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ホムンクルスはかく語りき

僕が現在『GANTZ』と並んで購読しているマンガが、
山本英夫(やまもと・ひでお)さんの『ホムンクルス』だ。

ホント僕は行き当たりばったりで本を買う。
まず週刊誌を読まないので、
「このマンガ面白いな、コミック出たら買おう」
と、思うことがない。
だから何か新しいマンガのコミックを購入するときは、
まずインスピレーションに因るところが大きい。
カバーデザインだったり、絵柄だったり、
帯に書かれた紹介文だったり、
そういった要素から何かピンとくるものがあったとき、
そんなとき僕は購買意欲をかきたてられるのだ。
井上三太(いのうえ・さんた)さんの
『隣人13号』を買ったときもそうだったし、
福島聡(ふくしま・さとし)さんの
『DAY DREAM BELIEVER』もそうだった。
前にテキストで取り上げた『GANTZ』もそうだし、
弐瓶勉(にへい・つとむ)さんの『BLAME!』もそうだ。
最近ではカネコアツシさんの『SOIL』も該当する。

そしてこの『ホムンクルス』も、そうだ。

ホムンクルスというのは、
最近ではTVの番組名にもなったりしていたが、
もともとは
中世の錬金術師たちが生み出していたとされる「小人」のことだ。
人造人間とでも言おうか。

僕はこの「小人」のことを
今回の『ホムンクルス』を読んで知ったわけではない。
世界で起きたミステリアスな事件とか、
UMA(未確認生物)とか、
そういった「不思議」大好き少年だった僕は、
その手の要素を扱った本も当然好きだった
(今はあんまり、だけど)。
そして「小人」としてのホムンクルスのことは、
そういった本を読んでいた中学生くらいのときに知ったのだ。
だから僕は、書店で
「ホムンクルス」というタイトルを掲げたマンガに出会ったときに、
「ハア?なんだこのタイトル意味わかんねー」ではなくて、
「ん、ホムンクルスかー、どんな内容なんだろう?」と興味を持ったわけだ。
加えて、帯に書かれた紹介文も僕を惹きつけた
(まあもっと言うと、僕は「ホムンクルス」というモノには
深い因縁があるのだけれど、これはまた機会があれば書きましょう)。

主人公は1人のホームレス。
とは言っても、ある日急に新宿にやってきた人物で、
過去はまったくの謎に包まれている。
しかし車は持っているし、背広は着ているしで、
なんとなくその辺のホームレスとは
たどってきた道が違うようにも見える。

彼は車がホントに大好きで、
いつも車内で寝泊りするし、
ハンドルに耳をグィッと近づければ、
車のどこが調子が悪いのか分ってしまうくらいだ。
そして彼は虚言癖(きょげんへき)。
手近なところでは、
ホームレス仲間に自分の職業を
「学校の先生」や「イラストレーター」、
「車関係」などと、ことごとく偽っている。
誰にも本当のことを言わないし、また、群れもしない。
孤独を満喫しているようにも思える。

第1集の中盤で、そんな彼に危機が訪れる。
大事な車がレッカー移動されてしまうのだ。
当然働いていない彼には、取り戻すだけの金がないわけだが、
そのことに対する焦りぶりが尋常ではない。
全身をガクガクと震わせ、顔は汗びっしょりになり、
口を押さえる姿から察するに、吐き気を感じているようでもある。
よほど車に執着があるらしい。偏執的なものが。

そんなとき彼は金を手にする方法に出会う。
正確に言えば、彼は以前にもその方法に出会っているのだが、
まだ追い詰められていなかった彼は、1度それを蹴ったのだ。
だが車を取り戻すために、彼はその方法を使うことにする。

それは人体実験への参加。

もっと細かく言うなら「トレパーネーション」というものだ。
頭蓋骨に小さな穴を開けるというもの。
それで「第6感」が芽生えることがあるのだという。
主人公にその話をもちかけてきたのは、医大生の「伊藤学」。
医大生とは言っても、金髪坊主頭に耳ピアスに鼻ピアス、
腕にはタトゥー(ペイント)ありだが。
彼は報酬として70万円を支払うと言う。
そして伊藤との対話から、
主人公が名越進(なこし・すすむ)という名前らしいことも分る。

なぜ伊藤がトレパーネーションをやりたがるのか、
これは後に明らかになるが、
彼はいわゆる「超常現象」を否定したいらしい。
幽霊が見えるとか、超能力とか、そう言ったモノだ。
だから名越にトレパーネーションを行って、
何も起こらなければ、つまり特別な能力が発現しなければ、
科学的見地にたつ伊藤の正しさが証明されるわけだ。

かくして手術が行われ、
名越の頭蓋骨にはわずかながらの穴が開けられる。
そして、10日間の実験が始まる――

伊藤はお化けトンネルや
殺人のあったアパートなどへ、名越を連れて行く。
そこで名越に何らかの能力が現われたかどうか、
確認しようというわけだ。
だが何も起こらない。名越は何も感じない。

その夜、2人で訪れた飲食店で、
伊藤は名越にESPカードを差し出す。
ESPカードは、一枚ずつに
「○」「△」「+」「☆」
そして「波型」のいずれかが描かれたカードだ。
超能力開発に利用されたり、
いわゆる透視能力の実験に使われたりする。
まあ早い話、カードを全部ひっくり返して並べて、
自分の思ったカードが何回引けるかということで、
超能力の有無を調べたり、またはその開発を行うというものだ。

伊藤はカード25枚(5種類の形が5枚ずつ)を差し出し、
すべてを裏返して並べると、
名越に「☆」型だけを引き当てるように指示する。
5回引いて何回当るかで、能力を見てみようというわけだ。
5回全てが「☆」になる確率は5万分の1以下…。

名越がカードを引こうとすると、
伊藤は「左」でやってくれと言う。
「身体の左側全体で感じるようにやってみてほしい」と。
なぜ彼がそう言い出したのか分らないが、
名越が車の調子を確かめるときや、
または殺人アパートで何かを感じようとして壁に耳をつけるときに、
すべて左耳でやっていたせいかもしれない。
また、名越がウソをつくとき左側の唇が上がる
(=左はウソをつけない、正直)からかもしれない。

名越が右目をふさぎ、
身体の左側を前面に出してカードを引くと――
なんと5枚中4枚が「☆」のカードだった。
伊藤は「調子に乗らないで下さいよ」と強がりながらも、焦った様子。

だが、本当の衝撃はその後、伊藤と別れた後にやってくる――

繁華街を歩いていると、
ふいの風に巻き上げられた枯れ葉が右目に入り、
名越は慌てて手で(右目を)こする。
つまりは、その瞬間、左目だけで世界を見ることになる。

目の前に見えたのは、異形の人間たちだった。

後頭部がスッパリと切れた男性、
紙のように薄い、ペラペラな男性、
左半身と右半身が入れ替わり、手を繋いでいる男性、
全身が木となっている女性、
顔が魚となっている人物、
腰(こし)が胴と足から離れ、回転している若い女性。

恐怖にかられた名越は思わず後じさり、人にぶつかるが、
その人物もまた異形、なんとロボット(!)だった。
しかもヤクザの組長であり、取りまきを多数従えていた。
ぶつかった名越は因縁をつけられ、ドスをつきつけられる。

その最中も名越は左目で組長を見続ける。
ロボットの中には何故か子供が入っていた。
組長が名越にドスを向ければ向けるほど、
名越に見えるその子供は悲しそうな顔になり、
しかも不思議なことに、
彼は自分の小指を鎌(かま)でもって
切り落とそうとしているように見える。

名越が懸命に語りかけるうちに、ふいに子供は泣き出し、
同時に組長の目からも涙が零れ落ちる…。
組長自身もわけがわからず、
その場は慌てて子分と共に立ち去ってしまう。

と、ここで第1集が終わり、ここまで読んだ読者は
名越と共に、何とか話に辻褄をあわせようと、踏ん張ることになる。
いったいコレは何なのか、と。

しかしこの第1集が出た後、
ビッグスピリッツ掲載の『ホムンクルス』は休載に入ってしまった。
筆者の山本さんのこだわりもあり、
(そして『噂の真相』経由の黒い噂もあり)、
なかなか復活しないようなので、
気長に待とうと思って、実際待っていたのだが、
今日偶然本屋で第2集を発見して、慌てて購入した次第だ。

第2集で一気に話は進む。
あまり詳しくは書かないけれど、
名越は伊藤に、異形の人間が見えることを報告し、
伊藤は調査に乗り出す。
そして後ほど、名越の携帯(伊藤からの提供品)に、伊藤から
「彼らの正体はホムンクルスですよ!」と謎めいた電話が入る。
名越は名越で何とか自分に起きていることを知ろうと奔走し、
再び組長と対峙する。
この対峙の中で、一気に謎は氷解し、
あのときなぜ組長が泣いたのか、納得がいく展開が待っている。
そして名越自身の幼少期のトラウマとでも言うか、
過去に起きた暗い事件が明らかにもなる。
なぜ彼が孤独を選んだのかも分る。

僕は正直ここまで話が進むとは思っておらず、
特に名越の過去にあった大きな事件が
ここで明らかにされてしまったのには驚いた。
思わずこのまま終わらないだろうかと心配してしまった(笑)。

7月発売予定の第3集では、
伊藤の言う「ホムンクルス」がどんな意味なのか、
はたして「中世の人造人間」が、
名越に見える「異形の人間」とどう結びつくのか、
そこが見所になるのだろうと思う。
きっとあの異形は、コンプレックスというか、
心の中の闇が具現化したものだと思うのだが…(違うかもね)。
それがなぜ名越に見えるのか…。
「トレパーネーションの効果」という一言では片付けて欲しくないなあ。
そして、名越の左目に映る伊藤の姿が何を意味するかも気になる。
また、過去が1つ明らかになったとは言え、
名越の人間性も、謎が多くてまだまだ気になるし。

とにかく、第1集を読んでも、第2集を読んでも、
まだまだ先が読めない、面白い物語なんですよ、コレは。
なので、みんなこぞって読もう!って趣旨の文章ですコレは(笑)。

(ちなみに先述した『DAY DREAM BELIEVER』は、
今年に入って、ラストを中心に物語を追加収録した
『デイ・ドリーム・ビリーバー・アゲイン』が出ました。
まだ読んでませんが…。
妄想と現実が一気に入れ替わったような、
あの衝撃で謎めいたラストに、
どんな加味が行われたのか気になります)。

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参考資料

山本英夫 2003-2004.『ホムンクルス』 第1集〜第2集. 小学館.


2004/05/24(最終修正日:2004/05/29)
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