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Title … SONIC DEAD KIDS
Number
01.fiona apple girl / 02.negative / 03.marchen / 04.斜陽 / 05.汚れた血 / 06.sandy driver

Comment
1998年に大阪より上京後、ソロで活動していた木下理樹(きのした・りき)。そのときにはソロ名義で作品を出していたともいう。持っている人はかなりレアだ。その木下くんが2000年にバンドを組もうと思い立ち、集まったメンバーが日向秀和(ひなた・ひでかず:B)、櫻井雄一(さくらい・ゆういち:Dr)、大山純(おおやま・じゅん:G)。以降、アート・スクールとして活動。今作は2000年にリリースされた1stミニ・アルバム。デビュー作だ。

不穏なベースラインが淡々と鳴るM-1のイントロ。それに乗せて線の細い声が「フィオナ・アップルが鳴り響く地下鉄に/二十一歳の彼女は身を投げる」と歌う。このフレーズだけで作品の世界観が決して陽性のものではないことが分る。メロディは極めてPOPなのだけれど、唐突に「罪、罪」と連呼したり、その言葉の選び方には独特なものがある。全曲に言えることだが、歌詞は決して物語を成してはいない。あるのは 断片的な言葉の積み重ねによって作られるひとつのぼんやりしたイメージ。この作品で漂うのは苛立ちよりも静かな諦め。何かを失うことは、季節の変化を止められないのと同じように仕方がないことなのかもしれないといったような、「過ぎ去る」ことの侘しさ(「I just a give up…」)。割とおとなしい曲調がその感覚を助長しているかも。

この作品はメジャーデビュー前の「シャーロット.e.p.」に寄せた文章の中で黒田隆憲さんが書かれているように、「ローファイ」サウンドだ。音の隙間がクッキリと分るこのスカスカ感。木の皮のようにゴツゴツしたギターの音色。メジャー1stアルバムの『レクイエム・フォー・イノセンス』と比べると一目瞭然。全曲の作詞作曲は木下くんだが、曲調も含め、この頃からすでにこの人の世界観は構築されている。徹底したネガティヴィティ。それも主に自己に向いている。自分が好んで触れる音楽や映画、文学作品などからの表現の引用も目立つ。それだけそれらの作品に共感を覚えているということだろうか。ジャケットのアートワーク内にあるJ.MASCISやWEEZER、MELANCHORY、INNOCENCEの文字。ピンと来る人にはすぐに来るだろう。

ちなみに僕が一番好きなのはM-4。何かもう…いいんですよ青いっつうかセンチなメロディで(説明になってないけど:笑)。



Title … MEAN STREET
Number
01.ガラスの墓標 / 02.ロリータ キルズ ミー / 03.ニーナの為に
04.エイジ オブ イノセンス / 05.ミーン ストリート / 06.ダウナー

Comment
2001年の春にリリースされた2ndミニ・アルバム。ジャケットには蒼い感じの4人が写っている。

CDをプレイすると、前作とは打って変わってクリアになった音が出迎えてくれる。冬の空気のような澄んだ感じだ。青々としたこの響きの方が彼らの世界観に似合っている。この音作りの変更は正解だと思う。

曲はバラエティに富んでいるのだけれど、それでもやはりアート・スクールらしさがどの曲にも備わっている。M-1ではギターのつまびきからイントロが始まり、やがてアート・スクール独特のブルーワールドが展開されるが、印象的なのはピアノの音色。何かメロディを鳴らしているわけではなく鐘のように定期的に「ポーン」と鳴っているだけなのだけれど、曲の終わりでは単独で空しく鳴り響く。この終わり方、ナイン・インチ・ネイルズの“クローサー”を少し思い出したりした。M-4などタイトルを見るとスマッシング・パンプキンズ(スマパン)を思い出さずにはいられない。そう、スマパンと言えば、木下くんはニルヴァーナへの熱い想いを持っていることが色んなとこで取りざたされているし、CDのクレジットを見ても「Kurt Cobain」の名がSpecial thanksに挙げられている(他にはJ.マスシスやイールズのE、マーティン・スコセッシ、レオス・カラックス、ボードレールなどが挙げられている)が、ビリー・コーガンの名前はどこにもない。僕はアート・スクールのギターフレーズの中にスマパンを感じることが多いんだけれど。僕の勝手な想いにしか過ぎないけど、それでもスマパンもしくはビリーをthanksに入れて欲しい(笑)。

この頃はまだ「轟音ギターポップ」とでも呼べそうな楽曲はほとんど見受けられない。強いて言うならM-6あたりがそれにあたるだろうか。やはり焦燥感や苛立ちよりも諦め、もしくは諦めからくる気だるさが感じられる。声の通りは前作よりはるかに良くなり、歌詞が聞き取りやすく、また徹頭徹尾の喪失感はより明確になった。きっと木下くんのこの表現には賛否両論があるだろう。しかしこれをナルシスティックすぎるという言葉で切り捨てるのは簡単で、この表現・世界観を色んな意味で灯火と認める人もいるということは忘れてはいけない。



Title … MISS WORLD
Number
01.miss world / 02.1965 / 03.ウィノナライダー アンドロイド / 04.ステート オブ グレース

Comment
2001年に発表された1stマキシ・シングル。僕が初めてまともに聴いたアート・スクールの音源でもある。

「君が失くしたら 僕は死ぬのさ/君が失くしたら 生きていけるはずがない」と、M-1の冒頭で歌われる。「君を」ではなく「君が」。それが何であるにせよ、貴方が「何か」を失くしたら、それだけで僕はもう生きていけないという、イノセントへの強い憧憬。M-2でも「この世界で貴方が 汚れた時は生きていたくはないのさ」と歌われ、同種の表現が行われる。飽くことのない希求。そんなしつこすぎるほどの喪失感に反して、曲調は今までになく耳なつっこい。太いギターを出したり引いたりと、静と動の対比がはっきりした曲構成。木下くんの歌声も、徐々に青臭いだけではなく、ヒリヒリとした切迫感を持ってきたように感じられる。POPなメロが轟音ギターに乗って疾走する瞬間には、歌詞に反してカタルシスを覚えてしまう。もちろん、POPなメロがなくとも、歌詞が胸に抱えているある種の膿(うみ)を象徴するようなものであれば、そこに自己の心の声を重ね合わせて、束の間の爽快感を得ることは可能だろうけれど。しかし何はなくとも、この曲が持つPOPさこそが、アート・スクールをただのナルシスティック文系バンドと異なるものにしているのだと思う。

収められている楽曲各々が何故か僕に同一のノスタルジアを感じさせるんだけれども、1曲1曲の表情が異なっているのと、冗長すぎもせず短すぎもしない絶妙なバランスのせいで、決して飽きがこず、何度でもそのノスタルジアに没入したくなる。そして僕はふとプレイボタンを押してしまう。コンパクトだけど、良い作品です。ちなみに4曲目終了後にはシークレット・トラックとして“車輪の下”を収録。



Title … シャーロット.e.p.
Number
01.foolish / 02.シャーロット / 03.プール / 04.fade to black / 05.i hate myself / 06.it's a motherfucker

Comment
2002年に発表された3rdミニ・アルバム。メジャーデビュー間際の作品になる。

冒頭からブリブリしたハチの羽音のようなギターフレーズが印象的なM-1。音程を外したような歌い方も冴え渡る(?)。M-2はこれまでになかったような淡々と、しかしメロディアスな楽曲。冬の湖、そしてその上を渡る冷たい風を連想させるのはなぜだろう――「悲しい夢を見た、誰かが待ってる、そんな気がして」、「次に目覚めたら、誰かを愛せる、そんな気がして」、「次に目覚めたら、全てが消える、そんな気がして」。。 ――誰かが待っていたり、誰かを愛せる「気がする」ということは、現状がそうではないということだ。その悲しさ。そしてただそんな「気がする」だけにしかすぎない空しさと、「そんな気が」する世界さえ消えてしまう予感。空しい。二重三重の虚無感が押し寄せてくる。冷え冷えとした良い曲。

続くM-3、M-4、M-5と、ラウドさとPOPなメロディが融合したアート・スクール節が炸裂する。それら3曲とも、歌詞中で語りかけられている、もしくは記述されているのはおそらく「女性」――「サンディ 忘れないでって 乾ききって 彼女は笑って」、「いつも硝子みたいな君に溶けてた」(M-3)。「太陽の下乾ききって 彼女は死んだ、死んで行った」、「水曜日に天使は去った 天使は去った 僕を残して」(M-4)、「君もあんな美しい人の仲間かい?/この僕はその中に入れるだろうか?/照らさないで、醜い顔をしているさ 照らさないでくれ」、「太陽に永遠が溶けたときに俺を殺してくれ」(M-5)。――M-3、M-4では、その表現はどうあれ、「女性」は僕を置いて去っていく。見方によっては失恋の歌詞とも取れないことはないけれど、やはりそこには「喪失」のイメージがつきまとう。M-5で放射されているのは圧倒的な劣等感・疎外感。「その明りを消してくれよ」という表現は上記の「MISS WORLD」収録の“ウィノナライダー アンドロイド”でも行われてる。

メロディがPOPであり歌詞が断片的である分、うっかりしていると言葉は耳を素通りしてしまうけれど、注意を向けて深く踏み込んでいくと、とってもナイーヴな感性が見えてくる。別に歌詞に対して敏感にならずとも、今作はその音だけで多くの人を魅了するであろう、これまた好盤です。



Title … REQUIEM FOR INNOCENCE
Number
01.boy meets girl / 02.リグレット / 03.diva / 04.車輪の下 / 05.メルトダウン / 06.サッドマシーン
07.欲望の翼 / 08.アイリス / 09.フラジャイル / 10.foolish / 11.シャーロット / 12.乾いた花

Comment
アート・スクールのメジャーデビュー・アルバムにして彼らにとっての初のフル・アルバム。2002年リリース。これより前に、メジャーデビュー作としてシングル「DIVA」をリリースしています。

まずこのアルバムを一聴してこれまでと違うのはそのテンション。初めから終わりまで高いレベルで維持されたまま、風のように走り抜ける。疾走しまくりのヒリヒリ感溢れるギターと、少し重めの確かなリズム。そして非常にPOPなメロディが見事に融合。「シャーロット.e.p.」あたりから確実に説得力を増してきた木下くんの独特の青い声は、楽曲の疾走感・焦燥感をさらに倍化させている。これまでよりも確実に強い感情表現。こうやって叫んでいれば、いつかきっとすべてを取り戻せるんじゃないかと、そう信じているかのように、圧倒的なエネルギーに満ちている。そしてここでもやはり中心になっているのは喪失感・孤独感・劣等感――「偽った 苦しくて偽った 車輪の下 誰一人信じれず生きてきた 笑えばいい / 初めての注射器とモンマルトル 広場のリス / 昔からそうやって生きてきたんだ」、「灰になる前に / 助けて 助けてよ」、「君の髪も 匂いも この気持ちさえも / ただ消え去っていくって そんな気がしてさ」、「シャボン玉が舗道に落ち 砕けた瞬間 / この刹那を この刹那を信じた」、「ごらん夢は今目の前で崩れて行く」、「シャーロット、僕を焦がして シャーロット、それが全てで シャーロット、空っぽなだけ シャーロット、僕達は皆」

そして、他者と繋がりたいという願望――
「そうさ 今日は 繋がれていたい 繋がれていたいよ 今日は」

こういった表現は、僕が何気ない瞬間に自覚する孤独癖が、そんなに悪いもんじゃないんじゃないかと、そう思わせてもくれる。いいよね別に(あんま良くないけど:笑)。まあそういった歌詞の側から見たコメントはさておいて、僕はアート・スクールの凄さってのはやっぱり楽曲の素晴らしさにあると思う。本作を聴きなおすと改めてそう感じる。この2〜3分の中で展開される、非常に分かりやすいメロディ。あまり幅があるような気はしないんだけど、それでも本作は、特に耳を持っていかれてしまうのだ。これはやはり「才能」。1曲目からラストまで、捨て曲なしの大名盤。強いて好きな曲を挙げるならM-5、M-6。他ではあまり聴けない木下くんの青い叫びがたまらない。



Title … SWAN SONG(DISC1)
Number
01.lily / 02.dry / 03.out of the blue / 04.lovers / 05.skirt / 06.swan song

[DVD VIDEO CLIPS]
01.diva / 02.sad machine / 03.evil / 04.ロリータ キルズ ミー(live)

Comment
2003年第2弾シングル。本作はDISC1とDISC2が同時リリースされており(しかも限定生産)、DISC1はDVDとの2枚組、DISC2はDVDなしで3曲しか収録されていないものの、うち1曲はDISC1未収録。ファンなら是非とも2枚そろえたいところ。

全体を通して聴いた感じは、何となくインディーズ時代の「MISS WORLD」に似て、落ち着いている。過ぎ去っていく刹那に対して「怒」ったり「焦」ったりするよりも、「無常」を感じ「あきら」めそうになる(「この雨が止む事はないさ/永遠に少しずつ死んでいく」。「名前がないこの惑星で名前がない恋人と/白日にさらされてハッピーエンドを夢見てた/何一つかなわずに/何一つかなわずに」)。 けれどやはり恋焦がれずにはいられない(「彼女の匂いや指が/激しさ/スカートの色が/どうして取れやしない/どうして忘れられない」。「君のほくろの場所や匂い/すがって、ただすがって/それが何で取れやしない/そうもがいて/ただもがいて」)。 そのやるせなさ。1つ前のシングル「EVIL」が個人的にピンとこず、「これからこういう方向に変わっていくのかなあ」、なんて思っていた僕には、このシングルは歓迎だった。やはり木下くんの創作欲を刺激しているものは、以前と変わっていない、そう感じることができた。

今作では疾走するような楽曲はないけれど、それには全然まったく問題なし。蒼いメロディと、手の届かない瞬間を求める歌詞。調子外れのヒリヒリした声と、ときにセンチメンタルな鋭いギター。もはやそれだけでリピート。 僕が1番好きなのはM-4の“lovers”。「MISS WORLD」収録の“1965”を彷彿させる淡々としたリズムにセンチなメロ。気だるそうに頭を左右に振りながらギターを弾く木下くんの姿が浮かんできます。

僕はアート・スクールの楽曲を聴いているといつも頭にあるイメージが浮かびそうになるんだけど、それはつかめそうでつかめず、いつも消えてしまう。それは遠くに行ってしまった、懐かしい記憶かもしれない。「あの頃は良かった」なんて、ノスタルジアかもしれない。だけどつかめない。だから僕は仕方なくCDをリピートさせる。僕は音楽の技術的な面(たとえばコードとか曲の構成とかね)に詳しくないから、そういう方向からの説明ができないんだけど、タイトルにもなっているM-6のイントロは僕の中で「アート・スクール」印だ。なぜなら、例のイメージ、アート・スクールの楽曲が僕に喚起させておきながらも決してつかまえさせないイメージに、最も近づける気がするから。



Title … UNDER MY SKIN
Number
01.under my skin / 02.junky's last kiss / 03.lucy

Comment
アート・スクールの2003年第3弾シングル。上記の「スワン・ソング」から僅か2ヶ月後のリリース(!)。

タイトル曲は、前作の「スワン・ソング」とは打って変わった印象の、スピーディなベースのイントロ。続いて一気に攻撃的なギターが爆発する。冒頭の「小さな冷たい手や、冬の日の髪の匂いも」という言葉で僕の思春期の記憶がくすぐられる。イノセントと言えるほどには澄んではいなかったろうけど、今より知らないことが多くて、隣の席の異性が特別な存在だった時期。なんとなく、そんなときを思い出す。それは僕にとって「ひどく赤い傷跡」ではないけれど。ハハ。M-2は左右のギターの組み合わせが印象的な新しいタイプの楽曲。でも僕は、声の使い方が少し演出がかかっていて、あまりこの曲が好きではない。だからって、どういう歌い方が良かったかっていうと、それも分らんのだけど。M-3は歌詞の「教会に流れるこの水は」という言葉がイメージさせるのか、澄んだ水の流れる、緑多き公園が僕の脳裏に浮かび上がってくる。ギターの流麗な音色は、さながらそこに降り注ぐ日光のよう。と、サウンドだけ聴いていると非常に優美なのだけど、そこに乗る歌詞は「そうさ違う人間に生まれたかったんだ/きっとましだった」と、自己否定気味。

全3曲だからか、少しパワー不足の感が否めないシングル。「スワン・ソング」が素晴らしかっただけに残念。タイトル曲の勢いで最後まで突っ走っていたら、また違った印象だったかもしれない。



Title … LOVE/HATE
Number
01.水の中のナイフ / 02.evil / 03.モザイク / 04.butterfly kiss / 05.イノセント / 06.アパシーズ・ラスト・ナイト
07.love/hate / 08.ジェニファー’88 / 09.bells / 10.skirt / 11.under my skin / 12.プールサイド
13.しとやかな獣 / 14.sonnet / 15.seagull
※15曲目は初回プレスのみに収録。

[CD-EXTRA VIDEO CLIPS]
01.swan song / 02.lily

Comment
2ndフル・アルバム。2003年リリース。アルバムリリースは、前作から約1年ぶりであるけれども、2003年に入ってから本作発表までに3枚のシングルをリリースしていることを考えると、かなりのハイペース。

某誌のレヴューを読んだとき、ハッとした直後にウームと唸った。僕はアート・スクールは「たったひとつのことをたったひとつの方法で伝えようとする」バンドだと思っていたし、今もそう思っている。歌詞を読めば、インディーズ時代から、そこで使われている言葉はほとんど変化していない。アレンジだとかリズムだとか、難しいことは分らないけれど、少なくとも楽曲にも一聴して抜本的な変化はない。今作、器用になった印象も受けるのだけれど、反面、その結果としてしようがないことなのだろう、湧き上がる焦燥感に駆られて疾走せずにはいられないような、直情的な楽曲が少なくなったようにも感じられる。ミドルテンポのメロウな楽曲が目立つせいで、1stに溢れていたあの剃刀のようなイメージ、それが薄れている。僕はアート・スクールが多用している蒼いギターフレーズが大好きなので、もっとガンガン走って欲しかった。

そして曲の配置にもアンバランスさを感じてしまう。パズルの1ピースずつは問題がなくとも、すべてを組み合わせてできあがったのは、どこかまとまりの悪い絵であったような、そんなイメージ。まとめるのに苦労するほどに、楽曲に多様性がでたということかもしれないけれど。

ソングライター、ヴォーカリストの木下理樹くんにとって、表現という行為がどんな意味合いを持つのか分らないけれど、彼にとって「歌う」ということは溜まった膿を吐き出すような作業になるのだろうか。だとしたらこんなにしつこく喪失、失望、そして希求を延々と歌いつづけたなら、いつか空っぽになってしまうのではあるまいか。いらぬお世話だと思うけれど、ここまで世界観が固定されていることには尋常でないものを感じる。このあまりに強固な世界観、僕はそれが好きな一方で(もしかしたら好きだからこそ)、この徹底振りに少し懐疑の念を持ったこともあったけれど、そのことはまた機会があれば…。何にせよ、1stでは青々と燃えていた炎が、今作では幾分くすぶっているようで残念だった。

本作リリース後、1ヶ月しないうちに、バンド側はオリジナルメンバー4人での活動を2003年いっぱいで休止することを宣言。そのことを考慮すると、今作リリースまでの数ヶ月にわたる精力的なリリースは、オリジナルメンバーが上げる最後の咆哮(ほうこう)だったのかもしれない。関係ないかもしれないけど。



Title … BOYS DON'T CRY - LIVE 2003 DECEMBER -
Number
[CD]
01.水の中のナイフ / 02.negative / 03.evil / 04.モザイク / 05.ガラスの墓標 / 06.foolish
07.diva / 08.エイジ オブ イノセンス / 09.ダウナ― / 10.butterfly kiss / 11.車輪の下
12.miss world / 13.ウィノナーライダー アンドロイド / 14.love/hate / 15.ジェニファー'88
16.サッドマシーン / 17.シャーロット / 18.ロリータ キルズ ミー / 19.outsider / 20.fade to black
21.fiona apple girl / 22.under my skin / 23.斜陽

[DVD]
01.水の中のナイフ / 02.negative / 03.diva / 04.サッドマシーン / 05.ガラスの墓標
06.ロリータ キルズ ミー / 07.under my skin / 08.プールサイド / 09.ニーナの為に

Comment
オリジナルメンバーでの最後のツアー『TOUR03〜LOVE/HATE〜』から選りすぐった音源、そして映像を収めたCD&DVDの2枚組作品。2004年リリース。音源として収録されているのは、名古屋クラブクアトロ(03年12月10日)、大阪BIG CAT(03年12月11日)、そして新宿リキッドルーム(03年12月13日)からの抜粋。映像の方はすべてツアー最終日の新宿リキッドリームの模様を抜粋したものだ。

当たり前だけど、これは第一期アート・スクールの締めくくり的な作品だ。結成当初から共に活動してきた4人のメンバーの内、Gの大山くんとBの日向くんが抜けるということは、そこでバンドが大きくターニングポイントを迎えるということに他ならない。特にアート・スクールにおいては、作詞作曲はすべてVo&Gの木下くんが手がけているとはいえ、ジャケットに大山くんのイラストを多用し、またそれがバンドの世界観にマッチしたものであったこと、そしてライヴを観て初めて僕にも分ったことだが、日向くんが決して平凡なベーシストではないということ。こういう点を考えれば、2人は、ここまでの「アート・スクール」というバンドを支える大事なメンバーだったはずだ。その2人が脱退するのだから、これが節目でないわけがない。ということで、この音源には感傷的な要素も多分にあるのではないかと思っていたのだけれど、バンド自体は今後も存続するということもあるんだろう、それほどシンミリした印象は受けなかった。もちろんその場にいなければ感じられなかった「何か」もあるのだろうけれど。

良くも悪くも僕がこの作品を聴いて分ったのは、自分が彼らの楽曲を好きなのは、そこに「何がしかの救いを見出しているから」ではないということ。圧倒的な虚無感に酔いしれたいからでもない。彼らの曲と、その歌詞から喚起されるイメージが好きなのだ僕は。「いつか見た冬の散歩道 とても晴れた日のクリスマス / 君の耳たぶが陽に透けて それを綺麗だと思った」、「君の胸にある小さな傷をずっと見ていた / 美しい秋の木々を見に行こう、正気なうちに / 悲しい夢を見た、誰かが待ってる そんな気がして」、「小さな冷たい手や、冬の日の髪の匂いも / 何か伝えようとして 震え気味になる声も / 忘れないでって云ったっけ? 忘れないと答えた」、「おとぎ話と殺人鬼 / 可愛いさみしがり屋の豚 / スカート揺れた / My sun with die / 行くつく果てで / 君がパラソルを振っていた / その眼 その手 その眩しさは / やがて血で染まるラストシーンへ…」。

ときには無垢、ときにはグロテスク、そんな相反する要素が同居する世界観が好きなのだ。この音源には僕の好きな「疾走する」アート・スクールの姿が刻み込まれているし、ここまでのバンドのベスト的な選曲であるので、正に申し分ないのだけれど、個人的な文句を言うとすれば、前にライヴレポートにも書いたのだけれど、やや繊細さに欠けるという点だ。何となく歌詞と演奏が乖離しているイメージ。繊細な歌詞と、轟音ギターポップとも言われる音楽が結びつくことで生まれる、アート・スクールの非常に微妙な世界観が、損なわれているような気がしてならない。そんな文句があるせいだろうか、僕が最も良いと思うのは、M-5“ガラスの墓標”、M-17“シャーロット”、そしてM-23“斜陽”。特に、“斜陽”はいつ聴いても良いです。

DVDは木下くん(スミスのTシャツ着てました)ばっかし映ってて何か不服でした。個人的には日向くん見たかった。あとお客さんみんな笑顔のようだったのが印象的。後は言うことなし。



Title … スカーレット
Number
01.スカーレット / 02.rain song / 03.クロエ / 04.tarantula / 05.1995 / 06.apart / 07.君は僕の物だった

Comment
2003年いっぱいでオリジナルメンバーでの活動に終止符をうったアートスクール。しかし翌年3月には、早くも新メンバー戸高賢史(とだか・まさふみ:G)、宇野剛史(うの・たけし:B)を迎え、活動を再開。以降ライヴ活動を積極的に行ってきた彼らが初めて出す、スタジオ音源。2ndアルバムから1年も空いていないことを考えると、これまたハイペースだ。 ちなみにタワーレコード初回生産限定盤。

第2期アートスクールの幕開けとなる作品とは言えど、やはり曲作ってるのは木下くんなわけで(今回はM-1のみ、Gの戸高くんと共作!)、まったくと言っていいほどに、これまでと違いはない。新メンバーを収めた写真からくるイメージが大きいのかもしれないが、肉体性が薄くなった気もする。日向くんと大山くんの在籍時にライヴを見た僕は、木下・大山組と、櫻井・日向組の体格差、凸凹具合がすごく印象的だった。特にリズム隊の肉体性は、「アートスクール」というバンド名や、音源から感じる文系的な佇まいとズレがあって、それがアートスクールの楽曲の不器用さというか、「隙」のようなものと、僕の中で結びついていた。だけれども、なんか新メンバー2人とも線が細そうで、良くも悪くも、「アートスクール」な感じだ。手短に言うと、音とバンドのヴィジュアルが真っ直ぐに結びついた、そんな印象。なんて、ダラダラ書きすぎだな(しかも矛盾してる気がする)。

演奏がしなやかになった気がするのは、新生アートスクールだからかどうか分らない。なんでってワリと彼らは作品によって音像が違うから。楽曲は基本的には2ndアルバムの路線を引き継いでいると思う。M-1は(僕の好きな)蒼いギターフレーズが走る、ブルーワールドな楽曲、M-2,3,4,5と、カラーは違うながらもミドルテンポな楽曲が続き、M-6は“アンダー・マイ・スキン”ばりのバーストチューン、M-7は再びミドルテンポでしんみり締めくくる…といった具合に、何か落ち着いた印象の楽曲が多い。M-3の“クロエ”などは(クロエってクロエ・セヴィニーか?)、新しいテイストの楽曲で面白いんだけど、作品全体モッサリした感じで、僕としては抜けきらない。何だ、何が足りないのかと考えた末、出てきたのは、やはり2ndと同じく「焦燥感」だった。緊張の糸が緩んだような。感情を飼いならしてしまったような余裕さ。私生活が落ち着いてきたのか木下くん(酒ばっか飲んでるみたいだけど)?雑誌で言われるように、歌詞も型にはまってるし、曲の構造だって素人耳にも単純なことが分る…しかしそれでも聴いてしまう不思議な力がある。だからこそ、そろそろズルッと皮が向けたところが見たい気持ちになった。ということで、外部からのプロデューサーを招いた作品に期待(デイヴ・フリッドマンはどうなった)。



Title … LOST IN THE AIR
Number
01.lost in the air / 02.flowers / 03.羽根 / 04.刺青 / 05.i can't touch you / 06.perfect

Comment
2005年冒頭リリースのシングル(orミニアルバム)。タワーレコード限定販売。第二期アートスクールとしては2枚目の作品になる。

タイトル曲は珍しく(?)凝った構造になっており、物憂げなヴォーカルの後に「ガッ、ガッ、ガッ」という単音フレーズが続き、それを境に場面が一気に切り替わる。この表現方法がなんとなくドラマや映画における画面の暗転や、事態の急変を告げる効果音などとイメージがだぶり、映像にも強い関心を示す木下くんらしさを感じたりする。よくよく聴けば、同じメロディが交互に繰り返されているだけなのだが、不思議な魅力のある曲で、ここまでのアートスクールにはなかったタイプの曲に思う。続くM-2も、アジカンみたいなビートに加えて、エンジンかけて発車を待つばかりの車のようなギターフレーズとベースラインを巧みに使うことで、高揚感に加えて、緊迫感・焦燥感をも感じさせてくれる。メロディも良くていい曲だと思う。

僕はM-4が1番好きで、やけに耳につく硬いスネアの音も好きだし、なんてことのない名詞の羅列(シャンプーの匂い、刺青の模様、まつ毛の長さ、折れそうな足首、10月のカノン、コンバースの靴、彼女が好きだったあの歌)によって導かれる、ボンヤリした、けれどどこか切ないイメージも大好きで、何回でも繰り返し聴いてしまう。『スカーレット』収録の“1995”とイメージが重なるせいか、1人浜辺で海を見ながら回想に浸る光景が浮かんできたりもする。M-6みたいなサンプリングを使ったミドルテンポな楽曲は以前から見られたが、これは「アートスクールというバンド」よりも「木下理樹というシンガーソングライター」の一面が出ているのだろう、BRIGHT EYES(ブライト・アイズ)等を称える木下くんらしい楽曲だと思う。自分には何かが足りないと思い、パーフェクト(に思える)誰かに憧れる、その心情、それは自分の側からしかものを見ておらず、自分勝手・自己中心的と言えばそれまでだが、完全に主観を排除して、客観的にものごとを見ることなど不可能であるからして、憧憬は強いものであれ弱いものであれ絶えずつきまとうもので、誰もそれを腹のそこから笑うことはできないだろう。そのやるせない自分勝手な憧憬を声を大にして歌える木下くんは、強い人なのだろうか、弱い人なのだろうか、ふとそんなことを考えてしまった。

作品全体としては、第二期アートスクールの1作目である『スカーレット』よりも断然こちらが好きで、こちらの方をよく聴くのだが、歌詞の力が依然弱い気がしてしまう。木下くんがずっと同じことを歌っているので、僕がそれに慣れてきてしまっただけなのかもしれないが、メロディはいいのになあ残念だなあと、そう思う部分がある。歌詞を書くのがしんどいというようなことを日記でも書いていたが、 なんだかんだ言ってもアートスクールの一ファンである僕は少し心配してしまったりもした。



Title … あと10秒で
Number
01.あと10秒で / 02.汚されたい / 03.イディオット / 04.little hell in boy / 05.カノン / 06.僕のビビの為に
Bonus Track あと10秒で John agnello mix ver.

Comment
第1期終了後、インディで活動していたアート・スクール。とは言ってもライヴ活動は精力的だし、作品もコンスタントに出してきた。そしてここから彼らは再びメジャー(ポニーキャニオン)で挑戦していくことになる。2005年リリース。正直僕は(というか多くの人はそうだろう)インディだからとかメジャーだからとか、聴く際に気にしないし、好きなアーティストの作品が手元に届くのであれば、活動の場がインディだろうとメジャーだろうと関係ない。だがアーティスト側、届ける側にとってはやはり非常に重要なことなのだと思う。そう思うからだろうか、今作を聴くと、アート・スクール、いよいよ何かやってくれそうな気がする。

1曲目は、もう前からライヴでは披露されていたという(僕は行ってないから聴いたことないが)名曲の誉れ高いナンバーだ。がしかし、僕は今作の中ではあまり好きではない。いや好きだけど、本作の中では、あんま…。イントロの音1発で「あ、アート・スクールだな」と分る。その後にいきなり走り出すダンスビート。こりゃあたまげますわ。今までなかったよねこんなの。すんごく聴きやすい!しかし聴きやすすぎる!(←なんてわがままな)。なんかキャッチーなメロと軽快なビートに乗っかった歌詞が頭の中をスルーしてしまう。少しだけシロップ16gの「リアル」に近い感触だコレは。しかし今作で初めて彼らの音に触れた人はどう思うかな。「何もねぇ」って歌詞にどんな感想を持つだろうな。衝撃を受けるか、笑うか、そこがやはりアート・スクールに対する好き嫌いの分かれ目にも思う。まあ実際は「それ以外は」「何もねぇ」だからね。まったく「何もねぇ」わけではないけれど。

M-2以降の流れが僕は大好きで、“汚されたい”を初めて聴いたとき木下くんの歌い方が変わったように感じました。歌、絶対上手くなったように思う。決して爆発しないこのメロディ。ギターが激しく鳴るわけでもないし、木下くんが叫ぶわけでもないのだけれど、その秘めた感じがまた好ましい。対照的に、M-3では音はバーストしまくって(だけどどこか透明だ)いるのだけれど、歌は落ち着いている。思えば最近木下くんは作品中で叫ばなくなった。『レクイエム・フォー・イノセンス』では僕の頭がジンジンするくらいに叫びまくっていたのに。M-4だって(僕は1番好きなのだけれど)、昔のようにゴリゴリギターでやることもできただろうに、こういうアレンジにしたのはなぜなのだろう。歌っていることはずっと同じようでも、少しずつ木下くんの好む音や鳴らし方は変わってきているのかもしれないって、今作で僕はようやくそう思った。それにM-5では、これまで散文的で抽象的であった歌詞が、珍しく意味をなしている。それにM-6も、これまでには収録されたことのない、のんびりした、のどかな田園風景を浮かばせるようなインストゥルメンタルだ。麦わら帽子と小川とモンシロチョウ。こういう音を思わせぶりに忍ばせることに顔をしかめる人もいると思うんだけど、僕は歓迎です。作品としてね、ここでこの1枚に幕を下ろすというか、閉めるぞみたいな、聴いてて気持ちいいんですよ、浄化っていうか、しっくりくる(バンド側はどういうつもりで入れたのかしれないけれど)。そして、M-6終了後にはボーナストラックがあるんですが、んー、正直これは余計かなあ(ごめんなさい:笑)。あーんまり変わってないし…でもどちらかと言えばコチラの方がオリジナルよりアート・スクールっぽい気がしないでもない。しかしリミックスだったら、僕はやはりテクノ系のアーティストにやって欲しかった。

なんか変化ばかり抜き出して書いてしまいましたが、僕は本作非常に好きです。「ミス・ワールド」や「スワン・ソング」といったように、アート・スクールのミニ・アルバムにはいくつか(個人的)傑作があるけれど、これもその1つに入ると思う。これを聴いて、アルバムが待ち遠しくなると同時に、2年半ぶり?くらいに久々にライヴを観たくなりました。



Title … PARADISE LOST
Number
01.waltz / 02.black sunshine / 03.ダニー・ボーイ / 04.forget the swan / 05.クロエ / 06.あと10秒で
07.欲望 / 08.刺青 / 09.love letter box / 10.perfect kiss / 11.paradise lost / 12.僕が君だったら
13.影 / 14.天使が見た夢

[Bonus Disc]
01.waltz Dave Fridmann mix / 02.lost in the air Tony Doogan mix

Comment
アート・スクール。3rdアルバム。2005年リリース。初回限定でボーナスディスクつき。ようやっと本作で、海外プロデューサとの仕事が実現。お相手は、世界をまたにかけるロックバンド、MOGWAI(モグワイ)との仕事が有名なTony Doogan(トニー・ドゥ―ガン)。 ゲストプレイヤーとして、これまた豪華に、モグワイのキーボーディストや、解散してしまったデルガドスのエマなど、日本にいたならコレはまずできないだろうという、コラボーレーションが。日本人アーティストとしてはACOさんやachicoさんが参加。achicoさんは、アレだ、木下くんの別バンドKAREN(カレン)のヴォーカリストでもある。

各所で変わった変わった、良いよいと、べたぼめ状態であったけども、果たして僕の耳にはどうであっただろうか。変わったかどうか、ドレ、聴いてみた。使われている言葉はほとんど(ほとんど、ね)これまでと同じだ。だが肝心なのは、「生きていたい」、「生きのびる」、「生きれそう」など、「生」に繋がる言葉が、散見できるところだ。確かにインディの頃の「ミーン・ストリート」にも(あるいは“乾いた花”“君は僕の物だった”にも)、「生」をイメージさせる部分が多々あったけれども、本作では言葉の紡ぎ方、楽曲が持っている柔らかさ、木下くんの歌い方(表情豊かになったね!何テイクもやったせいか or 純粋に成長なさったのか)、変化を遂げたこれらの要素が絡み合って、その響きは以前とは違ったものになっている。木下くんはテーマ(と言っていいのか)は、「すべてはあらかじめ許されている」ということだと、HPにコメントを載せていたが、なるほど、ここにあるのは確かに「許し」。大雑把に言えば、「生きてたっていいじゃない」みたいな。全編そうだとは思わないんだけれど、“欲望”の“愛したって 憎んだって / 君がいても いなくたって / 人は皆一人 なんて そんな事は知ってるさ”、“love letter box”の“she don't know 世界は君の物だって / she don't know 演技は止めていいんだって 知らない / いつだって 此処で 待っている / こんな日は生きれそうだから”、“perfect kiss”の“いばらに裂かれた 傷口 / あらわに さらして歩こう / あまりに 空いた 身体に / 光を射つように 光を射つように”には、特にそんなテーマを強く感じる。ふと気になって、過去の歌詞をパラパラと見てみたら、以前は回想(“○○だった”、“○○で”等)と、願い(たぶん“笑って”が1番多いだろう、他にも“助けて”、“その灯りを消してくれ”、“照らさないでくれ”、“殺せよ”等)、そして問いかけが多かった。そしてそれらの内、「願い」は、1st以降、顕著に減っている。僕は気づかなかったよ。ごめんね。木下くんは、強くなったということだろうか。う、ううん、そんな気がしないでもないな。で、話を元に戻すと、あらかじめ「こういうのを作ろう」と思って作ったみたいなので、どうだろう、これは、本作は、現時点での「木下理樹」を落とし込んだ、という感じではないと思う。個人的には。あるいは本人も預かり知らぬところで、そうなのかもしれないけれど。

“クロエ”でみせたファンクなテイストが、本作ではさらに“perfect kiss”の中で、濃くなった形で披露されている。“あと10秒で”のダンスビートもこれまでの彼らにはなかったものだ。M-1みたいな、凝った空間的処理もなかったしね(僕はこれで初めてアートのこういうミドルな曲をいいと思ったよ)。そんなように、新しいことをやり始めているところをみると、うん、まだまだ過渡期なんだろうな、と思う。僕は、彼らはずっと同じスタイルでやっていくんだと思ってたんだけど、こうやって、そのときどきで、詞世界には木下くんの(固定されているようで、やはり微妙に揺らいでいる)心情を少なからず落とし込みながら、サウンドにはバンドのスキルと見合うだけの新しいものを反映させながら、変わりつづけていくのだろう。だから(って言うのもどうかと思うけど)、1stにいた、「何か」から逃げながらも、「別の何か」を必死でつかもうとして、もがきまくって、叫びまっくていた、アート・スクールはもうここにはいない。間違いなく、いない。あの頃のアートのサウンドは、僕の人生における何がしかの焦り(それは常に姿を変えながらも、絶えずつきまとう)と見事にシンクロして、僕はそこに自分をもぐりこませることが、出来ていた。しかし、いつからか、アートの音は少し僕に遠くなった。けど、けれど、それでも、これは確かに、間違いなく、「いいアルバム」だと思う。2ndと同じく、本作も全曲良いとは決して思わないし、ちょっと冗長な気もするけれど、傑作だと思います。一皮むけた(トニーの手に因るところも大きいだろう)。1番好きなのは、やっぱり“刺青”。あと、ボーナス・ディスクは、いまいち面白くなかった。別に書くこともない。



Title … SLEEP FLOWERS
Contents
[DISC1:2005.11.6.SHIBUYA-AX“PARADISE LOST”TOUR 2005 Final]
01.waltz / 02.水の中のナイフ / 03.evil / 04.black sunshine / 05.miss world / 06.foolish / 07.イディオット
08.プール / 09.影 / 10.love letter box / 11.ウィノナ―ライダーアンドロイド / 12.diva / 13.クロエ
14.僕が君だったら / 15.ダニー・ボーイ / 16.forget the swan / 17.サッドマシーン / 18.perfect kiss
19.刺青 / 20.カノン(Acoustic) / 21.skirt(Acoustic) / 22.スカーレット / 23.車輪の下 / 24.アイリス
25.ガラスの墓標 / 26.ロリータキルズミー / 27.under my skin / 28.あと10秒で / 29.天使が見た夢
30.negative / 31.boy meets girl / 32.swan song / 33.ニーナの為に

[DISC2:“PARADISE LOST”TOUR 2005 Documents]
Music Videos - 01.スカーレット / 02.lost in the air / 03.あと10秒で / 04.black sunshine
album“PARADISE LOST”Recording Documents - ART-SCHOOL in Glasgow May 2005

Comment
アートスクール初の映像作品となる本作。2005年リリース。なんと2枚組で、1枚目には3rdアルバム『パラダイス・ロスト』に伴うツアーの最終日、2005年11月6日にSHIBUYA-AXで行われたライヴを、全曲収録という荒業、そして2枚目には4曲のビデオクリップと、グラスゴーにおけるアルバムレコーディングの模様を収録。全部合わせて3時間ほどあるので見ごたえ十分。ライヴに行った人も、僕のように行けなかった人にも、嬉しい作品だ。

某誌では「不器用」という言葉が使われていたけれど、それとはちょっと違う意味でだろう、僕もまた「不器用」さを感じた。どこに原因があるのかハッキリとは分からないけれど、どこか洗練されきっていない、ゴツゴツした非流線形なイメージ、それを彼らは作品においてまとっているように思うのだけれど、このライヴにおいてもそれは変わらない。カッコ悪いんだけどカッコいい、みたいな。それはライヴがどこか未熟だとか、そういう意味ではない。むしろ素晴らしいんだけど、だからこそだろう、「これ(音楽)しかないから、これを一生懸命やるしかない」的な、一途さを感じる。多分一途ってのは不器用だと思うんだけど、そう考えると、彼らに感じる不器用さもまた、一途さから生まれているような気もする。

3rdアルバムにはこれまでと毛色の違う楽曲が多々見受けられる。それらの楽曲は表現の幅が広がったことを示すと同時に、ライヴにおいてはその構成にメリハリをつけている。焦燥感をまき散らしながら疾走する楽曲たちに挟まれると、ミドルテンポの流麗なメロディを持った楽曲は、ハッとするほどの美しさを発揮する。途中に挿入されるアコースティックパートでは、僕はどこかスマッシング・パンプキンズを思い出したりもした。そしてやはり、1回目にメジャーデビューする少し前の楽曲たちは、構造が単純なせいだろうか、ライヴにおいて映える。“ミス・ワールド”“ウィノナライダーアンドロイド”、それから“プール”もメチャメチャかっこいい。僕も大好きな楽曲。このライヴDVD、ミックスの段階でどれだけ音がいじられているのか分からないが、当日の音バランスが収録されているのと同じようなモノだったとしたら、それはもう素晴らしい。

あと思うのは、ベースの宇野くんのプレイが、どこか初代ベーシストの日向くんに似ているということ。似てないかな。アートの楽曲をプレイするとベーシストはああいうスタイルになるんだろうか。それから“skirt”の「oh my sunshine」が「お馬さん、シャイン」と聞こえて、フッと笑ってしまった(笑)。ゴメンナサイ。

僕は2枚目を興味深く拝見したのだけど、何が興味深いかってえと、バンドメンバーと木下くんが絡んでる映像がほとんどないってとこね。普段からそうなのか、たまたまなのか、とにかく「ふーん」て思ったね。どこか不思議な関係性で成り立ってそうだよね、このバンドさんは。あとはプロデューサーのトニー・ドゥ―ガンが覚えた片言日本語「コンヤガヤマダ!」に笑った。それからビデオクリップは、どうせならこれまでの全部入れて欲しかったな。いろいろ問題があるのかな? でもこれまでポツポツと音源にオマケ的に入れてきただけだから、ここらでまとめてくれたらファンは嬉しかったろうに。それから、ビデオクリップのケツに豊田監督の名前をデカデカと出すのが何かおかしくて、思わず笑ってしまったよ。なんであんなにアピールすんのよ(笑)。ちなみにこの中で1番好きなクリップは“lost in the air”“あと10秒で”にボクシングの映像を絡めるのは、個人的にはどこかいただけない。ひとつの解釈としてはありなんだろけれど、あと10秒=試合の残り時間、というのでは、表層的すぎる気がする。



Title … フリージア
Number
01.フリージア / 02.光と身体 / 03.キカ / 04.lovers lover

Comment
全く多作だ木下くん。ということで、3rdアルバムからさほど間を置かずに(半年で)リリースされたシングル。2006年リリース。自身でも日記に書いていたけれど、木下くんはこの時期が創作においてもっとも(かどうかは分からないが)ノっている時期なんだろう。曲が沸いてくるというか。ある程度多くのアーティストに関心を持っていると、そして情報を追いかけていると、「あー今この人はノってるな」って時期に出くわすことがあるけれど、木下くんはこの時期がまさにそれだ。

傑作アルバム『PARADISE LOST』において獲得した空間的広がりが、ここでも聴けるかと思っていたけれど、それはあまり感じなかった。やはりあれはプロデューサに依るところが大きかったのか、それとも本作ではそういった音作りを望まなかったのか。僕はああいった音をもっと聴きたかったです。でも作風は明らかにあのアルバムの延長線上にあって、全体に流れる空気は決して鋭利なものではない。どこか丸みがある。考えてみると、ここのところのアートスクールは、突っ走る曲はあまりない。というか、そういう曲調で魅力を感じる楽曲が少ないように思う。緩やかに流れるメロディに、僕は惹かれる。ということは決してアートスクールは勢いだけで突っ走るバンドではないということだ。改めて確認、という意味だけれど。実にメロディアスな楽曲が魅力の1つにあるのだ。本作、歌詞は、何かをなくした悲しみを拭いきれない、それを引きずっていく、それは甘えかもしれないけれど、現実それでは生きにくいけれど、でも・・・という部分。それを歌っているようにも思う。諦念ではなくて、それを受け入れようぜ、と、そんな気持ちだ。そこにあるのは、やはりもう「焦燥感」ではない。

そう、曲といえば、本作ではギタリストの戸高くんが書いた曲が1曲(M-3)、本人がボーカルを取っている。初めて聴く戸高くんの歌声は、大方の人がそう思うだろうけれど、どこか木下くんを思わせる、掠れ、憂いを帯びた声だ。正直あまり期待していなかった僕は(本当にすいません!)、よい意味で裏切られた形となった。曲調はアコースティックでミドルテンポ、灰色の空に刺す、一筋の日光をイメージさせるような、憂鬱さと美しさを併せ持った良い曲です。作品中においても、よいアクセントになっている。戸高くんの書く他の曲も聴いてみたい、と思うと同時に、ここから彼らはライヴにおいてだけではなく、作品においても「バンド」を感じさせていくことになるのかもしれない、なんて思ってみたりもする。



Title … MISSING
Number
[DISC1:CD]
01.missing / 02.それは愛じゃない / 03.スカーレット / 04.rain song / 05.クロエ
06.tarantula / 07.1995 / 08.apart / 09.君は僕のものだった / 10.lost in the air
11.flowers / 12.羽根 / 13.刺青 / 14.i can't touch you / 15.perfect

[DISC2:DVD]
01.フリージア / 02.black sunshine / 03.スカーレット / 04.あと10秒で / 05.fade to balck

Comment
アートスクールの・・・なんていうのコレ? 企画盤? 編集盤? アルバム?どれも当てはまるのかもしれないけれど、内容は、メジャーを一度下りた後、インディー時代にタワーレコード限定でリリースした「スカーレット」、「LOST IN THE AIR」、これらの収録曲をリマスタリングして、そこに新曲2曲をプラスしたもの。初回限定でDVDつき。こちらには“フリージア”のビデオクリップと、2006年5月27日に行われた「Tour'06“フリージア”fianl」より、4曲を抜粋して収録。

「最近は、綺麗な曲が書ければ、あとは歌詞なんかどうでもいいかなあ」なんて、どこかのインタビューで冗談ぽく言っていた木下くんであるが、その言葉を考慮すると、今作のM-2は妙に納得なのである。というか、メロディという点で言えば、アートスクールは昔からPOPだったし、だからこそ、決して少なくない数のファンを獲得できたのだと思う。だから「POP」ということでは驚かないが、「綺麗」な曲がポーンと投げ出されると、納得なのだが、えらく新鮮。確かに“フリージア”の延長線上だが、今までここまで陽性を感じさせる曲はなかった。ハンドクラップまで聞こえるし。抜群に美しい。ギター1本でもきっと映えるな。

頭の2曲とそれ以外を聴き比べれば分かるけれど、前にも書いたように、明らかに作風に変化がでてきている。意図的にしろ、そうでないにしろ。その辺の理由について、深く掘り下げた話をあまり読んだことはないが、それは成長なのかもしれないし、シフトチェンジなのかもしれないし、ただ器用になっただけかもしれない。だって曲はスマートになってきているし、昔から漂っている隙(すき)、あるいは不器用さのようなものが、弱く感じられる。リリースペースは特に落ちていないし、生き急ぐ、唄い急ぐような気質は相変わらずなのだが、やっぱりどうして、なんかなんか、「地の底で愛を叫ぶ」的な感覚は弱いよね。前から言ってるけど。『PARADISE LOST』で、僕はその「変化」を好きになったから、別に今作が嫌いとかじゃないんだけど(むしろ好き)、あー「やっぱり」変わったんだな、ってそんな思いを強くした次第。M-1については特に書いてないけど、“black sunshine”あるいは“影”的な、スッキリしたジャキジャキギターに、切なさを加味したような、いい曲です。

リマスタリングの音源については特に触れません。けっこう音変わってますが。もちろん歌そのものに変化はないので。DVDは、ビデオクリップが印象的だった。“フリージア”の捉え方がなんとなく変わった。光り輝く女子高生と、ホームレス(って、十把一絡げにするのも問題だが)の、その対比に、もうどうしようもない、喪失感を感じる。



Title … テュペロ・ハニー
Number
01.テュペロ・ハニー / 02.その指で / 03.クオークの庭

Comment
2006年末にリリースされたシングル。完全生産限定盤で、再プレスはないそうだ。好きだなあ、こういうのアートスクールは・・・。ファンは心をくすぐられるよね。全3曲。プロデューサーは、益子樹(ますこ・たつき)。ということで、必然的に(というのもなんだけど)、「あと10秒で」以降目立ち始めた、バンドサウンドを軸とした、電子的要素の導入が予測される。益子さんといえば、メレンゲの「初恋サンセット」、オレ好きなんだよねー(関係ない)。

タイトル曲はいきなりシンセ(by 益子さん)が唸る完全ポップチューンではないか、1回聞いただけでメロディ歌えるぜコレ。歌詞はもう相変わらずなので(笑)、特に言うことはないんだけど、サウンド的に新たな広がりを獲得した気がする。変わらないと思っていた彼らは明らかに『PARADISE LOST』で変わったわけだけど、それともまた違った感触だコレは。冷たさがない、少ない、というか。アチラが降る雪なら、こちらは積もった雪というか、積もった後に日を浴びて、光り輝く冷たい雪と言うか。でも正直言うと、僕はM-2の方が好き。独特のメランコリー。シンセ音の導入が効いてるのかもしれないけど(いや、かなり効いてる)、昼間に聴くと、スゲーなんていうか、昔を思い出す、なぜか。ファンクっぽくて、サウンド的に気持ちよいのとは裏腹に、歌詞はどこか屈折した愛情と、エロスを感じさせるもんだから、次第に悶々してくる。いい曲だー。

3曲目は、ギタリスト戸高くんの手による曲であり、ヴォーカルも彼。「フリージア」に収められていた彼の曲がひどくスローで静かな曲だったので、ギターサウンドが聴きたいと思っていたのだが、やってくれた。歌詞はなんつうか、アートスクール的なんだけど、木下くんの詞よりもファンタジーな匂いがする(RPGつうかなあ)。木下くん似というヴォーカルイメージは払拭した(と思う)。それでも彼の曲は、「木下理樹」が作った特異かつ強固な「アートスクール」のイメージを損なっていない。そこがスゲーなあと思う。

ちなみに「テュペロ・ハニー」ってヴァン・モリソン、だろう。僕は特に思い入れはないから色々言えないけど、今作でアートスクールは、久々に先人たちの作品からの引用を行っている。考えてみれば、“ガラスの墓標”(セルジュ・ゲンスブール&ジェーン・バーキン主演の仏映画の邦題。原題は『CANNABIS』=「大麻」)や、“サッド・マシーン”(Smashing pumpkinsの“here is no why”の歌詞中に同じ語が出てくる)、“フラジャイル”(おそらくNine inch nailsの『The fragile』)、“欲望の翼”(ウォン・カーウァイ監督の香港映画の邦題。原題は「阿飛正傳」、英題「DAYS OF BEING WILD」)、“FADE TO BLACK”(映画狂青年の悲劇を表した、ホラー・ミステリ映画のタイトル、もしくはMETALLICAにも同タイトルの曲があるのでソチラからか?)、“車輪の下”(ヘルマン・ヘッセの著作)等々、音楽に限らず、映画や文学からの引用は少なくない。そこには、自分たちの作品を通じて、ファンの間口を広げようというバンド側の意思があるのだろうか。そうでもなければ、わざわざ他に代用が効くであろうに、過去からの引用をすることはあるまい。



Title … Flora
Number / Contents
[DISC1:CD]
01.beautiful monstar / 02.テュペロ・ハニー / 03.nowhere land / 04.影待ち / 05.アダージョ
06.close your eyes / 07.luna / 08.mary barker / 09.swan dive / 10.sad song / 11.piano
12.in the blue / 13.this is your music / 14.光と身体 / 15.low heaven

[DISC2:DVD]
01.テュペロ・ハニー only DVD ver. / 02.missing / 03.swan dive only DVD ver.
04.フリージア only DVD ver. / 05.テュペロ・ハニー live ver. / 06.making of missing

Comment
アート・スクール、4thアルバム。2007年リリース。プロデューサには、「テュペロ・ハニー」で組んだ益子樹氏が。アート・スクールというバンドが時の流れに敏感なのかは分からないけれど、こうやって、そのときどきで(たとえば前作でデイヴ・フリッドマンと組もうとしたように)、“個性的”なプロデューサを選んでいくのを見ていると、その目指す音というやつが何となく見えてきて、面白い。分かりやすいとは言いませんよ(笑)。ものすごい嗅覚鋭いな、とも思わないけれど。やっぱりその隙が好き(洒落じゃないけど)。

もうこのアルバムは、“swan dive”。これに尽きる。すごい好き。リピートして聴いた回数、数知れず。ミニマルなメロディに、イノセントに恋焦がれる歌詞。切なく美しい。フトした拍子に泣きそうになる。この曲は木下くんがソロで活動していた時期に書かれたものらしいが、YouTubeではそれが聴けます。で、もう、まったく変わっていないのね。曲の構造が(もちろん、音のクオリティは話になりませんが)。歌詞だけは変わっているとか、そういうの予想したんだけど。まったく、本当に本作にあるままだったので、僕は心底感心して、木下くんをますます好きになった。彼の表現の軸、根幹にあるものは、まったくぶれていないのだと、そう思ったのだった。彼は信用できる人だ(笑)。

でもアルバム全体として見ると、正直、前作『PARADISE LOST』を超えていない。僕はそう感じる。その原因は…? 曲? 曲順? 歌詞? 音作り? どれかの相互作用か? 分からない! ということでキッチリ結論が出ないのだが、どこか本作にある陽性の空気が僕の気持ちを一歩引かせているのかもしれない。決して曲が明るいとか、歌詞が前向きとか、そういう単純なことではなく、「音楽を楽しんでるような」、あくまで「ような」なんだけど、そんな空気がジワリと滲み出ているような気がして、いやそれは素敵なことなんだけれど、「どうしようもない」感覚が、どうも薄いんですなあ(書いてて良く分からないが…)。M-2〜4の流れとか、本当に好きなんですけれどねえ―頭の中を薄く通り過ぎていくシンセ音が、夕暮れ時の車輪を、僕の頭の中で回したり、落下していく僕を、ふいに湧き上がるシンセ音が、ノスタルジアと共に巻き上げたり。良いんだけど。“だけど”がついてしまう。



Title … 左ききのキキ
Number
01.sheila / 02.左ききのキキ / 03.ghost of a beautiful view
04.candles / 05.real love/slow dawn / 06.雨の日の為に

Comment
2007年にリリースされたミニアルバム。全6曲。内1曲(M-4)は、ギタリストの戸高くんの作詞作曲。今作と同時にライヴDVD『Tour'07“Flora”Live & Document』もリリース。

『PARADISE LOST』〜『Flora』と経てくる中で、彼らの音は、明らかに変化した。POPでキラキラした(語弊はあるが)メロディを、意識的な電子的要素の導入がさらに強いものにした。歌詞にしてもそう思う。深く掘り下げる余裕はないが、これまでとは違った形で展開されていた。それはもしかしたら単に、木下くんの環境的変化から来る精神的健康、あるいはバンドの状態を表しただけのものだったのかもしれない。その変化は、鳥が飛び立つような、大地を離れるような、なんとなく当たり前に受け入れているけれど、“よくよく考えてみたら、実はすごいこと”だった。だって僕は、彼らは変わらないと思っていたから。

そのままの路線で(というのも嫌な言い方だが)いくことも可能だったのに、彼らは再び以前のようなハードな音作りを目指した。意識的に。なぜ戻るのか…。そういう(目の前にある大通りを走るような)安易な馴れ合いを拒絶するような、思いつきみたいな捻くれた態度も好きだけれど。けれど。確かにM-1からギターはバーストしているし、ドラムもビシリンビシリンと振動を発している。その角の立った音も、それはそれで好きなのだけれど。けれど。ハードな音っていつ頃のことを指すのだろう。1st『レクイエム・フォー・イノセンス』の頃だろうか。でも正直、“あの感覚”って、意識的に出せるものではないと思う。まあ単純に同じものを作ろうとしているわけではないだろうし、唄が真ん中に来ている辺りには、近作で獲得した変化を感じたりもするけれど。

やっぱり1番好きなのは、M-3で(僕はホント、アートスクールのこの手の曲、大好きです)。やっぱりPOPなのが好きなのかな。ってことは、本作はPOPでない!? でもM-2の歌詞は、久々に響いた(ブログにも書いたけれど)。変わることを望みながらも、どうしても変われない、情けない自分。「ダメ」な気持ち。どこにもいない“君”(それは本当に自分が憧れる、理想とする自分)。なれやしない。でも、求めてしまう。どうしようもない気持ち。



Title … 14 SOULS
Number
01.14souls / 02.stay beautiful / 03.ローラーコースター / 04.マイブルーセバスチャン
05.heaven's sign / 06.lost control / 07.tonight is the night / 08.wish you were here
09.don't i hold you / 10.catholic boy / 11.killing me softly / 12.君は天使だった
13.grace note

Comment
2年半ぶり、久しぶりのアルバム。2009年リリース。しかし前アルバムとの間にベスト盤とミニアルバム『ILLMATIC BABY』も挟んでいるし、木下・戸高コンビは別バンドKARENに参加して1stアルバムをリリースしてもいる(そして本作の後にKARENもまた2ndアルバムリリース)ことを考えると、決して活動が滞っていたわけではなく、むしろ充実していたというべきかもしれない。

本作リリース前に、木下氏と共にオリジナルメンバーであったドラマー櫻井雄一氏の脱退、という、まさかの展開があった。代わって加入したのは、鈴木浩之氏。でも正直、ここが以前のドラムと違う!と私は指摘できない。ライヴに足繁く通っている人は、きっと比較して違いを感じるんでしょうね。

ミニアルバム『ILLMATIC BABY』で見せたほどの直球エレクトロ路線ではないが、いたるところで露骨な電子音が響く。特にサックスの音ですか?これが聴こえてきたとき、ちょっと嫌な顔したのは私だけでしょうか。今作についてのインタビューにまったく触れていないので、ここで何を描きたかったのか私は分からないのですね。いや考えろよと言われれば確かにそう。うーん・・・。思い切り息を吸って、踏み切って、空に飛翔するようなこの軽やかさはいったい何のなせる業なのでしょう。太陽に照らされて輝きを放つ羽さえ見えてきそうなほど。それはつまるところ、全体のPOPさ、透明感というよりも輝きを助長する電子フレイバーなアレンジ、そこから来る・・・乖離、したような感じが苦手、なのかもしれない。何からの乖離と問われれば、それはこれまでのアートスクールのイメージであり、私の中にある絶え間ない焦燥感をオーバーヒート寸前にまで高めて、そして一瞬、ほんの一瞬でも我を(今、ここを)忘れさせてくれるカタルシス。エロさもない。アートにはクールでメランコリィでエロく(そして気がつけばホットで)いて欲しい。のです。

楽曲は本当にPOP。しかも簡潔。硬質なビートを支えにして、ギター主体の曲から、柔らかい電子音が香るメロウな曲と、そして『PARADISE LOST』以降出てきた、アート流のファンク調ナンバーまで、楽曲はバラエティに富んでもいる。間違いなく“陽性”と言っても差し支えない空気が流れている。それを素直に受け入れられない私が、変わっていないのか、もしくは変わってしまったのか。だからこそ、感じ方が変わったのか。難しい。“ローラーコースター”“静脈にありったけの 愛を射ちこんで 廃墟になった遊園地 たどり着いたんだ オンボロのメリーゴーランド 君は乗っかって 嬉しそうに何回も 手を振ったんだ Please rescue me 「そんな風に生きれたら素敵じゃない?」”なんて歌詞はとても好きです。ああそれは素敵だろうさ、でもそうはいかない。私には(そして大多数の人間には)、現実が、今ココが、あるから。

「渇望」よりも「受容」。いや渇望しながらも受容せざるを得ない、世界(“憧れてた普通の生活は 泡のように弾けた”- “wish you were here”)が、ここにあって。M-11の、ひとつのビートの上で二つのラインを歌い、ギターによるブレイクを挟み、再び展開するという、この構造は何となく“LOST IN THE AIR”を思い出した。そしてそこにある歌詞が印象的だった―“生き残るなんて みっともないけど もがいてたほうが 綺麗だって(生き残ることはきっと 馬鹿みたいでしょう”。そう、とても綺麗なアルバムです。そのフォルムは流線型。非常に聴きやすい。きっと新たなファンを増やすことだろう。ちなみに私が好きなのは、M-7、8、10。




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