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2007.05.18‐「Nine Inch Nails in STUDIO COAST」 Home Set List

この日、いやもうちょっと前からだろうか、
2chにおいて、Nine Inch Nailsは盛り上がりまくっていた。
朝から質問が飛び交い、
鎮まらない興奮を語り合い、
昼過ぎには会場からの生レポートも始まった。
なんでそんなことになるのかって?
彼ら、アメリカではめちゃめちゃビッグなのに、
来日回数は異常に少なくて、
単独来日公演で言えば、実に7年ぶりなんだもの。

なんでそんなに空いたのかと言えば、
彼らの場合は、作品のリリースがなかったから。
2005年にアルバムをリリースはしたけれど、
結局単独での来日はなく、
サマーソニックに彼らは登場したきりだった。
その前の来日は1999年に出したアルバムに伴うツアー。
2000年の1月に、
彼らは初めて日本のファンの前に姿を現した。
あのときのファンのテンションはなんか変だった。
情報技術が今とは違ったせいもあるだろう、
彼らのライヴ映像(ビデオクリップも)というものが、
今ほど出回ってはいなかった。
映像作品のリリースも、日本ではなかったし。
だから彼らのライヴについては、
ブートやなんかで得られる断片的な情報と、
海外でのライヴを報告したテキストから得られるイメージしかなくて、
とにかく彼らは“ミステリアス”という言葉に覆われていた。
だから、あの初来日のとき、
ファンもどんなテンションで迎えるべきか、
図りかねているところがあって、
尋常じゃない緊張感が、会場を覆っていた。
ザワザワというよりも、ピリピリ。
固唾を呑んで、そのときを待っていた。
緊張の糸をビンビンに張ったまま。
まあ、残念ながら、満員御礼ではなかったんだけど。

それが2000年。

そして2007年。

NINは再びやってきた。

*** *** ***

NINがシーンの最前線にいるかどうかなんて、
どうでもいいだろう、ファンのみんなは。
僕だってどうでもいい。
トレント自身も、『フラジャイル』のときには
異常なプレッシャーを感じていたようだが、
果たして今はどうなんだろうか。
やはり、抜け出たのだろうか。
やはり、というのは、『ウィズ・ティース』以降、
トレントはまさに“ダウンワード・スパイラル”を脱出したという、
そんな見解が一般的だからだ。
ようやく素面になれたという旨のことを、雑誌で本人も語っている。
手っ取り早くいうと、
ドラッグとアルコールの手を振り払ったということ。
主にそのおかげで、自信喪失状態を克服し、
彼は『ウィズ・ティース』以降、やりたいことを、
楽しんでやってるように見えるけれど、
音楽シーンのことなんて、意識してるんだろか。
時代が彼トレントに再び巨大なスポットライトを当てるとしても、
それはトレントが時代に媚びた結果ではないだろう。
彼の好んでやっていることが、
たまたま(という言い方も変だが)注目されて、
そんな結果になるんじゃなかろうか。
僕はそう思っている。

正直、NINは今の音だと、
ファンの拡大って難しいんじゃないかって気もする。
特に日本だと。
『BROKEN』あたりは、衝動的でスピード感あって、
聴きやすいしPOPだし、暴れられるから、
とっつきやすいと思うんだけど、
『フラジャイル』あたりから、
作る曲が別の方向にシフトしてきた感があるので。
昔からのファンは、ちゃんと自身の聴き方も
シフトさせていくような気がするんだけど、
これまでNINに触れてない人が、
いきなり『YEAR ZERO』なんか聴くと、
「どこがいいんだろ?」って思うかもしれない。
もちろんピンと来る人はくるんだろうけど。
だから、大衆的じゃない、かもしれない。
それが残念と言うか、いやそこじゃなくて、
僕は日本でのNINの人気・立ち居地がよくわかんなくて、
ファンは多いんだか少ないんだかよくわかんなくて、
もっと増えればいいのに、アメリカに負けないくらい
ネットでも盛り上がればいいのに、なんて思ってて、
だけれど『YEAR ZERO』は…その起爆剤にはなりにくいかも、
って思ってて、それに代わるものといえば、そう!

ライヴしかない。

代わるもの、ってのもおかしな言い方だけど。
ライヴ活動ってきっとファン増えるよね、うん(適当かも)。
NINのアメリカでの人気の裏には、
地道で長いツアー活動も必ず潜んでいるはず。

ってことでライヴだ。

*** *** ***

今回の東京会場はスタジオコースト。
場所は新木場駅から徒歩5分ほど。
まだ新しい―2002年から―ライヴ会場というだけあって、
なんだか概観からして小ジャレタ感じ。
キャパシティは2400人というから、
決して小さい会場ではないが、
でもNINを観るには、小さいよね。
アメリカ以外ではこのくらいが一般的なのかな?
よく知らないけど。
00年の単独公演は、ベイNKホールでやっていて、
あそこは6000人くらいは入ったはずだが。
それと比べると、かなり規模は小さい。
小さい会場だと、まあ近くで見れて、うれしいんだけど、
会場の規模を人気のバロメータとして考えてしまうと、
なんだか、「んん」って眉間に皺をよせてしまう。

会場を訪れると、すでにSPIRALのメンバーが並んでいる。
SPIRALってのは、NINのファンクラブみたいなもの(よね?)。
その会員になると、チケットを優先的に予約できたり、
その他にも、会員限定でさまざまなサービスを受けることが出来る。
僕? 僕は違うんだけど。
いやNINファンだけどね(笑)。
仕組みがよく分からないから。
実際英語が巧みな方が、多いようであったし。
まあアメリカ人と思しき方もね、沢山いた。
サービスには、サウンドチェックの観覧(?)や、
メンバーとのサイン会も含まれているようで、
とっても羨ましい。
いや、会員にはならないけどね(笑)。

そのSPIRALメンバーの入場口とは
別の入り口が、僕ら一般客の入り口になるわけだが、
そちらに向かう前に、みなさんが興味津々なのが、
物販である。グッズ販売である。
しかしTシャツたっけえなあ。
1枚¥4,000は、おいそれとは出せねえよ。
僕にはね(笑)。
ってことで、物凄く並んでいるし、とりあえずスルー。
ロッカーに荷物を入れて、開場まではボンヤリ過ごす。
他の人たちを眺めながら―
って、TOOLのTシャツ着てる人が多いなあ。
やっぱりファンが被ってるのかあ。
いや、僕は違いますがね。
いや、嫌いじゃないけどね。
むしろ好きだけどね。
あとはマンソンのTシャツもチラホラと。
その考えは僕の中にはなかったなあ。
着てくればよかった? かな。
いやでも何か違うなあ。
あと年齢層でいえば、若々ではない。
そりゃあ20代くらいが多いんだけど、
さりとて、そうじゃないだろう方々もチラホラいる。
そこで、俺も今より年取っても、
NIN聴き続けようと、なぜか思う。

僕はだーいぶ後ろだったから、
だーいぶ待たされて、
ようやく入場するのだが、
入場時の荷物チェックや
ボディチェックってアレどうなのかしら。
もっと厳重にやらないと、
本気の人は余裕で掻い潜るよね(ダメだろ)。
本気の奴はその根性に免じて
通してやっちゃうのかしら(いやダメでしょ)。
網にかかるのだけでも成敗ってことで(ダメだって)。
前回のときは屈強な黒人さんが
荷物チェックしてて、それだけで
僕はビビリまくりだったなあ。
っても今回は日本人スタッフさ。

入場するも、アレだね、
初めての人は気をつけたほうがいいね。
フロアがどこにあるかイマイチわかんねえ(笑)。
入口くぐってすぐ左手のドアから行けるんだけど。
直進しちゃうとバーに突入しちゃうからね。
気をつけましょう!

フロアに入ると、あら変な構造。
いわゆるスタンディングのフロアなんだけど、
バルコニーみたいのが後方にあって、
そこが1段(ってかかなり)高くなってるんだね。
だからしっかり見たい人は、そこに陣取ればオーケー。
階段部分でも観覧可能なのも嬉しい。
あとフロアが横に長く作られてるので、
けっこう横に移動しても、ステージが見えるのです。
ってことで、かなり観やすいんじゃないですか。
僕も迷ったんだけど、バルコニー行くかどうか、
いやでも、ここは一体感を優先せねば、
ってことで、いざフロアへ。
……。
しかしあーもーほとんど整理番号関係ないね。
いや入場は番号順だが。
みんな思い思いの場所につくから、
絶対自分の番号よりは前にいけるし。
僕は割りと半ばで止まったけど、
行こうと思えば、かなり前まで行けちゃうはず。

って今だから、こうやって冷静に書けてますが、
現場では実にビリビリしておりました。
だってステージ近いんだもの。
前回の単独来日時、まっるでステージ見えなくて、
後半ヤケクソ気味だった僕としては、
ホントもう有り得ないくらいの至近距離。
こんな近くでトレント見ちゃっていいの?
って、その姿を、音を想像しただけで、鳥肌。

でもさすがにね、前回の単独公演時みたいな、
あそこまで張り詰めた空気は流れていなかった。
割とザワザワした感じ――

*** *** ***

たぶん7時前だったと思うんだけど、
いきなり客電が落ちて、ステージに青い光が射す。
そう、この来日公演には、オープニングアクトとして、
海外のSerena Maneesh(セレーナ・マニーシュ)
というバンドが同行している。
いわゆるシューゲイズな音を鳴らすということで、
アルバムが出たときには、僕も気にしていたバンド。
僕はMyspace上で何曲か聴いていたんだけど、
だいぶ印象が違ったなあ。
もうちょっと陰鬱な湿った感じかと思ったら、
案外にカラリとしていた。ロケンローなギターリフもあり。
まあ歌詞はね、あまり聞かせることを目的としていないと思うし、
音源でも音に埋もれている感じだから、アレでいいんだけど、
もっとPOPな曲やってもよかったんじゃないかなあ。
バンドの音像を掴むまでに時間がかかるタイプだと思う。
あるいはアルバム聴いてないとよくわかんないみたいな。
リズムパターンも一辺倒だし、
歌唱もややもすると呪術的だし、
紅一点のブロンドベーシスト(位置はセンター)がいるから、
見た目的にはなんとかクールさを維持しているが、
彼女がいなかったら、かなりドロドロだろう。
ノイズ大好き!な感じのギタリストの彼は、
頭にキース・リチャーズみたくバンダナ巻いて、
曲の終盤はほとんどノイズ製造機。
ギターの上で痙攣的に手を動かして、
陶酔的にノイズを放つ。
床にぶっ倒れて、まだ弦を掻く。
歌も彼が歌ってるし、彼がブレーンなのかな。
しかしちょっと冗長だったなあ、ノイズがね。
惜しい!
ストリングスの使い方もいまいちよくわからない!
ホワイトノイズみたいなスペーシーな使い方なのかな。
うーん。
3〜40分ほど演奏し、
たっぷりノイズを垂れ流して、アクト終了。

*** *** ***

セレーナ・マニーシュが機材を片付けた後は、
いよいよNINの機材準備である。
途中でドラムが叩かれるのだが、尋常じゃなく響く。
先のセレーナ・マニーシュと比べて明らかに違う。
さすがのNIN。重く、硬く、締まった音。
ドラムがいいってことは、きっと“いい”演奏のはずだ。
どんなバンドも、音源だとあまり分からないけれど、
ライヴ観ると、リズムがいかに肝かよく分かる。
やばい、また鳥肌が立つ。

やや長いインターバル。

ステージ上の灯りが消える。

ステージ上に立ち込める相当量のスモーク。
湧き水のごとくステージに湧き出てきて、
たちどころに機材を覆い隠す。

いよいよか?

まだこない。

スモークの中で繰り返されるチェック。

まだか?

スピーカーからは、
僕の知らないアーティストが歌を歌っている。

長い。

近くで誰かが欠伸をする。
緊張感も限界か。

まだこない。

時刻は8時近い…。

焦らしすぎだろ?

スピーカーからは、
相も変わらず……、



ん……、
今何か違う音が…、

?……気のせいか。

いや……?
耳を澄ますと―

流れる歌の下から、
音が聞こえたような―

歓声のような―

リズミカルな―

それが徐々に大きくなって―

間違いない―

これ―

突如客電が落ちる!

Hyperpower!

ストロボのように瞬く光の中、
大歓声が沸き起こる。

ついに現れたNine Inch Nails!

もう悲鳴。怒号。
あちこちから拳が上がる。

一瞬夢かと思うくらいに現実感を失くす。

目の前の光景が、グルグル回る。

瞬く光の中で、人々が動き回る。

すぐに硬い太いドラムが鳴り響き、
“The Beginning of the End”
センターでマイクを掴んでいるのは、
紛れもなくトレント・レズナー!!
黒い長袖シャツに、やや伸びた坊主。
そしてモッサリとした、
頬を覆っているのは、口元を覆っているのは、ヒゲ!!
ヒゲ!!
おおー、まさに樵(きこり)。
なんで剃らねえんだ! 時差ぼけ?
モッサリしすぎじゃ!!
と憤ってみても仕方がない!!

とにかく受け止めるぜ!!

トレントも前回来日時と同じく、
いきなりフルスロットルな様子で、
上半身でリズム取りながら、
タンバリンを力強くぶったたきながら、絶唱である。
そして会場から巻き起こるは「OiOi」コール!
なんだこの一体感。
僕自身はもう、なんか触れてはいけないものと
握手してしまったような、不思議な気持ち。
こうして書いてても、
あのときの光景が、頭の中に―

“The Beginning of the End”で軽くダッシュしたあとは、
間髪いれずに直線的なディストーションギターが空間を切り裂く。
ドラムが巨大なハンマーみたく、全身を打ち据える。

“Last”

うわー“Last”なんてやるんだ。
どうなの、他でもやってるの?
僕はといえば、
もうトレントの姿を間近で見れるだけで感無量。
ホケーッとして、一緒に歌うどころではない。
ちなみに一番好きなのは、

 「my lips may promise
 but my heart is a whore!」
の部分。

前半はホント飛ばしまくりで、
この次がなんと“Survivalism”
ブリブリのイントロだけで大歓声。
さすがにコレ、一緒に歌唱は難しいんだけど、
それでもこのNINの王道スタイルの楽曲に、
フロアは立てノリで大盛り上がり。
トレントもあのマイクスタンドがっつり掴んで、
足をガッと広げて歌うストロングスタイル。
うーん、もう、とにかくかっこいい。
音も破格に衝撃的だし!!

そしてこのあとが!!
ホント飛ばしまくりなんだけど、
“March of the Pigs”!!
シンセのイントロで俺は拳をあげてしまった!
やーばーいぉおおぉ。
前回はギターの音がちっさくてねえ、
いまいちダメだったんですよ、残念ながら。
しかし今回は決まってた。
ばっちり合唱もしてやった。
マイクの前で息ハーハー言わせながら、
最後締めくくるトレント。
でもここで終わりじゃない。
ライヴではこの後が見所―
“All the Pigs, All lined up”
再び爆走するリズムとディストーションギター…
の中で、ギターのアーロンが、
LiveDVDよろしく、客席にダーイヴ!!
おお、よくぞやった。日本も捨てたもんじゃない。
客の上を泳ぐアーロン隊長。
トレントもハンドマイクで絶唱。
最後はたまらんシャウトでハイボルテージ。
すげー、開始5曲目で、
早くもビッグウェンズデー(大波)。
ってか俺トレントしか観てないけど、
許してくれ。だって好きだから。
モッサリでも(笑)。

前回の単独来日のときも、
このあとの繋がりは一緒だったと思うんだけど、
なんでって、ブートで繰り返し観たからね俺は。
このあとがステージ異常に暗くなっての“Piggy”
もうこの辺の曲はなんて形容していいのか分からん。
ロック? ロックのフォーマットなのかコレは?
いやどうでもいいよ、そんなこと。
俺、大好き、この曲。
ドラムの鳴りがビリビリきてたまんないんだ。
ゆっくりした曲調のせいもあり、軽くクールダウン。
そしてトレントは、前回もそうだったように、
暗いステージから客席を眺め回し、
ゆっくりとそこを降りていく。
そして客席最前列へ!!

 「Nothing can stop me now!」

の部分を客に歌わせている!!
それも一人ひとりにマイク向けてるでしょ?
聞こえてくる歌声が、代わる代わる単独なんだもの。
すごくね? 
トレント・レズナーに目の前でマイク向けられて、
一緒に歌を歌ってんだぜ?
どの方もみなエキサイティングしている心持が
伝わってくる、そしてNINへの愛が伝わってくる、
すばらしい歌声でしたよ、ええ。
再びステージに戻ったトレントは、
ゆったりした、けれど重く強烈なドラム連打が止むと、
手に持った小さな弦楽器(なんだろ)をつまびいて、
曲の終わりのあの印象的なフレーズを会場に響かせる。
完璧だ。
まったくもって憎らしいほどに、
音がキマっていて、ホントかっこいい。
どんな曲でも僕はもうビリビリきてしまう。

このあとは、『Year Zero』からの
セカンドシングル予定(だった?)の“Capital G”
この曲はどっちかっていうと、
曲調は攻撃的ではないし、開けた空気がある。
メロや歌い方も最近のトレントお得意の
「ドタドタした」感じがあるので、
好き嫌い分かれるとは思う、
実際、大盛り上がりとはいかなかったのであるが、
でもこの曲はライヴ向きだよね。
新作からだから、いまいちファンも馴染んでなかったけど、
絶対一緒に歌えるタイプの歌だと思う
(や、必ずしも歌う必要はないんだけど)。

“Capital G”が終わると、鳴り響く、
小さな、細かい、ピリピリしたシンセ音。
DVDで観てきた人には一発で分かるが、
あーこの曲、ライヴでやってくれるとはね。
“Burn”。俺好きなんだ!(←ほとんどなんでも好きだ)。
昔は『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のサントラでしか
聴くことが出来なくて、そのためだけに(というわけでもないが)、
俺はサントラを買ったりしたんだったなあ。
メカメカしてるから、ライヴでやり難いかと思ったら、
LiveDVDでがっつり演奏されてたから、自分、楽しみにしてたんです。
NIN得意の“焦らし”と“爆発”の妙が堪能できる、
とってもカタルシスな曲なんだけど、
なんかいまいち、ファンの方、のノリが…悪くないかな?
俺、個人的にもっと動きたかったんだけど、
なーんか、周りの空気が違うんだよな。
「Burn!」のところはしっかり合唱するくせに、
なーんかノリがいまいちじゃないか!!
「おいおい“Burn”だぜ?」って問いかけたい。
後半のツインだかトリプルだかもう分からんけど、
絡み合って疾走するギターがたまんねーんだ。
どっか吹っ飛ばされそうになる。
ギアをチェンジするようにして、
徐々にスローになって終わるその閉じ方もグーだし、
すごく個人的に好きなんだけどなあ、
ちょっと残念だったりする。

続く“Gave Up”で、

 「it took you to make me realize
 it took you to make me realize
 it took you to make me realize
 it took you to make me see the light!」


の大合唱(抜群にカタルシスです)を経て、
赤い光と黒い影が入り混じるステージに、
不穏なギターのつまびきが、
“Help Me I Am In Hell”を告げる。
ミニアルバム『BROKEN』では、
このあとに“Happiness in slavery”という
破壊的ナンバーが続くのであるが、
このライヴでは、最新作より、
“Me, I'm Not”
まだ新作ということで、
バンドでの演奏もこなれていないからだろうか、
トレントはセンターでノートPCと思しきマシンを
いじりながら、独特のリズム感で、この曲を歌っていく。
ドラムもたぶんPCから流してたかな? 違うかな?
だからライヴ感には乏しかったんだけど、
でもトレントのPCいじる様にまた見とれる俺。
続く“Eraser”では、冒頭のあの、
何の音だか分からない奇妙な音を聴きながら、
僕はスクリーンが今にも降りてくるんじゃないかと、
胸をドキドキさせながら、
メカニカルなオブジェめいた代物が吊る去っている
舞台上を見つめたんだが、、、降りてこない。

あら。

結局降りてこないまま、“Eraser”終了。
こいつはたぶん、スクリーンないなと悟る俺。
観たかったけど、これはこれでよし。
アメリカでのド派手な演出もすごいが、
この小さなハコで、まさしく接近戦、
肉弾勝負を挑んできたバンドを受け止めるのも、
また興奮するコトには違いない。
単に技術的、コスト的な問題かもしれないが。

しばらく間があって、ステージ後方に
ひっそり置かれたキーボードに、トレントがつく。
舞台を照らすのは、仄暗く青い光。
幼い頃からピアノを習っていたトレントは、
どこか物憂げで、切ない旋律をポロポロと弾いていく。
こういう感性もとっても好き。
青い光の中で、影となって、キーボードを弾くトレントを、
固唾を呑んで、見守る客席。
どう繋がるんだろう? なんの曲に繋がるんだろう?
“Frail”?
と思ったら!
あの、渦を巻くような旋律が、ふいに訪れる。

“La Mer”!!

うわー、鳥肌だね。
間違いなく海を想起する。
そして美しい曲だ。
初来日時には、スクリーンに、
海の波と、宇宙が映し出されていた。
でも、この曲とまったく同じリフを持ちながら、
陰鬱に沈み込むような曲が、『フラジャイル』には有る。
“Into the void”
実際音源の“La Mer”では後半にリズムが入るのだが、
だからこの日、僕は“La Mer”の途中で入ってきたドラムが、
そのリズムだと思ったんだよな。

だけど!! 違った!!

“La Mer”から“Into the void”になだれこんだ!
なんて、スマート。イカす。
こんな言葉ですまんが、ほんとイカす。
俺、けっこう“Into the void”好きなんだ。
ホント。このぶっといリズムがたまらない。
自然に歌詞が口をついて出てくる自分に驚く。
初めは周りのおとなしい人を気にしてた僕であるが、
ここらから歌わねば、いや歌いたい欲求がついに打ち勝ち、
ほぼ合唱モードです。歌いまくりです。
僕には珍しいんですよ、コレ。まーまー。
だって次いつ会えるか、わかんねーもん!
(うわさでは来年にも新作をって話もあるけど?)。

この次の“The Good Soldier”だった?
トレントがタンバリン客席に放り投げやんの。
ゲゲッ。キャッチしたの誰だよ。
(註:ってか東京2日目にはキーボードをプレゼント、
 3日目にはギターをあげようとしたが、
 スタッフに回収されたという噂も有る)
ちなみに“The Good Soldier”、俺出だしを聴いて、
一瞬“The Warning”と間違えちった(笑)。
盛り上がれる曲ではないが、
トレントのセクシーな歌声と、
終盤のカオティックな音のうねりは聴き所。

 「I am trying to believe―」

の歌詞が、妙に頭の中を回る。

この次がやべー、ついに大型爆弾投下。
“Wish”
“Into the void”のあたりから、
背中がムズムズ、体の熱が上昇し始めていた僕であるが、
ここでひとつの沸点に達する。
なんだろね。
ある時点で、急に体の体感温度がガッと上がるあの感じ。
何が原因かよく分からないのだけど。
でも、自分の熱量が増加したことを、僕は確信した。
そしてあのディストーション旋風にまみれながら、
マシーナリーにしてライヴ感の有るドラムに身を委ねながら、
一際POPなあのメロディを歌った―

 「wish there was something real
 wish there was something true
 wish there was something real
 in this world full of you!」


たまんない。
閃光の中でこちらに手を伸ばすようにしているトレント、
彼と今、一緒に歌っているという、
ただの一ファン的な心理が、もう体を支配している。
とにかく、うれしくて、気持ちいい。

このあと、まさかの“No, You Don't”(意外に盛り上がる!)を挟んで、
LiveDVDによって、確実にファンを増やしたであろう、あの曲、
僕ももちろん待っていた、“Only”のイントロ!!
あのギターからして、アガる。
ほんでもって、あのダンスなリズムっしょ?
もう踊るしかないよ、みなさん。
曲知らない人でも、確実に踊れるよね。
すげー曲だよ、アレは。
曲調でいえば、“Closer”にも通じるのかもしれないけど、
新たなるマスターピース誕生ですね。

今回の来日では、待たせたことを詫びるかのように、
ポツポツと珍しい曲を入れてきてくれたんだけど、
この次の“Suck”もそんな感じ。
ってか俺曲名思い出せなかった!(笑:失格)
まさかねー『BROKEN』の99曲目…。
日本盤にも98、99曲目の歌詞カードは付されていないのだが、
それでも日本のファンはちゃんと―

 「How does it feel?
 How does it feel?」


―を大合唱。
やっぱり『プリティ・ヘイト・マシン』〜『BROKEN』あたりは、
ほんと曲がPOPなのが、よく分かる。
聴いてる人は、自然に歌詞を覚えてしまっているはず。
いつからか、あの黄金律は意図的かどうか知らぬが、
崩壊してしまった感もあるが、あんだけドPOPなものも、
また作っちゃったりしないのかな。なんて。今更ないか。

いよいよ終盤であるが、ココで、行った人には今更だけど、
トレントにサプライズなプレゼントが。
彼、この前日が誕生日なんですね。
5月17日が。
だもんで、この“Suck”のあと、
キーボードの準備があって、多少空白があったんですよ。
そこで誰が歌いだしたか、HAPPY BIRTHDAY。
もちろん大半の人は、何が起きてるか分からない様子で、
だから大合唱ではなかったんだけど、
それでも誰の耳にも分かるくらいの歌声は巻き起こった。
これにはトレントも素直に感謝。
キーボードの前で、「ありがとう」って微笑む。
「俺、29歳なんだ」ってサバ読みすぎだよ(笑)。
40超えてんじゃねーですかい(笑)。
でもなんつーか、皮肉なもんで、
このハッピーな空気の後にくるのが、
なんと、ホントたまたまなんだけど、
“Hurt”だったっていう(汗)。
はるか彼方に希望を見ながら、絶望に近い風景を歌う、
そんな歌の前にHAPPY BIRTHDAYが来ちまうなんて!
すげー偶然。
だからかどうか、いやだからか、
この“Hurt”の前に、トレントが、
「キャラに戻らせてくれ」と言ったとか言わないとか…、
っていう話があるが…まあ“character”にも解釈いろいろあるしね。
それに、不機嫌な空気ではなかったし、僕が感じる限り。
海外のライヴでは、“Hurt”の最中に騒ぐ客に、
トレントがキレたっていう事件もあったばかりで、
一瞬ヒヤりとしなかったわけでもないですが、
HAPPY BIRTHDAYにキレる人もそうそういないわけで。
無事に“Hurt”の演奏が―
って、わざとらしく(ホントわざとだろ)、
奇声をあげる馬鹿野郎がいましたが、
アレはなんですか? 海の向こうの脳足りんか?
日本のファンって、こういうとき、
しごく当たり前に、おとなしくしてますよね、
曲間で人名を叫ぶとかはあっても、
あんま馬鹿騒ぎする人見たことないんで、
あの奇声を誰が上げたんか、すげー気になるんだけど、
まあ…今更だしね、ホントやめなさいね。

でね、俺は、日本じゃ無理だと思ってたんだけど、
何がって、DVDに収録されてるみたいにね、
“Hurt”の最中に、ファンが炎を掲げるっていう、あの行動。
炎っても、ライターね。松明なんかじゃないよ。
DVDでは、暗いホールのあちこちで、ファンがライターを掲げていて、
それがとてつもなく、幻想的なんですが。

この日。

トレントの弾き語りが、歌が始まるや、
自然に暗いフロアに、ボゥっとオレンジの光が…、

って、ええ!?

ライター?

僕のすぐそばでも。

意外に明るいんだね、ライター。
ってそんなことじゃなく。
誰が誰を触発したのか分からないが、
瞬く間に、あちこちでライターが灯り始める。
誰も止める人はいない。
ライターを握って、天に向かって、突き上げられる拳たちは
何かの意思表示をしているようで、どこか雄々しい。
勇ましい。実際はそこに意味などなかったとしても。
それらがあの瞬間に、あの時間に、
ひとつの空間を作り出していたことは間違いない。
それはとても、なんていうか、僕は、微笑ましかった。

でもトレント、“Hurt”はもう、いいんじゃないかな。
あなたが、昔とは変わったことをファンは知っているよ。
今歌う理由は、自分のためなのか。
それとも“Hurt”を聴きたがるファンのためなのか。
自分のためだとしたら、それを歌うことで、
彼は何を得ているのだろう。何を意図しているのだろう。
すごくいい曲だし、大事な曲でもあるんだろうけど、
今のトレントが歌うことで、あの曲が、
なにか、前とはいささか違った響きをもって聴こえるのだ。
難しく考えず、単に1つの曲としてとらえればいいのか。
だから、もうライヴの最後にはやらなくなったのかな。
そういうことかしら。
ってどんなこと。結局、結論は出せないけど。
まぁ、自分のことではないしな。結局分からない。

荘厳な空間を作りだした“Hurt”
そのあとに、間髪いれずに鳴り響く、シンセ音。
“The Hand that Feeds”
このあたりの流れは、LiveDVD『Beside You In Time』と同一だ。
しかしこの曲は、やはりキャッチーなので、
フロアも一気に動き出す。歌いだす。
間奏では、トレントがハンドクラップしだす前に、
もうこっちはバッチリ頭上で手を叩いてましたね。
あの一体感は、他の何にも代えがたい。
そしてこのあとは〜
どこか民族的なあのリズムが。
“Head Like A Hole”
ホントいい。もう百点満点。
メロが爆発する地点では、
もう前ブロックは大合唱です。
なんかベースのジョーディのコーラスとか
かき消すくらいに大合唱。すげー。
って、俺ももちろん歌った。すげー。
個人的には二番目にハイライト。
書いてなかったけど、一番のハイライトは、
冒頭の“Hyperpower!”から
“The Beginning of the End”の流れ。
ホントあの強烈な光の中から、
トレントの姿が見えた瞬間が、忘れられない。
今でもアルバムで、その曲の流れを聴くと、
ものすごくビリビリしてしまうくらいだ。

“Head Like A Hole”のあとには、
いっさいアンコールはなかった。
手拍子が一瞬巻き起こるも、すぐに電灯が点り、
スタッフが機材片づけを始めるや、ファンはみな散らばり始める。
セットリストやピックやスティックを欲しがる人以外は(笑)。
いっつも僕は、ライヴを観覧すると、それがどのアーティストであっても、
観覧中にほぼ何かしらの匂いが鼻先についてまわっていて、
それは近くにいる人の香水の匂いだったり、
シャンプーの匂いだったり、洗剤の匂いだったりするわけだが、
この日は初めて、それが汗の匂いだったね(笑)。
ハッハッハ。梅雨な感じ。
みんな、お疲れ様。

*** *** ***

ネットで多数見られた、
「別の日もチケット取ればよかった」という意見。
これは僕にもあてはまる。
なんだろう、他のアーティストでこんな気持ちになったこと、
今までないんだけどな。同じこと書いてた人もいたけれど。
単純にNINのファンだから、っていう理由を超えて、
何か他の要因がある気がするのだが、僕にはよく分からない!
あ、ジョーディ(・ホワイト)は、ごつかったな。
マリリン・マンソンが来日したときに、
僕はトゥイギー・ラミレズとして演奏する彼を見ているのだが、
なんかイメージ違ったなあ、だいぶ。
もっと小さいイメージがあったんだけど、ごつい。
そしてジョシュ(・フリース)のドラムもすごかった。
おそろしく的確なんだけど、非常にライヴ感があって、
すばらしい。音もすばらしいんだけど。
アーロンの暴れぶりが余り見られなくて残念だったけど、
いや角度的にね、ちょうど見えなかっただけで、
実際彼は動きまくっていたと思うんだけど、
最後にはアンプ破壊したらしいし(?)。ハハ。

もう興奮すると、こんな表現しかできないのだが、
メ・チャ・メ・チャ、かっこいいライヴだった。
シーンの最前線にいるのかどうかは知らないけれど、
いや、いないのかもしれないけれど、
間違いなく、トップクラスのライヴバンドでしょう?
それをこんな間近で見れるなんて、幸せ以外のなにものでもない。

*** *** ***

バンドとファン、双方の熱量が、初来日時には
NIN > ファン、という関係だったとしたら、今回はきっと、
「>」は「=」になっていたんじゃなかろうか。
いや単に、僕が以前よりも前方で見たから、
そう感じただけかもしれないが、でもあの空間にあった、
エネルギーのぶつかり合いは確かにすごかった。
しごくスマートに、タイトに駆け抜けた、
あっという間の演奏時間は、まるで夢のようだった。

「静」のイメージを持つ曲はほとんどやらずに、
「動」の曲が多かったのには、何か理由があるんだろうか。
もっといろんな曲聴きたかったよ(だったら他の日も行かなきゃね)。

異常にサービス精神旺盛なトレントや、
彼の口にした「Favorite country」という言葉に、
彼の変化を感じたりもした。

でも、いまだに彼、彼らが、大きな人気を持ち続けているのには、
間違いなく、この素晴らしいライヴにも理由があるはずだ。
抜群の音バランスと、個性的で、ときにアグレッシヴ、
ときにダークにしてPOPな楽曲。
さらには、根底にあるリズムへのこだわりが、
ライヴという生の空間において、異常に強く体に作用する。
そしてライティングなどの視覚的演出の妙。
そういった要素(もちろんそれらだけではないだろうが)の複合体に
触れてしまうと、これはもう、半ば「中毒」である。
すぐにまた欲しくなる。

まったくすげえやつらだった。
日本に嵐を巻き起こしていった。
そう思う人、僕以外にも、きっといるだろう。

また、必ず、会いに行こう。

……と、締めくくろうと思ったんだけど、
ライヴ終了後に、あまりの興奮に
「¥4,000なんて屁でもねえ!」
ってな勢いで、僕がTシャツを買う列に
並んだことをつけくわえておく(笑)。
まったく、恐ろしいやつらだ。



Set List
01.Hyperpower!
02.The Beginning of the End
03.Last
04.Survivalism
05.March of the Pigs
06.Piggy
07.Capital G
08.Burn
09.Gave Up
10.Help Me I Am In Hell
11.Me, I'm Not
12.Eraser
13.La Mer
14.Into the void
15.The Good Soldier
16.Wish
17.No, You Don't
18.Only
19.Suck
20.Hurt
21.The Hand that Feeds
22.Head Like A Hole


※Wallpaper from "http://halo22.nin.com"

2007/05/21
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