2006.12.05‐「増刊ミドリカワ2 in 渋谷7th floor」


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渋谷7th floorは、渋谷O-WESTの7Fにある。
そこ、そのフロアへ至る手段は、
どうやらエレベータしかないようだが、
そのエレベータは定員が6人ときている。
極めて狭い。
エレベータを降りると、
目の前にもう7th floorがある。
まるでバーだ。いや実際バーなのか。
入り口をくぐると、
すぐ左手にバーカウンターがある。
正面には受け付け。
そこでフライヤーなどを受け取って、
内部へと足を進めると、
中は広くない。むしろ狭い。
天井もそう高くない。
窓の外には、
都会らしい高層ビルが見えたりするが、
決して「綺麗な夜景」、というものではない。

客席の配置はイベントによって変わるらしいが、
この日は、ステージすぐ前から
イスが綺麗に並べられており、
入場順に、好きな位置を選んで席に着く、
そんなスタイルが取られていた。
もちろん座りたくなければ、後方で立てばいい。
あるいは壁際にもイスがあったりするので、
そこに座るのもいい。
ステージというのも大袈裟な気がするその舞台は、
高い位置にあるわけでもなく、
客席とつながっているような、極めて「近い」造り。
舞台後方の壁にはワインレッドのカーテンが
広がっており、上方からは暖色の照明が光を放つ。
その照明の下には、今日は使われないであろう、
カバーをかぶったピアノがヒッソリと眠り、
その脇、舞台の中央には、回転スツールと、
声とギターの音を拾うべく2つのマイクスタンド、
譜面立てには、その名のとおり譜面が、
そしてやや後方に、アコースティックギター2本。
足の長い小さな丸テーブルの上には、
ミネラルウォーター「クリスタルゲイザー」と、
おそらくはアルミ製だろう、銀色の灰皿。
舞台やフロアの床は(おそらく)木製。

そのコジンマリ具合、客席との近さ、一体感の加減は、
まるでこれから目の前で、手品を披露されても、
何の違和感もないのではないかという、そんな具合だった。

*** *** ***

というわけで、渋谷7th floorで開催された
『増刊ミドリカワ』第2回なのであるが、
開演を待ちながら、入り口で渡された
フライヤーを眺めていると、ひとつ妙な点があった。
もらったフライヤーの中に、
今回のライヴについてのアンケートが
含まれていたのであるが、
そこには今日のライヴについての感想と、
それから・・・M1〜14まで並ぶ以下の曲目について、
よかったと思うものにはチェックをしてくれと、
そんなようなことが書かれていたのである。
各曲目が書かれていただけだったら、
まだおかしくはないが、M1〜14まで
番号がふってしまってあるということは・・・?
これは今日やるセットリストそのまま・・・?
開演前にそんなことを匂わせてしまうなんて、
これも新手の余興なのだろうかと、
僕はそんな風に考えたが真相は果たして・・・。

ま、待てば分かるか・・・、
ということで、しばし開演を待つ。

*** *** ***

開演の7時半をやや、というか
たっぷり15分ほど過ぎた頃、
フロアの電灯が暗くなり、
ハマショーの歌が、硬いドラムが、響き始める。
ザワザワする狭いフロア後方から、
ついに登場したミドリカワ氏。
天井も低いし、空間も狭いし、
ホントなんていうか、
これからサイン会ですか、的な空気。
だって入場時、手伸ばせば触れますからね。

白いシャツをジーンズにインしているところは、
やはりまったくこれまでと一緒なのだが、
髪の襟足が結構長くなってて、
どちらかというとマッシュに近かった髪型が、
センターで分けられていたので、
パッと見その無造作加減も手伝って、
これまでにない「ワイルド」な空気も感じつつ、
でもじーっと見てると、
「ほったらかしなだけかも」という、
下衆の勘ぐり、どうでもいい思いが、
頭に上ってきてしまう、そんな微妙な?
外見的変化が起きていた。

この『増刊ミドリカワ』というイベントの趣旨は、
ライヴ中にミドシンさん自身が語っておられたように、
普通の、普段のライヴでは演奏されない曲たちを
やろうではないか、そして新曲なんぞを
いち早く披露する場にしようではないかと、
そんなものであるらしい。
なるほど、それでHPにもあったような、
「われこそはミドシンマニアという方は是非」という
言葉が出てきたのであったか。
僕は決してマニアではないが、
けれどファンではあるので、今回参加させていただいた次第。
この会場のヒッソリとした「○○倶楽部」的な雰囲気も、
そういった「マニアの集い」に実に向いていると思う。

だから、マニア向けのイベントだから、
今日初めてミドリカワ書房を観に来た人、
あんな曲やってくれるんじゃないだろうかとか、
期待している人、いたらごめんなさい、
そういった曲はやらないから、って冒頭に言って、
場内の笑いを誘っていたミドリカワ氏。

そして実際ファンではなければ、
これはちょおっと厳しいイベントかもしれない。
なんせワンマンのときにあったような、
仕掛け、ギミックはいっさいない。いっさい、だ。
バックバンドもいない。ゲストもいない。
舞台にいるのは口数の少ないミドシン一人。
曲は全編アコースティックギター1丁で演奏される。
ファンにとってはたまらない、
そして様子見に来た人には別の意味でたまらない、
そんなイベントだ。
通常のライヴが「ベスト盤」であるとしたら、
この『増刊ミドリカワ』は「レアトラック集」、
とでも表現できるだろうか。

*** *** ***

スツールに腰かけるやいなや、
しょぼくれた表情でクリスタルゲイザーを1口飲み、
譜面を捲りながら、顔をしかめるミドリカワ氏。
気合の現われであろうか。果たして。
ちなみに靴はコンバースであった。ベージュ?
挨拶もせずに演奏されたのは、
アップテンポの“続・それぞれに真実がある”
実に気合の入った歌いっぷりで、
出だしのトーンがいずれもモノすごくでかいので、
耳にドカンドカン響く。
彼がギター上手いのか否かは僕にはまるで分からんが、
やっぱりギターの音はいいなあ。好きやね。

そしてこの歌の後だろう、衝撃の事実が。
先ほどのフライヤー、実はやっぱり
ライヴ終了後に配られる予定だったらしい。
手違いで入場時に配られてしまったと!

 「だからさあ、
 みんなもう次になにやるか
 知ってるわけでしょ?
 やりにっくいなあ」


なんて、ミドシンは真面目に苦い顔をするが、
フロアはこのハプニングにも大爆笑である。
加えて、フライヤーには、
待望の2ndアルバムの告知まで出てしまっていて、

 「ホントはさあ、最後の方でさあ、
 実はこんなことがあるんだぜぇ!
 なんつって、盛り上げようかとか、
 いろいろ考えてたのに、
 みんなもう知ってるわけだよね」


まさに逆境。
決して盛り上げるのが得意ではないミドシンに、
この状況が有利に働くわけはない(笑)。
けれどめげないミドシンは、
「『次はあれをやります!』って言ったら、
みんなちゃんと驚くようにね」
って(笑)。

2曲目はだいぶ昔に作ったという“生きて死んで”
風俗嬢の目線で唄われており、
「ふんふん」と普通に聞いておったのだが、
この歌の要、肝の部分、
「生きるということは死に向かっていくということ」
すなわち、「生きることは死んでいくこと」
その部分を耳にして、
“ああ、この人はやっぱりそこに向かうのか”
いや、“昔からそこに向かっているのか”と思い、
彼の表現が昔から変わっていない
(いや歌詞とか変えてるのかもしれんけど)、
むしろ昔の曲の方が、言いたいことが
ズバリ直接的に唄われているのではないかと、
そう感じた。

しかし、その肝の部分、
彼は自分でも「よく書けた」と思い、
できた当時周囲に言ってみたら、
「どこかで見るか聞くかしたことある」
とアッサリ言われ、
「あ、あぁ、そう」とショックを受けたそうだ(笑)。

3曲目は、自分がいかにロマンチストかを
示す、という言葉の後に唄われた、“笑顔だったなら”
出だしを聴くと、カップルの
忙しくしながらも幸せな日常なのかと
思いきや、最後に話(=歌)は、あらぬ方向へ――。
早朝バイトの“僕”、会社勤め?の彼女、
合わない時間をぬって、ホテルで体を交わす二人、
それこそ、「雄(オス)と雌(メス)」。
彼女が寝ているうちに、“僕”は早朝バイトへ向かい、
彼女は起きてちゃんとチェックアウトしただろうかと
気にしつつ、仕事をこなす。
バイトをあがるやいなや、再びホテルに飛んで帰り、
変わらずベッドにいる彼女の姿を見つける。
そして彼女は――。
しかしなんであの方向へ頭がいくのだろうか。
初めからそれを念頭において書いたのか、
それとも書いているうちに、そちらに転がったのか、
それは分からないが、聞きながら、
僕の心からは「あ、あー、えー」という叫びが洩れた。
好きな歌だけど、アコースティックだとやっぱり重い。
グロいまでいかないけど、重い。
逆に考えれば、アルバムに入れるなら、
いったいどんなアレンジになるのか、楽しみだ。

その重い空気を払拭しようというのか、
やっぱりきっとそこは意図的なんだろう、
“笑顔だったなら”を唄ったあと、
ミドシンは上目づかいで客席をチラと見て、
言葉もつがずに次の曲に入った、
しかも曲はアッパーな“だまって俺がついてゆく”
憧れの(誰のだ)主夫生活を唄う、朗らかソングである。
座りながら、ギター弾きながら、片足あげて、
しっかり「ウェイ!」なんて声も上げたりして、
空気をがらりと変える。
それは果たして成功した、だろうか。
でも明らかに、理由はわからないが、
“笑顔だったなら”よりも、
“だまって俺がついてゆく”の方が、
拍手は大きかったように思う。

次に来たのが、ミドシン自身は
『家族ゲーム』の中で一番好きだという“メシ喰えよ!”
演るのが難しい、と自身で仰っていたが、
なるほどサビの部分は確かに、素人目にも
難しそうだなあと思える。
だからこそ彼は、「よく書けたなあ」と思えるそうである。
でも僕は、あんまり・・・なんだけど(ごめんちゃい:笑)。
でもアコギで聞く方が、なんかなあ、
シックリくる気がするなあ。
『家族ゲーム』はアレンジに何かあるのかなあ。
何か僕の好みを回避している部分が。
そんなこともフト考えた。

そんな難度の高い曲を無事にこなした後は、
きました、未発表にも関わらず、
すでに人気曲になりつつある、アノひき逃げの歌。
前回の増刊ミドリカワで
ラストにこの曲をやった際、歓声が巻き起こり、
あとでミドシンがスタッフと話した際に、
「ひき逃げの歌で歓声が上がるなんて、
キミのファンはおかしいね」
と言われたという、
そんなエピソードも微笑ましい、あの歌。
“ドライブ”
結局この唄ってあれやね、主人公がひどいね(笑)。
悪魔って自分で言ってるだけまだマシかもしれん。
この唄も古いと思うんだけど、
醒めた視線の存在が怖い。
人轢いて逃げて、逃避行して、
その夜に旅館でなんか安心感感じて、
捕まったら捕まったで、この暮らしもそんなに悪くない、
ってそんな風に感じる、感じてしまうという、
そんなどうしようもない人間臭さ。
そんな「実はアナタもそうじゃない・・・?」的な、
たとえば『海と毒薬』を読んだ後に感じるような、
冷たい視線がヒッソリと放射されていて、
僕はゾクゾクするのだが、
曲調がフォーキーなので、
全体の味わいは、まさに奇妙な味。
こんな味の唄は他にないんだなー。
んー、すごいなー。
最近の曲にはこの奇妙な感じがないんだなー。
んー、なんだろなー。

この後かね、トイレタイム(笑)。
ミドシン自ら、
「唄ってる途中に行かれるとアレだから」と、
「トイレ行きたい人は行っておいで」と促す。
実際数人が暗がりの中で立ち上がると、

 「お! 行った!
 ウソ、ゴメン、恥ずかしいよね言っちゃ」


って一人ノリツッコミみたいな。
しかも!

 「帰ってくるまで待ってるから」

って!
しかも実際待つからね。すごいね。
数人いても、待ってたね。
で、その間どうするかって?
そこはやっぱり主役が・・・
って、喋んないのねミドシン(笑)。

 「談笑しててぇ」

って――
なんだこの空間!
アーティストは客のスゲー近くで、
ギターいじりながらボンヤリしてるし、
客は客で、アーティスト目の前にしながら、
ホントに談笑しちゃってるし、
なんだこのヘンテコ空間は!!
フロアから「喋ってえ」って言われても、
1つ話をしただけで(笑い話ではない)、
またのんびりボンヤリしちゃうミドシン、
再び「喋ってえ」と言われると、

 「喋ってって言われてもねえ、
 一人じゃ話せないしねえ、
 話し掛けてきたらいいじゃない」


ってなんだよそれ!
誰か切り込んでいくかと思いきや、
あまりの大胆不敵さに
逆に畏れをなしたのか、
誰も何も言わずに、談笑タイムになる。

そんなこんなで奇妙な時間が過ぎ、
トイレタイムは終了し、本編再開。

*** *** ***

次の曲は、
半ば強引な展開で作られた曲のようである。
知り合いのコメディアン松井君に、
「僕の唄作ってくださいよ」と言われ、
会社からは、
「梅雨の唄作ってね」と言われ、
じゃあそうだ、2つくっつけて・・・、
ということで、できた曲。
タイトルはズバリ“松井君の梅雨”!!
すげー! まんまだ!
フロアも爆笑だ。ミドシンもフフンと笑う。
サビに来てドカンと爆発する曲だった。
メロの部分は字余り的なあの感じ。
でもやっぱり歌詞からイメージが浮かび上がってくる。
公園に咲く紫陽花の横を松井君が
しょぼくれて歩いている光景が目に浮かびます。
いやマジで。この映像感覚も素敵。
“笑顔だったなら”にもあったね、この感覚は。

“許さない忘れない”を通過して、
やってきたのはカバーコーナー。
前回もあったらしいけど、そこでは
何をカバーしたのかしら? したのですか?
まあいいか。
けれどこの日は、前述したように、
何をカバーするかは、やる前からモロバレ(笑)。
それでもミドシンが「アレをやるから!」
と言ったときには、会場は素直に、
驚いて見せたのだった。
「しらじらしいよっ」
ミドシンに突っ込まれながら・・・。
で、そのカバーはズンズキッキ(フライヤーより)、
じゃなくて、キンキキッズの唄である。
“カナシミブルー”
なんでこのカバーを行ったのかという、
その経緯については、
ミドシンが「言わないでね」と言っていたので、
ここでは割愛(気にしないでくれ!)。
しかし「難しいんだよなぁコレ」とか、
「ようし、頑張るぞっ」とか、
歌う前に必死に前置きしたその気持ちも
ちょっぴり分かるくらいに、難しいね、この唄は。
見ててもう大変そうだなって分かりましたよ。
特にメロの部分はなんやエライことになってましたな。
サビの部分は、でっかい声で唄うものだから、
今でも頭の中で、しっかり思い出せますわ。
歌詞はくっさいから、それをミドシンが歌うと、
何やら笑いが起きるかもしれないけど、
僕はあの曲の持つ歌謡テイスト
(というかキンキはそういうの多いよね)は、
決してミドシンの唄と無関係ではないと感じていた。

唄った後に、「頑張ったわ」と言い、
「いや・・・あんま頑張ってないな」
「やっぱダメだな」と、
妙に自分に厳しいミドリカワ書房。
僕は・・・頑張ってらっしゃったと思います。
結構、わりと、ハイライトになってますもの。

そしてお次は、犯罪コーナー。
コーナーって言ってはないけど。
犯罪をテーマにした唄たちね。
まずは万引きGメンを題材にした
“Oh! Gメン!”
これがねえ、きたねえ、
これを望んでたねオレは、
この笑えるテイスト、クスクス笑い。
Gメンになりきって、声色を使って、
万引き犯のおばちゃんに問い掛けるミドリカワ氏。
「ご主人の勤め先はこの近くなの?」
「何ご主人亡くなったの? 悪かったねえ」
「じゃあしょうがない、警察呼ぼうか」
「え、ご主人生きているの?」
って、唄いながら、問い掛ける、そのやりとり、
TVの万引きGメンそのまんまや!(笑)。
いや、しかし笑ってはいけない、
万引きイズ窃盗。立派に犯罪です。
ダメ。絶対。みたいな。
2番では女子高生に問い掛けるGメン。
この唄のテイスト好きだなあ、
是非アルバムに入れて欲しい。
前作の“保健室の先生”的な位置に。

続いても、彼曰くは「被害者」目線だという。
オレオレ詐欺を働く若者?の悲しき唄。
“上京十年目、神にすがる”
すがるたって、別に「金くれ」とかじゃない。
「なぜオレが生きてるんですか」
「なぜ殺してくれないんですか」と、
そういうすがり方だ。
これは続く“昨日”という、
モテモテ男、ジゴロ唄にも繋がる。
女を渡り歩く、という表現は違うか、
いつも女がそばにいる、そんな男が、
ふと一人になって、自分の人生を省みる、
そんな唄である。
別に彼は寂しさや切なさを感じているようではない。
「人類なんて、己の欲望の炎に
燃え尽くされればいいんだ」
と、
自分の生き様への苛立ちから、
そんな思いが出るのだろうか。
どこかヤケッパチ的な、
全部リセットしたい的な、
でもできないから、そのまま
しようもない人生が続くというか・・・。
なんかココの2曲は、漠然とした、
モアモアとした、今の自分にも通じる、
「これからオレはどうなるんだ」という、
正体不明の不安が漂っていた。

ミドリカワくんは、“昨日”のあとだろうか、

 「いやあ、酔っちゃってごめんなさいね」

なんて言っていた。
歌になると、やっぱり彼、どこか違うんだよね。
思い切りがいいというか、
覇気があるというか、
いや、迫力がある、そうだ、迫力がある。
唄が好きなのか、唄っている自分が好きなのか、
唄うことしか関心がないのであろうか、
とにかく前回も書いたように、
しゃべりの姿からは予想もつかぬくらいに、
唄に入り込む人である。
おっかねえ(意味不明)。

本編最後の手前にやってきたのは、
アリヨシ・サワコさんの小説から
インスパイアされたという、ズバリ“恍惚の人”
前回は2番までしか唄わなかったが、
今回は3番まで唄うという。
認知症に侵されていくジイちゃんを、
ジイちゃん目線で歌った唄である。
これが・・・なぜか泣ける。
それはミドリカワくんの歌い方にもよるかもしれない。
どこかこの唄の雰囲気は冬の陽射しのようだ。
身を切るような寒さの中で、
ひとつだけ熱を放つ、太陽の光。
そこに温もりを感じて、心がほぐれる、あの瞬間。
その感じが、この唄にあった。
歌詞からイメージされる、病の状況は、
決して明るいものではない。当たり前だが。
ジイちゃんはご飯を食べたことを忘れ、
ばあ様が死んだことを忘れ、その顔を忘れ、
息子が大人になったことも忘れ、
涙を流す娘の嫁に手を引かれる。
唄の最後には、可愛がっていた孫に
「初めまして」と挨拶する――
その重苦しい描写がどうだ、
暖かい曲調と、真摯に状況に立ち向かう
ジイちゃんが憑依したかのごとく、
柔らかく、か弱く歌うミドリカワくんの声のせいで、
「重さ」よりも「喪失感」とやらが忍び寄ってきて、
僕は胸を打たれてしまった。
当たり前だったことが当たり前でなくなり、
すべてが変わってしまう、その、そこにある喪失感。
あー。なくなっていく、あの感じ。
やるなあ、ミドリカワくん。
あの歌い方は、胸にくるものだった。
がしかし!
この唄には秘密が隠されていて、
ジイちゃんの息子の名前がマサシ、
その嫁がヨウコ、その息子、
つまりジイちゃんの孫はケンちゃんという、
そこ、その名前にある関係性、分かります?
それを聞いて僕は、
やっぱりミドシンが好きになった。
絶妙なユーモアのセンスだ。

そしてー本編最後はーなんと、
演歌調のあの“彼は昔の彼ならず”!!
しかも「歌ってね」って言われても、
難しくねえ?(笑)
でも歌ってみたら、そうでもなかった(笑)。
手拍子をつけた上で、
2番の歌詞、つまりガールからの手紙の部分を、
お客(註:女性が多数)に歌わせると、
そのあとを引き継いで、ミドリカワくん、

 「――しゃ ら く せ え〜
 なんなんだこの女たちはああ」


と、通常の歌詞は「女」の部分、
歌詞を「女たち」に変えて歌ってみせた。
フロア爆笑である。いきな計らい。ププ。

 「歌ってくれてありがとうっ」

とか何とか言って、本編終了。
緑川くんは、来たときと同じように、
客席の間をぬって、帰っていった。

と――

どこからか、っていや客席からだよ、
自然と拍手とミドシンコールが起こり始める。

 「ミードーシン、ミードーシン」って。

*** *** ***

再び後方から現われたミドシンは、
手に何か白い布のようなものを握っている。
そしてフライヤーと。

それは、Tシャツで、
枚数はわずか5枚。おそらく限定品となる。
まあもったいぶっても仕方がないので、
サラサラと書いてしまうと、
それはチケットの整理番号を元にした
抽選のようなもので、お客に配られた。
ミドリカワくんが思いつきで以って数字をいい、
それに該当する番号のお客が、
Tシャツを手渡されるという仕組みだ。
しかもやはりミドリカワ書房じきじきに、
そのTシャツ授与は行われた。
仰々しいのが嫌なのか、
少し背中を丸めるような、
恐縮したような姿勢で、
お客にTシャツを配るミドリカワ氏。
とてもメジャーアーティストには思えないぜ(笑)。

そして次回のアルバムについてのお話だが、
まだ解禁日がきていないので、
詳しい話は何もできないという、なんとも歯がゆいお話。
以前ミドリカワくんは自身のブログで
「爆弾を用意してもらったから」という
言葉を記していて、その言葉は
ファンの間で色々な憶測を呼んでいたのだが、
どうやらその爆弾は、
次のアルバムに関係しているらしい。
一体何なのだろう。待ち遠しい。

最後の最後には、
名曲“馬鹿兄弟”を熱唱してくれた。
なぜか最近はあんまり歌わなくなっていたそうだ。
僕はもっと歌って欲しかったが、
そこはそれ、やはりこのイベントの性質のためか、
この1曲でアンコールは終了。
プロレスラーの故ハシモト・シンヤ氏の、
押忍ポーズを決めた後、
やはりプロレスラーの武藤式投げキッスを連発して、
再び客席の間を抜けて、彼は帰っていった。
退場時の音は、ハマショーの“もうひとつの土曜日”。

*** *** ***

このイベントは、誰が言い出しっぺかは知らないが、
もし本人が発案者なら、そこにはやはり、
通常のライヴでは、
何か満たされぬものがあったということだ。
レアな曲、というか、
割とダークサイドな曲が並ぶのも、
もしかしたら、と色々考えさせられる。
このようなこじんまりした空間で、
こっそりと1人ギターを弾きながら、
人間の暗部をえぐったような(言い過ぎか?)、
そんな物語を紡ぐことが、
ミドリカワ書房のエッセンスであるのかもしれない。
決してコレだけでは完成されないだろうが、
通常のライヴと同時に、
こちらもやらなければ、「ミドリカワ書房」は、
完成されないのかもしれないということだ。
ってか、最近は、『増刊』の方が
目立っちゃってる気もするけど(笑)。

僕個人として言えば、
やっぱりバンド編成のライヴの方が好き。
かもしれない。
もちろん、こちらはこちらで
十分に素晴らしかったけれど。
これだけ未発表曲を聞けるライヴも
そうそうないですしねー。
またどちらも見たいべー。


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- SET LIST -
01.続・それぞれに真実がある
02.生きて死んで(未発表)
03.笑顔だったなら(未発表)
04.だまって俺がついてゆく
05.メシ喰えよ!
06.ドライブ(未発表)
07.松井君の梅雨(未発表)
08.許さない忘れない
09.カナシミブルー(カバー)
10.Oh! Gメン(未発表)
11.上京十年目、神にすがる(未発表)
12.昨日(未発表)
13.恍惚の人(未発表)
14.彼は昔の彼ならず
15.馬鹿兄弟
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※今回は「ミドリカワ書房」ということで、 見出しに「緑色」を使用しております。
2006/12/08
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