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■シルバー事件 再想(再走)− シルバー事件25区
□placebo−*01:NAGARE -------------------- story *02, 03,


前作のラスト、モリシマ・トキオは
おそらく24区を出て行ったはずだ。
ネクスト・ウエハラカムイ
(次にカムイとなるべき者=アキラ)を
殺るか、逃げるかという選択をせまられ、
しかし彼はケツをまくって逃げた。
そしてカムイと(間接的に)接触して以降、
彼の頭の中で響き始めた死者(or他者)の
思念を引き連れていったはずだった。
それはつらいことだけど、
けれどトキオはもう晴れ晴れしているかも、
なぜって自分で人生を決めたのだから・・・
ってな感じで、前作のラストを受け取った僕は、
この「placebo」の第一話でいきなり
苦笑してしまった。
なぜってトキオはいまだ・・・欠如感を抱えていたからだ。
社会に対してどことなく斜に構えていたからだ。
まったくと言っていいほどに、
変わっていないように、見えたからだ。

「placebo」の冒頭、
なぜか埠頭につながれている小さな船の中に彼はいて、
こんな独白をする――

『性分ってのはやっかいだな
 たとえ自分で自分のことが
 よくわからなくなったとしても
 何かが勝手に自分を動かそうとする
 自分の体の中で起こる反応だけじゃなく
 体の外側の周辺までもが
 妙な化学反応を起こして一緒くたになって
 状況を作っていくんだ
 運命とかいう言葉じゃ大げさすぎる。
 もっと些細で 繊細で
 だけど 囚人の足首に装着された
 鉄の塊みたいにやけに
 冷たくて確固たるものだよ
 つまりはそいつに繋がれている・・・・・・
 それが オレだ』


こんなこと言う男が晴れ晴れした気持ちのわけがない。
だいたいなんで船の中で寝泊りしている様子なのだ。
謎。説明なし(少なくともこの段階では)。
24区を去ったあと、
誰かに連れてこられたのか。
そして周辺情報から察するに彼は
記憶の一部を失っているようである。
前作でシルバー事件の謎を記したと言われる
「モリカワ・メモ」を持っていった(とされる)
トキオだが、それはどこへいったのか。謎。
持っているのかいないのか。
持っていないとしたら誰かに奪われたのか。
そしてその奪われた記憶および、
メモの中身についての記憶も、
失った(消された?)のか。

船の中で独白を終えたトキオ。
数時間前の出来事を思い出す。反復する。
ちなみにトキオの部屋の曲は
前作と同じである。いかす。
そしておそらく設定としては
前作から5〜6年後(まったく違うかも)
であることを考えると、
トキオももう若くはない。
オッサンではないが、決して青年でもない。
時の流れを感じる。これもNAGARE。

タバコ(プラシーボ)を眺めて、
トキオは20時間ほど前のことを思い出す。
そこでは、誰だか分からない人物に
トキオは名を呼ばれていた。
コイツは誰だ?
政府関係者?
カムイ復活を目論む者?
もしくはカムイに対する存在?
これも現段階では分からない。
トキオに話し掛ける正体不明の人物というと、
前作での24区長のハチスカ・カオルを思い出すが、
舞台は今や25区であるし、
ハチスカではあるまい・・・。

おっといきなりある事実が判明だ。
この謎の人物がトキオの住む場所を用意したらしい!
ここはどこかと尋ねるトキオに対し、
謎の人物は、
 『ボートの中だよ
 私がすべてを用意した』

と答えている。
ムゥウ・・・いったい何者だ?
ちゃんとトキオのペットである
アカミミ(カメ)まで連れてきているじゃないか。

重要なことがある。
この人物の狙いは何かということだ。
なぜトキオに関わってきたのか。
 『やってもらいたいことがある』
と、その人物は言う。
“25区で動くための注意事項”を
トキオに教えるという謎の人物。
 『オマエは25区で起こっていることを
 調べるんだ』

というのがトキオに対する命令らしいが、
なぜ調べねばならないのか?
25区の情報、それもおそらくカムイ絡みの
情報を集約するのが目的とすると・・・
この人物は、ナカネキンシロウ、
もしくはコウサカに近い人間かもしれない。

まずはタワーマンションで増殖を
始めた“死”の原因を調べろ、というのが
第一の指令となるようだ。
そう、トキオの言うとおり、
これは“注意事項”ではなく、“命令”だ。
なぜトキオでなければならないのか?、
という問いに対し、この謎の人物は
よく分からない説明をする。
虫歯が痛くなったら歯医者に行くだろう?
みたいなことを言いやがる。
トキオはもちろん『意味 わかんねェ』である。
敵なのか味方なのか?という問いも却下である。
ふーん。

謎野郎は『まず女神を捜し出すんだ』
といきなり訳のわからんことを言い出す。
とりあえず女神が最重要キーらしい(何の?)。
そしてトキオに禁煙を勧め、
それができたらまた逢おう
などと言って姿を消す。

――それが20時間前。

――3時間前の段階になり、
トキオはようやく“奴”のことに思い当たる。
前作の舞台24区でトキオを巻き込んだ、
巨大な事件の中心に位置していたあの男、
数々の人間に影響を与え、
その人間たちから成り立つ社会を
撹乱・破壊・解放していった
あの男・・・ウエハラ・カムイ
――その名前が出てくるのが10分前。

そしてトキオは目覚めたのである。
またしてもトキオとカムイが絡み始めた。

女神の存在を調べ始めたトキオ。
部屋に用意されていたパソコンで
メッセンジャーを開くと、
予め依頼してあったのか、前作にも登場した、
ネットの裏から表まで知り尽くした
ネット界のサルベージ屋、“/”(スラッシュ)
からのメッセージが届いている。
ちなみにスラッシュといえば、
前作で“蝙蝠”ことエンザワ・カイジによって
葬られたと思っていた(事実エンザワがそう口にする)が、
あれはどうやら・・・エンザワの脅しだったようだ(?)

スラッシュからのメッセージはこうだ。
 『れいのとこ、パスわかったよ』

例のとことは、非合法サイト「クォーター」。
どうやら女神はそこに関係しているようだ。
そしてどうやらクォーターは、
ポイント制で女の子と会話できる
チャットの一種であるようだ。
ということは“女神”とは・・・。

スラッシュから購入したパスでクォーターに
ログインし(ハンドルネームはやはり亀男)、
実瑠(ミル)という女の子と接触するトキオ。
彼女は稼働率トップ3に入るパフォーマー。
何のパフォーマンス?
 『ネット上でのバーチャルな他人との会話
 っていうパフォーマンス』
(スラッシュ)。

実瑠から女神と会話するためのパスを
聞き出すのが、とりあえずのトキオの仕事になるようだ――
しかし実瑠って子は
『気分屋で気難しくて切れやすいらしい
 つまり最悪な性格』
(スラッシュ)なので、
聞き出すのに苦戦するが、
彼女は何故かトキオが彼女以外のパスを
知りたがっていることを言い当てる。
彼女は言う、文字の流れ読んでいると。
NAGARE。入力の間。語尾。言葉遣い。内容。
そこから相手の考えていることが分かるという。
まさにネット社会の生み出した能力である。
他人の口からではなく、キーボードから発せられる
言葉を見て、触れて、そこから感覚的に、
相手の思惑を感じ取るのだ。それは悲しいことだろうか。
実瑠との会話から、女神がクォーターにおける
稼働率トップのパフォーマーであることが判明する。
しかし一年後まで女神は予約で一杯。
とてもトキオが真っ正直に行って、
話せる相手ではないようである。
分刻みで、昼夜問わず、寝る時間以外は
チャットしつづけるという女神。
そして一時間単位でパスは変わる。
どうにかトキオは、その日の夜11時からのパスを
入手したが果たしてそれでどうやって女神と話すのか・・・。

スラッシュに相談・調査依頼の末、
女神の上客の1人、ヤギサワ・シュウジ
と対面するトキオ。第7エリアの時計塔の下。
今夜11時からアクセスする予定のヤギサワの
ユーザー名&パスを使ってトキオが女神と話すとしたら、
ヤギサワとの重複アクセスをどうにかして
回避せねばならない。重複アクセスはロックの対象だ。

そこでトキオは一計。

ヤギサワは、トキオから教えられた偽の名前とパスで
今夜は特別に女神とスペシャルな時間を過ごせると思い込む。
クォーター側の人間を装って、ことを上手く済ませるトキオ。
質の悪い人間なら、ここでヤギサワを始末していることだろう。
前作で『人を殺すのは主義ではない』という
旨のことを言っていたトキオらしい。
もちろん彼は、“処分”が仕事の凶犯課や地域調整課の人間と違って、
一般人であるから、しごく当然の行動かもしれないが。

ん、トキオの車、変わったようであるが、
車に詳しくない僕にはよく分からないな・・・残念。
これも例の謎の人物が用意したのだろうか。

ヤギサワとの対面から帰ると、
jackという名前で亀男宛てにメールが届いているが、
これってバー・ジャックハマーのマスター?
言葉遣いとかね、内容とかがね、
何かマスターっぽいんじゃ。
 『きっとまた何かが起こるんでしょうね。
 あなたはまた、自分を壊すつもりで
 ここに来たのでしょうから。』

と結んでいるが、こんなこと書けるのってやっぱり・・・。
あ! これって一種のNAGAREを読んでいることになるな。
あ、でもなんでマスターがトキオの
メールアドレス知ってんだよ・・・ってね。
まーここでそんな細かい点はいいや。

ついに女神と会話するトキオ。
しかし女神はカメラなし、文字のみである。
名前はまたしても未琉(ミル)。
彼女は開口一番(っても口で話してないが)
なぜか、トキオがヤギサワのユーザー名で
アクセスしているにも関わらず、
彼が“亀男”であることを察している。
これもひとつのNAGARE? いや違うか。

彼女は他にもミルがいることを教えてくれる。
字は美流。三人ともクォーターのトップ3。
女神こと未琉は言う、
 『ワタシがオリジナル。ほかはコピーなの』
コピー=チャットプログラム。
画像はCGだという。
女神ひとりでは客をさばけないために生まれた
コピー。
女神の会話プログラムを組み込んだコピー。
女神が会話のNAGAREを読めるから、
他の2人も読める、ということらしい。
その本家本元オリジナルに、
 『あなたは記憶の一部を失ってるわ』
と読まれるトキオ。そして、
トキオが登場するのがもう少し
早かったら、自分は助かっただろうと女神言う。
どういう意味だろう?

 『もうすぐワタシは殺されちゃうから』

と未琉。
誰に? 何故? いつ?とトキオ。
応える女神――
“誰に?”は女神も分からない。
“何故?”は、「ここ25区にワタシが本当は必要だから」。
“いつ?”は、もう、すぐに・・・(!)
どういうことだ? 必要だから殺されるとは?

そしてトキオの要望に応えて顔を明らかにした女神は、
その直後に、何者かによって殺害される・・・!
トキオの部屋で電話が鳴る。
だまされたと知ったヤギサワから抗議の電話である。
放心状態で女神の死を告げるトキオ。
対して突然に興奮しだすヤギサワ。
女神が死ぬ直前のログをくれといって騒ぎ出す。
 『そのログ 超貴重!』
なんとなく、
前作でアイドル“バイアン・サヤカ”が
自身のプライベートまで商品にされていたことを思い出す。
そして彼女は自殺したが・・・。

興奮状態のヤギサワは、トキオに、
あるゲームが存在していたことを教える。
『サドンデス』。
要約すると、タワーマンションの住人の中で、
次に誰が死ぬかを当てるゲーム。
クォーターの中で流行っていたらしい。
これも、マンションの中で謎の死が増幅していたからだろう。
4ヶ月で9人が死亡。女神が10人目。
ということは、女神もタワーの住人だったということだ。
(ちなみに犯人、および、なぜそんなに死者が出ているのかは、
ここでは不明ということになっていますが、
このテキストを更新順に<順繰りに>読んでいる方は
ここで犯人を推理してみると面白いかもしれません。
ヒントは現場がタワーマンションであるということ、
そしてタワーマンションと言えば・・・凶犯課が捜査してました)

ヤギサワは、クォーターのユーザーが
全員タワーの住人であったと言う。
だから彼らは、サドンデスに熱中したのだと。
次に死ぬのは、隣の部屋のやつかもしれないし、
あるいは自分自身かもしれないと。
そして彼は、タワーでの死は、
公には自殺とされているけれど、
実際は他殺か病死か事故死かもよくわからない、
ということまで知っている。
そこにあるのは、そう、スリルだ。

なぜヤギサワが興奮していたかというと、
彼は10人目の死者が女神だと予想していたからだった。
そして予想が的中すると、ステータスが上がるという。
クォーターでのステータスが。
人の死にベットしてステータスを上げる・・・。
これもまた超管理社会25区の歪みなのか。
いや、今この現代においても起こり得る話だコレは。
そこには悲しみはない。あるのはグロテスクさ。
そして怖さだ。だから確かにスリルもあるところが、悔しい。

トキオはそんなサドンデスに怒りを覚えたのか、
ヤギサワに一言云う――
 『次は、オマエが死ねよ』

ヤギサワが女神に賭けた理由。
それは美流――まだトキオが話していないミル、
彼女が女神の死を予言したからだという。
そのチャットログをメールにて読むトキオ。
彼女(および他のミルも)を現代のシャーマン
と呼ぶヤギサワだが、それはNAGAREを読むという
意味においてだろうか。
実際にヤギサワが美流と行っていたのは、
お遊びである。
美流の占いを絡めて体のいいようにしているが、
自己の欲求を満たすエロチャットの側面も窺える。
もしも美流がそうした性的刺激の下に
占い師、シャーマン的な能力を発露させていたのだとすると、
これはなんとなくやっぱり田口ランディ『コンセント』
をイメージする。前作のある部分にもそうコメントしたけれど。

スラッシュから送られてきた、
タワーで変死した10人のリスト。
その10人になんら共通点はない。
有益と思われる情報は、10人目の死者、
女神こと未琉の本名が
どうやらユズキ・ミルらしい、ということだ。
ユズキ ミル 女 ライブチャットパフォーマー、
部屋は・・・75045号室・・・!?
これはどこかで見た部屋番号だ。
凶犯課が捜査していた部屋(#01:new world order参照)。
ということは・・・犯人は・・・。

三人目の「ミル」――美流と話すべく、
再びクォーターにダイヴするトキオ――
美流、彼女の容貌は、実瑠と同じだ。
ということはやはりプログラム?
いや生身の人間であろうとも、
容貌に関してはCGを使うという方法もあるだろう。
一概には言えない。
プログラムかどうか、そして占いの能力があるのかどうか、
ということについて、美流は
 『真実かどうかなんて関係ないんじゃない?』
関係ないって何に?とトキオ。
美流:
 『生きていくことに』
しかし結局どうやら美流はプログラムで、
たまに予言をする、というか予言があたることがあるようだ。
もちろんそう言われても、それが真実かどうか分からないが。

そう、ここで危うくプレイヤーが忘れていた問いを、
トキオが代わりにしてくれる。
“なぜ女神が死ぬとわかったのか”と。これ大事だよね。
ホントね、このゲームは考える部分が多くて、
考えるべきことを見失う。
美流は言う、9人の死者に共通点を見つけたのだと。
何だ? リストを見ても何もなさそうだったが。
年齢、職業、部屋番号、性別・・・。
しかしその裏、彼ら被害者に共通してあったのは、
超管理社会が生んだ笑えるほどに滑稽で、
グロテスクに歪んだ“殺される理由”だった。
それはつまり『ルールを破った』という理由。
しかも取るに足りないルール。
ゴミ出しの日を守らない、
内緒でペットを飼っている、
夜9時以降に楽器を演奏する、
壁に釘を打ち付ける、
不要郵便物を他人のポストに放り込む、
部屋で石油ストーブを使う・・・。
肝心の女神はというと・・・、
燃えるゴミと燃えないゴミを一緒に出したこと・・・?
なんだそれ。最後はベランダから捨ててたって・・・
そんな理由で本当に殺されたのか。
もちろんそれもまた真実かどうか分からないんだけれど、
少なくとも僕は、これがタワーで量産された死の
真相だと思う。
もちろん、犯人たちを行動に駆り立てるのに、
ある種の歪みが必要だったとは思うけれど。
犯人たちがそんなに過剰に「処分」を行うのには、
なにかしらの“力”が必要だったはずだ。
いわば暴走行為だから。そう、カムイ、みたいなね・・・。
でもルールを破ったのが殺害のきっかけ、
というのは真実だと思う。

トキオに女神の死に立ち会って欲しかったと言う美流。
何のために?とトキオ。
美流は言う、

 『これが始まりだから』

最後に彼女に対して三択で質問ができるが、
ここにはその内のひとつに対する回答を記しておく。

 トキオ:
 『何の始まりだ?』

 美流:
 『別な日常の始まり 以上よ またね』

ログアウトしたのち、
トキオは部屋で叫ぶ――

 『クソったれの・・・・・・ガキが!!!!!』


カムイの影が、ちらつき始める。


*02:TIGIRIへ続く・・・


2006/03/22
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