探し始めただけだ。
何故サイレントヒルには人気がないのか。
何故正体不明の怪物が徘徊しているのか。
娘はどこへ消えたのか。
ハリーは何も知らないのだ。
もちろんプレイヤーにも何も情報はない。
マニュアルにも物語の導入部分しか書かれておらず、
事の核心に触れるような情報はなにも与えられない。
最終的――無事にエンディングを迎えても、
サイレントヒルでいったい何が起こったのか、
明確な形で回答は与えられない。
あるのは断片的な情報ばかりで、
プレイヤーはそれらによって事件の全貌を
推測することしかできない。
人によってはそれが消化不良な感じで、
嫌な気持ちになる人もいるかもしれない。
しかし、僕には逆にリアリティがあって面白かった。
現実世界では、全貌が分りきってる事件なんて、
そうそうあるもんじゃない。
逆にそういう首尾一貫した整合性・論理性が
用意されているのは、虚構の世界の方が多いだろう。
そういった完成形の虚構に慣れてしまうと、
答えを与えられることが当たり前になってしまいそうな気もする。
なんで?どうして?何がどうなってこうなったんだ?と、
そう考える機会が少なくなるんじゃないか、そんな気もする。
まあ有り得ないだろうけど、
僕らがもし『サイレントヒル』のような事件に遭遇した場合、
その全貌を解き明かすことは絶対に近いほど不可能だろうと思う。
途中でのたれ死ぬ可能性がほとんどで、
娘を助け出せればそれこそバン万歳、大団円だ。
というかそもそも娘を助け出せれば
事件の全貌なんぞどうでも良くなるだろう。
だから、
『娘を助けた上に、気づいたら事件の隅々まで丸分りだった!』、
なんてのは奇跡としか呼びようがなく、まるでリアリティゼロだ。
それよりも、
『何が起こったのかは分らないけれど、とにかく娘は助かった!』、
という方がはるかに主人公の必死さが伝わる。イメージが湧く。
――と、そんなリアリティが、『サイレントヒル』にはあった。

ここから少し話が変わるけど(ホントはこっちが書きたかった)、
『サイレントヒル』では他の多くのゲームと同様、
アイテムに残量が設定されている。
たとえば銃の弾薬や体力回復用の栄養剤などだ。
途中でいくらかは入手できるものの、
だからといって、残り何発、何ビンという制限があるので、
うかつに使うわけにはいかないのだ。
上手くゲームを進めようと思ったら、
必然的にそのような残量制限のあるアイテムの使用は
極力控えなければならなくなる。
怪物とは闘わずに逃げるようにするとか、
銃は使わずに接近戦用の武器を使うようにするとか。

『サイレントヒル』ではその接近戦用の武器として、
ナイフや鉄パイプ、チェーンソーなどがある。
(↑書いてて思うけど、かなり物騒だなコレは)。
これらは弾薬制限のある銃類と違って、好きなだけ使用可能だ。
そのぶん怪物と接近して戦わねばならないし、
武器のサイズによって攻撃までに要する時間が異なるので
タイミングをつかむのに少々手間取るかもしれないが、
上手く使えば弾薬の節約ができるのでやらないわけにはいかない。
まあ逃げるって手もあるけど、必ずしも逃げ切れるとは限らない。

さて、ゲーム中には病院が出てくるのだが、
これは僕がそこで感じたある種の罪悪感だ。
ゲームを進めるためには、
当然その病院の中にも入っていかねばならない。
当然、中は暗い。
そして当然、正体不明の怪物がいる。

“それ”は看護婦の衣装を着ていた。
(↑今は看護士と言うのかな)
ナースキャップを被り、ナース服を着て、
カーディガンまで着ていた気がする。
そしてまるで年老いた老婆のように、腰が曲がっていた。
両手を前にダランと垂らし、足は内股だった。
病院内は電灯もなく、薄ボンヤリとしていて、
遠く先までは見通せず、かろうじて近くの壁が
錆びついて赤茶けているのが分る程度だったが、
“それ”の姿は見えた。
暗闇の中、
ズッ、ズッと足を引きずるようにして、
無気力に歩いている。

その看護婦はプレイヤーが近づくと、
突然走りよって襲ってくる。
首をしめたり、刃物を振りかざすのである。
その時点で“それ”が怪物であることが分る。
おそらくゾンビ。
戦わねばならない。生きるために。
僕はその病院内で入手できる
接近戦用の武器「ハンマー(つるはし)」を持って、
“それ”に立ち向かった。
「ハンマー」のモーションは大きい。
頭上に高々と振りかぶってから、
一気に振り下ろすのだ(「ブンッ」と鈍い音がする)。
僕は看護婦の格好をした“それ”に
ハンマーを振り下ろした。ブンッ――
すると!
“それ”は「アー」とも「ウー」ともつかない
あるいはその中間にあたるような、低い奇声を上げた。
もちろん苦しみの声だ。
女性ながらのセクシーさとゾンビながらの非人間性が
入り混じった、形容しがたい、奇妙な声。
“それ”は、ハンマーの一撃で床に仰向けに倒れこんで、
身をよじってそんな奇声を上げていた。
その身のよじり方が、あまりにリアルすぎた。
殺虫剤をゲジやゴキブリにかけたときに
もがき苦しむけど、それに似ていた。
腰をくねらせ、手や足を奇妙に折り曲げ、
それらをしきりに動かしていた。
やりすぎに思えるくらい奇怪だった。
がしかし、
ゲーム中に登場する怪物すべてに言えることだが、
地面に倒したからといって
とどめを刺すまでは安心できない。
また起き上がってこちらにダメージを与えてくるかもしれない。
したがって、完全にとどめを刺さねばならない。
ということは、
床に倒れてのたうっている“それ”に、
さらにハンマーを振り下ろすということである。
そうすると、例の奇声と共に、血が飛び散り、
“それ”はついに息絶え、動かなくなる。

病院内には相当量のゾンビが徘徊している。
数十とは大袈裟かもしれないが、
決して少ないとは感じられない量だ。
僕は真夜中にテレビに向かい、
隣人を考慮してヘッドフォンをつけ、
ゲーム内の病院をウロウロしながら、
ハンマーを何十回と振り下ろしたのだ。
その度に“それ”は奇声を上げ、
床に倒れ、身をよじり、血を流す――
そこにさらに僕はハンマーを――
はたと気づけば、
僕はまるで全盛期のジェイソンのように
殺戮を繰り返しているではないか!
いかに相手がゾンビとは言えど、
その行為があまりに残酷だったので
僕は1人部屋で現実にかえり、
もしや悪いことをしているのではという
モヤモヤした罪悪感に苛まれた。
恐るべきリアリティですKONAMIさん!
感心する前に、そこまで作りこむこだわりに
偏執狂的な恐怖を感じます!(←ほめ言葉)

最近週刊誌等で、
テレビゲームが子供に与える悪影響を
取り上げた記事を目にするけれど、
少なくとも僕に関して言えば、
罪悪感は感じていたわけだ。
まあ世間の一般的基準からしたら
僕はすでに子供ではないのだろうけど…。

なんだかんだ書きましたが、
この『サイレントヒル』、
やっぱ幼い子供にはやって欲しくないです。

ちなみに、サイレントヒルシリーズの公式ホームページはこちら

2003/10/20(最終修正日:2003/10/21)
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