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Railway



2006年9月20日。
台風過ぎ去り天気は晴れ。
照りつける太陽は、
夏を思わせるけれど、
風は間違いなく秋の気配。

気持ちがいい。
どうしようもなく。
この空間に身を委ねていたい。

こんな秋の日に、
どこまでも続く線路を見ていると、
なぜかしら、昔のことを思い出す。
何か「話」があるわけでもない。
エピソードは特にない。
ただ、断片的なイメージが、
頭の中で舞い上がって、
ハラハラと、また落ちて、
そして落ち着いていく。

それは何だろう――

一番に思い出すのは、
小学校の下駄箱だ。
卒業式。
理由はよく覚えていないのだが、
遅刻したわけでもないのに、
僕が、朝登校して下駄箱に着くと、
妙に空いていた記憶がある。
辺りには誰もいなかったような気がする。
ただの記憶違いかもしれないが。

卒業式という、どこか甘酸っぱいイベントが
ガランとした下駄箱の光景を、
僕の頭の中に作り上げてしまったのかもしれない。
立ち並ぶ下駄箱は、僕の背よりも大きかった。

気がつくと、女子児童のSが、
僕の目の前にいた。
スポーツ万能で、男勝りで、
いつもはズボンばかり履いているようなSが、
その日は、紺色のセーターにスカートだった。
断っておくが、僕は別にSに
特別な感情はなかった。
ただ覚えているだけだ。
そこにSがいたということを。
Sの上着の裾には、卒業生であることを示す、
赤いリボンがつけられていた。
それだけが、妙に記憶に残っている。
卒業式のことなど、他には何も覚えていないのに。
紺色の中で、一際目立つ赤。
それが記憶に焼きついている。
僕は、Sに案内されるような形で、
卒業生が向かうべき場所へ
向かったのではなかったか。
違うだろうか――

あと記憶の表面に上ってくるのは、
本当に断片的な映像だ。
実家の周りに生えていたキノコを、
始めたての日記に書いたことや、
通っていた塾で、
前の席の生徒の背中に
虫がとまっていたこととか、
学生時代帰省中に、ある日の暑い昼下がり、
自転車でその塾があった場所を通ったら、
もうそこは「貸し店舗」になっていて、
時の流れを、否応なしに感じさせられたことや――

映像はもっと細切れになっていく――

小さな僕が持っていた風船が、
何かの拍子に手を離れ、
駅前の飲食店の軒先に絡まったことや、
後日見たら、そこにはしおれた風船が
ぶらさがっていたことや、
駅に向かうバス内に流れる無機質な、しかし
ローカル臭の漂う、音声アナウンスや、
シャッターの閉まったままの寂れた商店街、
公園で日が暮れた後に花火で闘ったことや、
どっかの知らない女子生徒に怒られたことや、
草むらに横になり夜空を見上げていたら、
流れ星を見つけたことや、
そのとき汗をかいていた頭皮を
すりぬけていった風の冷たさや、
耳元で聞こえた虫の声、
今はもう、なくなってしまったその草むら、
気になる女生徒の隣の席にいたくせに、
彼女から顔を隠そうとして、
頬杖ばかりついていた、あの日の僕、
僕の声に彼女が振り返ったこと、
卒業の日に彼女と目があったこと、
バイト先で同級生を見かけ、
母になっていることを知ったこと、
そして僕には気づかなかったこと、
「頑張れよ」っていう、あの日の言葉、
あの告白、破られた(破ってしまった)約束、
つぶれたコンビニ、いなくなったあの人、
公園の枯れた水、色褪せた芝生、
秋空を飛ぶフリスビー、川の流れ、
坂の下の商店、つぶれた本屋、
赤いジャージ、メリケンサック、
ラケットと、誰かの怒る声、はしゃぐ声、
階段で転ぶ僕、林間学校の肝試し、
仕組まれたカップルと、そこにあったかもしれない真意――

どうでもいいことばかり、
意識の表面に、上ってくる――

転校するといって、転校しなかったあの生徒、
キャンプファイヤーでつながれた、二人の手、
ゴミ拾い・草むしりで、出てきたミミズ、
庭に埋めたまま、出てこなかった亀、
旅行から帰ったら、動かなくなっていたスズムシ、
物置の裏に隠されたもの、金庫の中身、
家族での外食、囲まれた丸いテーブル、
つぶれた玩具(おもちゃ)屋、プラモ屋、
河辺での焼肉、流れた紙コップ、
食い放題で食いきれなかったモノ、
小学校時代、友人宅で食べた柑橘系のアイス、
模範生?だった彼、すぐいじけて泣いた彼、
「お前」という言葉、「君」という言葉、
呼び捨てが、「君」づけに変わってしまったとき、
線路際、男子生徒と一緒にいる、彼女の横を、
自転車で通り過ぎたとき――

放っておけば、
時間を置けば、
まだまだ舞い上がってくるのだろうが、
さほど自分にとって意味があるようにも
思えないので、今回はここらで止めておく。

まーつまるところ、
きっと僕の実家が、
線路際にあるから、
線路を見ていると、
昔のことを思い出すのかもしれない。

BGMは、
Art-Schoolの『Missing』だった――

2006/10/05
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