■The Silver structureのTOPへ


シルバー事件を追想(追走)する。[2/4] ---------------→ page#1#3#4


まず僕はこの作品、『シルバー事件』を
伊集院光さんがやっていた深夜のゲーム番組で知った。
何か妙な画面構成だと思ったのと、
表現がグロテスクそうだなと思ったのは覚えている。
それからしばらくして僕はこの『シルバー事件』を購入。
後に、この作品も須田さんの手がけた作品だと
知ることになるのだけれど、
このときはまだまったく知らなかった。

ツラツラ書くより、
ゲーム本編が始まる前のプロローグとでも言おうか、
その一文を見てもらえば
少しの世界観なりが伝わると思う。
(無断で引用すいません。。)

 『カントウ国家経済行政特別自治区
 「24区」は
 人口の増加に伴い
 5つのエリアに細分化されてきている。
 かつて、公募により入居した
 居住民には、8割の低収益者層と
 2割の高収益者層が
 発生している。
 各層間の最も著しい対立
 反感の構図は、収益格差ではなく
 情報発展途上層と先進情報層との
 確執である。
 犯罪発生件数は著しく増加し
 報道特別番組、通信情報網を
 媒介として伝播する。
 人口10万人
 区長ハチスカは5期目に突入。
 伝染性凶悪犯罪を
 即時抹消する組織――
 中央警察部、凶悪犯罪課。
 「シルバー事件」で名を馳せた
 広域捜査団の主任特別捜査官
 コトブキシンジによって組織された
 エキスパート集団である。
 「シルバー事件」担当
 元広域特別捜査官
 “カムイを逮捕した男”
 24署凶悪犯罪二課特別捜査官
 クサビテツゴロウは
 帰宅途中であった。
 クサビテツゴロウ、44歳。
 真冬の夜の出来事だった――――』



この文章に続いて、ゲームの導入部である
『case#0:lunatics(ルナティクス)』がスタートする。
僕はゲーム本編が始まった途端に度肝を抜かれた。
画面の構成がまったくもって、
見たこともないものだったからだ。
ウィンドウ外で絶えず伸縮し、明滅する光線。
その中に浮き上がっては消える文字。
何ら意味はないのかもしれないが、
それらを僕の頭は情報として受け取ってしまったのだ。
だから情報量過多となった僕の頭は、
一時的に混乱してしまった。
この画面構成というか表現手段は全編に渡って変化しない。
この「情報量過多」を視覚的に表現した画面は、
『シルバー事件』の世界観を象徴している気もする。

物語は、“伝説のヒットマン”と呼ばれ、
過去に「シルバー事件」を起こしたとされる、
暗殺者「ウエハラカムイ」を軸にして展開されていく。
物語は全12編。
各事件に、事件発現編である
Transmitter(トランスミッター)と、
事件解析編であるPlacebo(プラシーボ)が、
それぞれ用意されている。
トランスミッターでは、プレイヤーは、
公安特殊部隊「リパブリック」の隊員を経て、
凶悪犯罪課の捜査官となった「デカチン」となり、
さまざま事件に遭遇することになる。
ちなみに「デカチン」というのは、
クサビ・テツゴロウから付けられたあだ名だ。
チンチラみたいな顔をしたデカだから、と…。
そしてプラシーボでは、プレイヤーは、
フリーライター「モリシマ・トキオ」となり、
「デカチン」の遭遇した事件を別角度から追跡し、
真相を究明することになる。
物語は12編と書いたが、
その中で少しずつ、
ウエハラカムイという人間の正体と、
彼が起こしたシルバー事件の「謎」が、
明らかになってくる。
こういう連作短編集みたいな構造は、
小説やマンガなんかでは全然珍しくないけれど、
ゲームではあまりなかった気がする。

物語中で一部の人間に認知されている、
(公にはなっていない)シルバー事件の概要は、
マニュアル中の記述を元に組み立てるなら、
こうなるだろうか――

市場経済主導型社会主義国家「カントウ」には、
過去に非営利組織として活動を行う
FSO/TRO/CCOの3派が存在した。
3派は国家の疲弊という隙をついて、
行政への発言権を強大化させていく。
1979年3月に「直接行政制度」が導入され、
「ゴミの収集から治安までのボランティア化」が行われると、
3派はいよいよ行政然とした活動を始めるが、
この3派の活動資金は企業個人献金を財源としていたので、
企業間の対立がそのまま派閥の対立へと発展。
FSO対TRO/CCOという対立が表面化する中で、
新区長選出選挙公示日の6月6日に
TRO/CCOの連合執行委員長ナカネ・ギンジが暗殺される。
犯人はウエハラカムイ。
彼はその後TVタワー内のTRO/CCO連合本部に赴き、
長老10人を殺害
現場に駆けつけた当時広域特別捜査官であった
クサビ・テツゴロウはカムイを逮捕。
そして事件は一応の収束に向かうが、
カムイに殺害を依頼した主は不明のまま――

ほとんど引用になってしまって申し訳ないんだけれど、
これがシルバー事件の概要のようだ。
なぜ「シルバー」かというと、
被害者が全員高齢者だったから…。

事件後、3派は事実上解体(?)され、
初代24区長のハチスカ・カオルは、
行政機関の対立を改善しようと、
旧TRO派をもとに通産局・財政局、
旧CCO派をもとに資産運用局・環境局を設立。
行政監査警察局内には、
旧TRO派を中心にした中央警察部と
旧CCO派を中心にした公安警察部を設立。
ちなみにクサビが属する凶悪犯罪課は中央警察部だ。
だからといって彼が「TRO」の人間なのかというと、
それは明らかではない。
物語中、
デスファイリング特別捜査官のムナカタ・リュウに、
「どこの派閥なのか?」と問われても、
クサビは、のらりくらりとはぐらかしてしまう。
ちなみにムナカタはなんと、
陰でTROの長官を勤めているようだ(!)。
『case#5:lifecut(ライフカット)』の中で、
ミコシバ・ケンタが、
ムナカタを「長官」と呼ぶところから分るそうだが、
僕には全く分らなかった…。注意が足りない。

それはさておき、
このへんの政治的な組織関係、
およびその各組織の思惑が、
僕にはよく理解できないのだけれど、
少なくともシルバー事件をプレイする上では、
極めて重要な要素となっていることは間違いない。
クサビが属する凶悪犯罪課には特別捜査官として
5人の刑事が存在するが(本部長のコトブキ・シンジも
含めれば6人、物語終盤で配属されてくるミコシバ・ケンタと
ナツメ・サクラも含めれば8人)、
一見穏やかそうな彼らの間でも、密かに、
過去の派閥対立の残像がゆらめいているようなのだから、
物語の理解はますます厄介になる。

物語は、過去にシルバー事件を起こしたとされる、
ウエハラカムイが、収容先の病院から消えた
『case#1:Decoyman(デコイマン)』から動き出す。
一方でモリシマ・トキオは、
かつての上司であるS.INOHANAからのメールで、
カムイの「けつの毛一本まで」調べあげることを依頼される。
報酬が高額なのと、
「そのとき丸が三角に見えるほど
酔っ払っていた」のが原因で、
彼は依頼を受けることになり、カムイに関わっていくことになる。

『デコイマン』の中で行われた犯行は、
ある意味カムイに嫉妬した、
シモヒラ・アヤメの手によるものであることが、
「デカチン」たちの捜査で分る。
彼女はカムイの手口(殺害方法)をまねて、
なおかつ若い女性をターゲットにして、
犯行を重ねていたのだけれど、
それはなぜかといえば、
彼女らがみなカムイの子を宿していたからだ。
嫉妬の末にカムイのコピーキャットと化したアヤメ、
そんな見方ができる。
カムイを病院から連れ出し、
その際に職員を殺害したのもアヤメだったのだ。
アヤメはデジタルクリエイターとして活動する
カムイのパートナーであった。
職場はアトリエ「グラジオラス」。
一緒にクリエイティヴな活動をしていく中で、
男女の関係になったのだろうか?
ただ、『シルバー事件』全体の物語が終盤を迎えると、
アヤメの犯行の動機が
単純にカムイへの愛情からきた嫉妬のためであるかどうかは、
判然としなくなってくる(この話題にはまた後で触れる)。

さて、僕はもう『デコイマン』まで進んだ時点で、
胸はドキドキだった。
完全にシルバー事件の世界に飲み込まれていた。
個性的過ぎるキャラクターたちが話す渋すぎるセリフ。
ときには絶妙なセンスでジョークを飛ばしさえする。
『トワイライト〜』からキャラクターデザインを手がけている
宮本崇さんの描くキャラがまた素晴らしい。
陶器のような冷たい肌と、クールで知的な顔立ち。
シルバー事件の世界観に実に溶け込んでいる。

ここからは僕なりにシルバー事件を整理していこうと思う。
このテキスト、誰かに読んでもらうため、というより、
自分の頭を整理する意味合いの方が強いのかもしれない。
長くなるので、しっかり読む気の人は
トイレ行っといてください(笑)。
きっとプレイしていない人にはよく分らないことを
書いていくことになるかもしれませんが、
興味を持ったなら、是非読んでみてください。
それともろにネタバレをしていますので、
思うところがある人は、読まないようにしてください。
では――

『case#5:lifecut(ライフカット)』の冒頭で、
カムイは病院を脱走、
そして国家重要人物7人を次々に殺害
メディアはこぞって彼を取り上げ、
ちまたには「カムイは救世主」という声さえ聞こえ始める。
凶犯課総動員による、
「カムイ処分作戦」が実行されようとする中、
24署の屋上で副署長(元は本部長だが昇格)の
コトブキはクサビに弱音を吐く――

 『モリカワの報告書が漏れたことで、
 派閥が表面化する』

と彼は言う。
モリカワというのは、
凶犯課の一課の捜査官だ。モリカワ・キヨシ。
彼はコトブキから、
過去の「シルバー事件」の捜査を単独で指令されていた。
ここが僕にはよく分らないのだが、
つまりモリカワ、そしてそのモリカワの捜査を通じて、
コトブキ自身もまた、
シルバー事件の「真相」に迫りすぎたということだろうか。
そのため真相を隠蔽しようとする、
「上」から命を狙われることになった…。
そしてもはやどうにもならないと悟ったコトブキは、

『刑事が「しようがない」という言葉を使うときは死を意味する』

という自らの信念に基づいて、
「“しようがない”んだ」とクサビに言ってしまう。
コトブキの信念を知るクサビは驚くが、
コトブキは同じ言葉を繰り返す。
その直後、屋上には銃声が響き、
コトブキは血の海に倒れる
クサビは――

『己(俺)がケジメをつけますよ。成仏してください』

と、自分がこの事件に
ケリをつける意思であることを、
コトブキの亡骸に誓う。
果たしてコトブキの死が自殺なのか、
クサビによる他殺なのか、それは分らない。
しかし公には「クサビがコトブキを射殺
ということになっているようで、
国際環境ビルの中でカムイ処分作戦が進行すると同時に、
モリカワはコトブキの弔いと称してクサビを処分しようと追いかけ、
そのモリカワとクサビをハチスカが追うことになる。
説明しておくと、
ハチスカというのは凶犯課一課の捜査官ハチスカ・チヅル。
彼女の父親は区長のハチスカ・カオルでもある。
ちなみにモリカワとは男女の仲。
凶犯課が半ば崩壊していくように思える中で、
国際環境ビルの屋上に追い詰められた「カムイ」は、
両隣のビルから狙撃隊に蜂の巣にされ、あっけなく処分される。

その後、モリシマ・トキオから
メールをもらった「デカチン」は、
キンジョウビルへと赴き、
そこの主キンジョウ・タケシから、
20年前に起きた「シルバー事件」の背景と、
今現在起こっているこの騒動は何なのかを説明される。
キンジョウはパックアップ屋、
つまり違法捜査担当の民間の警察組織。
彼は自分はモリカワに飼われていたのだと言い、
モリカワから、すべての謎を
アキラ(デカチン=主人公)に
託すように言われたという。
そして彼は語り始める。
まず20年前に起きたシルバー事件は
「再開発事業の資金を奪うためのつばぜり合い」。
どういうことか言うと、

 1.区の再開発事業には莫大な金が動く。
 2.その金を独り占めできたなら、24区を牛耳ったも同然。
 3.しかも24区は遷都の対象になっており、
  区の掌握は国家(カントウ)の掌握を意味する。
 4.そして動いたのがTRO/CCO連合。
 5.シルバー事件発生。

キンジョウの話を整理するとそういうことになるだろうか。
しかも彼は、
シルバー事件の犯人を「カムイ」と名づけたのは
TRO/CCO連合だと言う。
彼らはFSOに事件の尻拭いをさせることで、
FSOを解体に追い込んだのだそうだ。
――国家掌握に邪魔な対立組織の抹消。
しかしこの「尻拭い」の意味が僕には良く分っていない。
これは、そもそも「カムイ」に
TRO/CCOの長老を殺害させたのが、
実はTRO/CCO側の意思であったということだろうか?
そしてTRO/CCOはその罪を対立関係にあるFSOに着せた。
しかも犯人を
「ウエハラ・カムイ」と名づけた(その意図も分らないが)。
そういうことだろうか?
そしてFSOは濡れ衣を背負って、解体を余儀なくされた…。
キンジョウの口ぶりからすると、
多分そうなのだろうと…僕は思う。
それがシルバー事件の背景で、
それから20年後の1999年、
つまり物語中の「現在」において、
なぜ再びカムイは暗躍したのか?
これは「FSO側が過去の清算をTRO/CCOに仕かけた」のだと
キンジョウは言う。
FSOがその戦いに使っているのは他ならぬ「カムイ」だ。
自分たち(FSO)を解体に追い込んだTRO/CCOの駒「カムイ」。
その「カムイ」を
あえて権力の奪回に使用するというこの皮肉っぷり。
FSOは、シルバー事件の20年後の1999年に、
「カムイ」に国家重要人物を殺害させ、
TRO/CCO側が動揺している隙をついて、
再びトップに踊り出ようという、
そういう魂胆であるようだ(僕の考えでは)。
ということは、24区に過去に存在した3派閥(TRO/CCO/FSO)は、
現在客観的には消滅しているが、実は今もって存続しており、
しかもFSOは20年の間権力の奪回を
虎視眈々と狙っていたということになる。恐ろしい。

しかしここで最も肝心なことは、
例の「シルバー事件」が
20年前に起きた事件であるということだ。
ということは、
その当時(1979年)に
TRO/CCOの兵隊として使われた「カムイ」と、
今現在(1999年)FSOが使っていた「カムイ」の、
見た目がまったく違っていない(若いままに見える!)のは、
明らかにおかしい。
これは一体どういうことなのか。
これは、ゲーム製作側のうっかりミス、などではない。
では何なのか?
キンジョウは、FSOはカムイを沢山作った、と言っている。
そして国際環境ビルの屋上で射殺されたのはダミーだ、とも言う。
さらに「ある記憶装置を解放すれば、
ストックされたカムイがよみがえる」とも…。
これは一体どういうことなのか?
それをこれから整理していこうと思う。

キンジョウと話した後、「デカチン」は
彼からのメールで、
タバコ屋「マルホランド」の自動販売機を開け、
そこから都市、24区の地下へともぐっていく。
かなり深くまで潜り、
ハチスカ森林公園行きの列車が出る
プラットホームにたどり着くと、
そこにはクサビを追いながら、
なおも「シルバー事件」の真相に近づこうとするモリカワがいて、
彼は「デカチン」に何かを話そうとする。
が、その直後、
彼はどこからか現われたクサビに射殺される。
なぜクサビは同僚のモリカワを殺さねばならなかったのか?
もっとも妥当な理由は、公式HPにもあるように、
「殺らなければ殺られるから」、だと思う。
では逆に、なぜモリカワは
クサビを殺そうとしなければならなかったのか?
国際環境ビルで主人公に出会ったとき、
モリカワはコトブキ
(クサビに弱音を吐き、死んだ元本部長)から
そう頼まれていた、と言う。
いったいどのように頼まれていたのか?
「自分が死んだときはクサビを処分してくれ」とでも?
コトブキは、自らの死にクサビを巻き込もうとしていたのか?
しかしコトブキは、死の前にクサビに後のことを頼んでもいる。
これではコトブキの意思が矛盾してしまう。
考えられるのは、
もしかするとモリカワとコトブキが
同じ派閥だったのでは…というもの。
だからひょっとしたらコトブキはモリカワに
「テツ(クサビ)には気を付けるように」という
指示なんかを出していたかもしれない。
自分たちの「派閥」のことを気取られないように。
そしてコトブキが死んでしまうと、
モリカワはクサビが派閥のことを感づいたと思い、
彼を追わねばならぬことになった…強引な推理かな。

とにかく、この後主人公は、
クサビを置いてすぐに電車に乗り込み、
TV塔(かつてのシルバー事件の現場)のふもとに到着する。
そして、クサビ処分の命を受けたハチスカ・チヅルと対峙する。
が、彼女は主人公を追ってきた
ナツメ・サクラによって、射殺される。
TV塔へ向かう道すがら、
サクラは主人公に24区についての話を始める――
彼女は24区は「実験場」なのだと言う。
この24区では、20年前に、「適切な区民」を育成し、
「不適切な区民」は排除するという、
とんでもない計画が行われていた(ている?)という。
不適切な区民を排除する組織には
クサビらが属する凶悪犯罪課や、公安特殊部隊が該当する。
そして「適切な区民を育成」したのが「シェルター・キッズ政策」。
この政策で育成されたのは1440人(←公的な数字)の男児。
彼らは4年間、
24区の地下で生活させられた後、社会に放出されたという。
ただし、ここで僕がハッキリしないのは、その政策の目的だ。
いやもちろん「適切な区民」を作るのが目的なのかもしれないが、
サクラはシェルター・キッズを
対カムイとの接触を目的に
犯罪力を研究開発するためのサンプル
」と表現する。
「対カムイ」ということは、
つまりカムイに対する存在、つまり「敵」なのか?
シェルター・キッズはみな、
「対カムイとの接触から得られたデータによると
このサンプルはこれだけの犯罪力がある」とか、
区から判断を下されるということだろうか?
いやそもそも、ここでの「カムイ」が、
どういう存在なのかがわからない。
上のキンジョウの話に依れば、
シルバー事件を起こしたカムイは、TRO/CCO側の「産物」だ。
なぜそこに区(というか環境庁?)の政策が絡んでくるのか?
なぜ「対カムイとの接触を目的に
犯罪力を研究開発するためのサンプル」が必要なのか?
僕が思うに、はこれは「区(あるいは環境庁)」というよりも
「FSO」の人間が計画したことなのではなかろうか?
FSOは権力奪回の為に「カムイ」、
つまり凶悪な犯罪者を作りたかった。
この場合の「対カムイ」とはつまりカムイを処分する側、
凶悪犯罪課や公安特殊部隊ということにならないだろうか。
そして「サンプル(シェルター・キッズ)」は
それらの処分係と犯罪者として接する中で、
自らの犯罪力を測定される。
そこから得られたデータが何に使われるかといったら、
より凶悪な犯罪者を作るために
「シェルター・キッズ政策」の
プログラムに還元されるのではなかろうか。
こうやってFSOは、
より強くて従順な「カムイ」を作っていったのかもしれない。
(そのように考えると、FSOがサンプルのデータを得るためには、
処分する側[凶悪犯罪課、もしくは公安特殊部隊]に、
FSO側の人間がいる必要が出てくるが。)

サクラは「カムイ」の人生は終わらないという。
ある「カムイ」が消滅しても、別のカムイ、
つまり別のシェルター・キッズがその人生を継承するのだという。
(その方法はこの時点では良く分らないが。)
キンジョウの話と合わせれば、
現行のカムイはFSOの産物であり、シェルター・キッズは、
FSOの作る「カムイ」のストックだったということだ。
FSOは「シェルター・キッズ政策」を通じて、
伝説のヒットマン「カムイ」を作り出していたということになる。
もしかすると国際環境ビル屋上で射殺されたカムイは、
FSOがお役ゴメンと判断した「カムイ」なのかもしれない。
だからしごく容易に処分されてしまった…。

ここまで来ると、
「シルバー事件を起こしたカムイ」と
「現在のカムイ」は、
おそらく別人であるという結論にたどりつく。
そしてこれもおそらくだが、
後者はシェルター・キッズ。
したがって、現行のカムイの年齢が若げだったことには、
これで説明がつく。
しかしだとすると、
「シルバー事件」のカムイはどうなっているのか?
逮捕をされたはずの彼はいまいずこ?
生きているのか死んでいるのか?
焦らすようだけれど、これについてはまた後に触れることにする。

さて、さらにサクラは、
「カムイは男だけのストック部隊で、
女のストック部隊も存在した」と言う。
そのストック部隊を作る計画が「アヤメ・マスプロ」。
『デコイマン』で連続殺人を犯した、あのシモヒラ・アヤメは
「アヤメ・マスプロ」における雛型のアヤメであったという。
サクラは「シェルター・キッズ政策」と同じく、
アヤメ・マスプロにおいても
1440人の女児が世に放出されたと言う。
しかし公式HPを読むと、
この「1440」は公的な数字で、
実際に計画に利用されたのは、100人にしか過ぎないとのことだ。
そして「シモヒラ・アヤメ」がアヤメ・マスプロにおける雛型、
つまり彼女の人格を大元にして、
それが他のストックに複製された、というのも偽りで、
彼女は実際には100人の女児
(というかアヤメ自身を抜かせば99人か)
を束ねる班長の役割を勤めていただけだそうだ。
彼女が班長であった故に、
計画名が「アヤメ・マスプロ」
になったのではないか(僕の推測)。
さて、話を元に戻すけれど、
ここからさらにサクラは衝撃発言を連発し、
アヤメに殺された女3人も、
アヤメ・マスプロで作られた「アヤメ」だったと言う。
ここで、先に記述した
「シモヒラ・アヤメの連続殺人の動機」が、
単純な「カムイの子を宿した女3人への嫉妬」
であるとも言えなくなってくる。
まず、アヤメに殺された女3人が、
カムイの子を宿していたというその事実。
「シェルター・キッズ」として育った「カムイ」の子を、
「アヤメ・マスプロ」で作られた
「アヤメ」たちが、宿しているのだ。
同じような地下環境で育成された男女同士が結びつくさまは、
そうする以外に子孫を残す方法がなかったのではないかという、
「サンプル」故の悲しみ、
さらには的外れかもしれないが、
抗うことのできない「運命」のようなものさえ感じさせる。
つまり、シモヒラ・アヤメは、
(自分と同じような環境で育った)
「カムイ」の子を宿した「アヤメ」3人を殺害し、
さらには自身――
シモヒラ・アヤメ=アヤメ・マスプロにおける班長も、
カムイの子を宿していたということになるのだ。
そこには単純な嫉妬を超えた
何か業のようなものさえ感じてしまう。

また話を元に戻すけれど、
ここからもサクラの衝撃発言は止まらず、
彼女はハチスカ・チヅルも「アヤメ」だと言う。
父親、つまり区長のハチスカ・カオルに、
「アヤメ・マスプロ」初期の実験材料にされたのだと・・・。
そして最後に、
サクラは自分も「アヤメ」であることを明かす。
サクラの父親であり公安特殊部隊の隊長ナツメ・ダイゴは、
どんな気持ちで娘を実験材料にしたのであろう。
彼は「自分はいつかここ(三角塔)で育った人間に殺される」
とサクラに言っていたそうだが、
事実そのとおり、彼は『デコイマン』の中で
シモヒラ・アヤメに意識不明の重体に追い込まれる。
そしてサクラの発言の中で一番重要なのは、
「主人公もまたカムイである」というものだろう。
言うのが遅くなったけれど、
主人公は過去の記憶がない
(消されているor封じている)ので、
自分がシェルター・キッズであったことを知らない。
主人公=カムイ、
賢明なプレイヤーには衝撃度は薄いかもしれないが、
これはひどく重要な要素だ。
なぜサクラがここまで24区および
「カムイ」について知っているのかが
僕には分らないのだけれど、
もしかすると父親のナツメ・ダイゴから
何かしら聞かされていたのであろうか。
まあナツメだって
「真相」自体を知っていたわけではないのだろうけど。
とにかく、サクラと主人公2人は、
TV塔に至る三角塔にたどり着く。
「シェルター・キッズ」、
「アヤメ・マスプロ」、その舞台。
そして自分たちが育った場所。
主人公はサクラに促され、単身、三角塔に入っていく――

主人公が三角塔に入ったのと同じ頃、
ハラキリ・バッティングセンターで
ムナカタ・リュウとナカテガワ・モリチカが対峙する。
ナカテガワは凶悪犯罪課の本部長(元・一課の捜査官)だ。
彼はムナカタに銃口を向け、クサビの居場所を尋ねる。
この前後、「ナカテガワが実はFSOの人間である」ことが、
ムナカタの発言から分る。
これにはかなり驚いた。
これまでのシナリオでは
まったく「派閥」などというものを
感じさせない凶悪犯罪課であったので、
ナカテガワが実は権力奪回を狙う
FSO側の人間であると分り、
しかも彼が人に銃口を向けている姿を見るのは、
かなりの衝撃だった。
ナカテガワがクサビを追うのは、
クサビが派閥を超えた存在であり、
何をするか分らないからかもしれない。
派閥に属していない
=行動の意図が組織的でない
=行動が予測できない、
そんなクサビは、権力の奪回を狙うFSO側からすると
厄介のタネだろう。
そしてナカテガワがムナカタを殺そうとするのは、
ムナカタがFSOの思惑(カムイを使って権力奪回)を見抜いている、
というか色々知りすぎているためか。
ナカテガワは、ムナカタに対し、
銃を向ける一応の動機らしいものを語ってみせる。
それによると、ナカテガワはフェミニストであり、
幼女の未来を奪った「アヤメ・マスプロ」を計画した
ムナカタ(TROの長官)が許せないのだと言う(!)。
さあここから先の話がまた僕には難解だった――

まずここで生じる疑問というか驚きは、
「アヤメ・マスプロ」は本当にムナカタが計画、
つまりTROが行ったのか!?というものだ。
だとすればなぜ? 
時系列的にはアヤメ・マスプロは
「シェルター・キッズ政策」の後に行われているが、
「シェルター・キッズ政策」を行ったのがFSOであると考えれば、
TROが「アヤメ・マスプロ」を行ったのは、FSOに対抗するためか?
FSOの思惑に気づいたTROが、すばやく計画を練ったのか?
だとしてもなぜ同じ場所(三角塔)を使う?
派閥間で情報が漏れてしまうではないか。
はちあわせでもしたらどうする?
僕のこの疑問を解くヒントを、ナカテガワが言ってくれる。

「派閥など初めから存在していない」と…。

さらにナカテガワはFSOの人間でありながら、
「コードネーム:エルボー」、
つまり「アヤメ・マスプロ」の
稟議書(りんぎしょ)に目を通しており、
捺印もしたと言うのだ!
TROの計画に、FSOの人間がサインをするとはどういうことか?
ここからいよいよ頭が混乱してくる。
事件の背後に何か大きな陰謀を感じる。震えが走る。
ムナカタはナカテガワの発言に驚いた素振りをするが、
僕はこれは実に良くできた芝居なんだろうと思う。
ナカテガワが銃の引き金を引こうとすると、
ムナカタはそれよりも早く彼を射殺する(見事な早抜き!)。
そしてムナカタは、その場に現われたミコシバ・ケンタ
(おそらく派閥的にはTROで、ムナカタの部下)に、
ナカテガワの言ったことは「大方あっている」のだと言う。
大方あっている…つまり派閥は存在していない…?
だとすると驚いてみせたのは芝居であることになる。
ここから、実はムナカタはナカテガワよりも深いレベルで
「シェルター・キッズ政策」や「アヤメ・マスプロ」、
ひいては「シルバー事件」について知っているのだと、推察ができる。

しかし「派閥が存在しない」、もしくは、
「『シェルター・キッズ政策』や『アヤメ・マスプロ』が
実は派閥を超えたプロジェクトだった」可能性が出てくると、
いよいよ話は混迷を深める。
そもそも「シルバー事件」自体が
派閥間の対立に端を発しているのではなかったのか?
「FSOの権力奪回」の話はどこへ行ってしまうのか?
いったい何のための「シェルター・キッズ政策」、
そして「アヤメ・マスプロ」なのか?
というように、ムナカタとナカテガワのやりとりからは、
派閥云々より、もっと大きな意思が存在している可能性が出てくる。
その大きな意思とは何か…。

いやその話よりも前に、三角塔へ入った「デカチン」の話をしなければ――


次ページヘ

2003/12/27(最終修正日:2006/10/25)
▲このページのTopへ ■The Silver structureのTOPへ



welcome to my world.