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シルバー事件を追想(追走)する。[4/4] ---------------→ page#1#2#3


『case#!:談話室タムラ』は、
これまでの怒涛のストーリー展開を浄化するかのような、
平穏無事な「日常」生活を思わせる落ち着きようだ。
そこでは、主人公を「談話室タムラ」に呼び出したクサビが、
美味いチョコレートウインナーコーヒーを勧めながら、
僕らに「真実」を語ってくれる。
「シルバー事件」の真実を――

カムイによる被害者が全員高齢者であったから、
「シルバー事件」と命名された。
それがこれまでの定説だった。
だがそれは間違いだとクサビは言う。
彼は言う、老人を殺したのはカムイではなく自分だと。
そしてカムイは老人たちに殺されたのだと。
これこそ衝撃の真実だ。
カムイはヒットマンなどではなく、民間人だったのだ!
カムイが唯一非凡だったのは、銀の眼を持っていたことだった。
不老不死の銀の眼を。
カムイはその眼を持っていたばかりに、
老人たちのおもちゃにされたのだと、クサビは言う。
カムイは老人たちに殺され、眼をくり貫かれた…。
それからは老人たちの銀の目の奪い合いだったらしい。
いや、奪い合いと言うとなまぬるいか、殺し合いだ。
不老不死になろうと、
老人たちの本気のバトルが繰り広げられたのだ。

――最終的に残ったのは一人の老人で、
その老人は、手にもった銀の眼をどうしたかと言うと、
なんと自分の眼をくり貫いて、そこに埋め込んだという(!)。
クサビの目の前で、老人はみるみる若返った。
クサビが老人に銃を向けたのは、どういった理由だろう?
そもそもその現場にやってきたのは、どういうわけだろう?
老人たちによる民間人(カムイ)の殺害が行われている
そんな情報が、通報があったのか?
とにかくクサビは恐怖にかられたのか、
それとも未知の存在に接触したが故に、防衛本能が働いたのか、
笑っている老人の額に向け2発の弾丸を発射した――

だがそれですべては終わらなかったわけだ。
老人は死ななかった。クサビは死んだと思ったようだが。
老人はどこでか分らないが銀の眼の力で生き返り、
再び24区、クサビの目に触れるところに現われた。
その老人は…現在の区長ハチスカ・カオル。
凶悪犯罪課一課の捜査官、ハチスカ・チヅルの父親だ。
しかし、この「父親」というのも、また正確な情報ではない。
正確には「祖父」つまりチヅルのおじいさんなのだ。
本名はハチスカ・ウミノスケ。
なんたることか。
長老たちの「銀の眼争奪戦」で生き残った最後の1人は、
現職の24区区長になってしまったのだ!
ウミノスケは息子のカオルを殺してIDを奪い、
「ハチスカ・カオル」として生きているのだという。
クサビが区長の顔を見て「ウミノスケ」だと分ったのは、
眼前で“銀の眼”の力で若返った長老の顔と
現在の区長の顔が一致したからだろう。
クサビがもともと、自分が撃った長老は、
ウミノスケという人間だと分っていたのなら、
今の区長を見てウミノスケだと判断することは簡単だろう。
自分の目の前で若返り、自分が撃った男の顔なのだから。
もしクサビが自分が撃った長老の名を知らなかったとしても、
現在の区長の顔と、自分が撃った長老の顔、
そして若かりしウミノスケの顔が一致した時点で、
クサビは区長がウミノスケだと気づくことになっただろう。
その場合は、長老ウミノスケの若い頃の顔は
写真か何かで確認したのかもしれない。
こんなような理由で、
クサビは現在の区長がカオルではなく
ウミノスケだと気づいたのだと思う。
またあるいは、何か独自の調査で得た
捜査情報も関係あるのかもしれない。
(…ということで、
何故「シルバー事件」という名前かと言うと、
もうお分かりだろう、
“銀の目”がキーワードになっているからだ。)

ここでもう一度すべてを整理してみる。
僕は「K・M」、「A・M」は、
1)眼球白銀化現象の発現プロセスの解析、
および2)従順な区民の育成、
この2つの目的があったのではないかと考えた。
しかしクサビの話を聞く限り、
区長ハチスカ・ウミノスケがすでに銀の眼を持ち、
どうやら彼自身が不老不死であることを考えると、
なぜ“銀の眼”をまた作る必要があるのか?
自分だけが持っていた方が良いではないか。
しかし、もしかしたら、
いつその不老不死の効果が薄れるやも知れないので、
ストックを作って、
備えておきたかったのかもしれないし、
またあるいは政府要人に是非銀の眼を、
と考えていたのかもしれない。
そういう可能性を考えると、
眼球白銀化現象の解析が
「K・M」、「A・M」の目的であったことを
安易に否定することは、やはりできない。
ということで、僕は最終的には、
やはり「眼球白銀化現象の発現プロセスの解析」、
および「従順な区民の育成」が、
「K・M」、「A・M」の目的だったのではないかと、
そう考える。

しかし、カムイが民間人であったことを考えると、
彼をプロトタイプにしてつくった
「カムイのストック」たちは、
なぜ犯罪者という危険な方向へ
暴走する(可能性がある)のであろうか。
それはもしかすると、
長老たちに銀の眼をえぐりとられた
カムイの怨念なのかもしれない。
せめてもの復讐が、まるで怪談話のように、
自分のストック(ある意味子孫)たちを暴走させ、
ばかげた24区に恐怖を味あわせ、
鉄槌をくだすことなのかもしれない。
またあるいは、もともとのカムイへの眼球提供生体、
その謎の生物が持っていた野性性が
カムイ〜カムイのストックに移りこみ、
それが何かの作用で発現しているのかもしれない。
ここまでくると、
もはやカムイ暴発のプロセスは、僕にははかり知れない。

クサビはまた、別の真実も教えてくれる。
モリシマ・トキオと、
ハチスカ・チヅルは兄妹なのだという(!)。
つまり2人の父親はハチスカ・カオル。
そして祖父はハチスカ・ウミノスケなのだ。
『光』の中で、トキオと会話していた人物は、
最後にトキオに対して、
「できのわるい息子だ…」という言葉を発する。
トキオが息子であるということは、
つまりこの言葉を真に受けるなら、
トキオが会話をしていた相手は、
ハチスカ・カオル=ウミノスケだと推察できる。
僕はシェルター・キッズとして欠陥品であったトキオが、
なぜ生きていられたのか、理由を前のページで色々考えたが、
最後にひとつの可能性に詳しく言及せずにおいた。
ここでそれに触れたいと思うが、僕はトキオが、
計画中で「バグ」であるにも関わらず生かされていたのは、
彼が(おそらく「K・M」をネヅと
共に牛耳っていた)区長の孫であるから、
欠陥品とて殺すに殺せず、
せめてもの情けとして生かされたのではないか、
なんていうロマンチックな考えをもったのだ。
しかしウミノスケが息子のカオルを殺して
IDを奪ったりしていることを考えると、
彼が孫のトキオに情けをかけて、
生かして日常に戻した、
というのは少し見当違いかなとも思う。
やはり「K・M」におけるどんな不適格対象児であろうと、
もともと殺されることはなかったのかもしれない。
しかし僕はトキオが区長の孫であるから生かされたという、
お涙頂戴的な考えもまたいいかもしれんな、
なんて思ってしまうのだ。
さらに言えば、トキオが「バグ」でありながらも、
「カムイ(アキラ)討伐」の役を命ぜられたのは、
実はウミノスケの「孫への期待」が
裏にあったのではないか…
なんて思ってしまった。

さてさて、最後に重要な話、
主人公はネヅを殺したのか、
そしてトキオは主人公を殺したのか、
という話になるが、まずは前者から。

『談話室タムラ』で、
主人公がクサビと話をしているということは、
彼はおそらくカムイになっていないのだろうと、
僕は初め思った。
ネヅの部屋で銃声も聞こえたし、
おそらくアレはネヅを撃った音なのだと思った。
しかし公式HPで、
サガラ・ノブヒコさんが書いているレビューのように、
『ライフカット』の最後で
クサビとムナカタが交わしている会話をよく読むと、
「カムイが今も主人公の中にいる」
ことをうかがわせるような言葉がある。
そうすると、確かに
「主人公はネヅを撃たなかった」との解釈が可能になる。
とすると、主人公はカムイになったのか?
いつ暴走するやもしれぬ非常に危険な人物に?
いやおそらく僕はなっていないのではないかと思う。
主人公はネヅを殺さず、しかしカムイにもならず、
「カムイ」を内に秘めたまま、
生き続ける道を選んだのではないか。
つまり――、
「ネヅを殺してカムイになることを拒否する」か、
「ネヅを殺さず、カムイになる」という2つの選択肢以外に、
もう1つ――、
「ネヅを殺さず、カムイにもならない」
というものがあったのだ。
そして主人公はそれを選んだ。僕はそう思う。
主人公が「次のカムイ」を拒否したことで、
ここで「カムイ」が終わるのか、
それは僕には分らないが…。
カムイになることがある種の運命であったとしたら、
主人公は自らの手でそれを回避したのだ。
運命すらも自らの手で変えられる、
いや、「生きる」ということは、誰に操作されるのでもなく、
常に自分の意志で行われる選択なのだと、
主人公の行動は教えてくれているような気もする。

次にトキオの行動だが、
結論から言うと、彼は「逃げた」。
バー「ジャック・ハマー」のマスターの支持を受け、
「ケツをまくって」逃げるのだ。
しかもトキオは、
自身のこれまでのカムイに関するレポートが、
いずれカムイ消滅をもくろむ存在に読まれるだろうと見越して、
部屋のPCにトラップをしかけて逃げる。
最後の文書を読んだが最後、ウィルスが作動し、
ハードディスクのデータはすべて消えるのだ。
彼の行動はハチスカ・カオルに逆らうものだ。
カオル=ウミノスケであるから、つまり、
彼は祖父の言葉を受け入れなかったわけだ。
あえて頭の中の思念たちを引き連れていく道を選んだ。
それはなぜなのだろう。
人(主人公)を殺すことが主義ではないから、
そんなようなことを彼は言っている。
ホントにそんな単純な理由からなのだろうか。
もっと大きな決断があるような気もする。
もともとれっきとしたジャーナリストだったトキオは、
今現在フリーライターになっているわけだが、
その実状は芸能人のゴシップを飯の種にした生活だった。
「9時っていったらまだ朝じぇねえぞ」と怒りながら
工事現場の騒音に叩き起こされたりするような、
つまりは普段は昼間〜昼過ぎまで寝ているような、
社会一般とは「ずれた」生活を送っていた。
それはトキオにとって本望だったのだろうか。
彼は自分でも何かにいらだっていたのかもしれない。
いやきっとそうだろう。
「プラシーボ」をプレイしていると、
トキオが何となく、すべてに対して斜に構えているというか、
イライラしていることが伝わってくる。
もしかすると、「やるか逃げるか」という選択は、
彼のこれまでの人生になかったのかもしれない。
彼は物語の最後にその選択――
「やるか逃げるか」をつきつけられた。
彼はそこで逃げることを選んだわけだが、
それは決して「マイナス」方向ではない。
トキオが主人公を殺すことが「業」であるならば、
彼はそれから自らの意思で逃げたのだ。
彼はおそらく一生逃げつづけることになるのだろうが、
そんな道を選択したことに、
誇りをもっているようにも思える。
彼もまた、主人公と同様に、
自分の手で――「逃げる」という選択で、
自分の背負った運命を回避したのだ。
自分の手で人生を切り開いたと言っても良いだろう。
ひょっとしたらトキオはもう、
イライラしていないかもしれない、なんて考えすぎか。

この、主人公とトキオ、2人の選択には、
「シルバー事件」の1つのキーワード、
「kill the past(カコヲコロセ)」が
どうしたってリンクしてくる。
パッケージにも書かれているし、
ゲーム中にもある人物がこれとほぼ同じ言葉を発する。
過去を殺す、この言葉のもつイメージは、
主人公とトキオの行動を示唆すると同時に、
「シルバー事件」自体の構造をも示しているように思える。
公にはされなかった「シルバー事件」であるが、
しかし裏ではいろんな情報が流れていたわけだ。
派閥の権力争いだとか、
カムイという伝説の暗殺者が犯人だとか。
その「虚構」は誰が作った物語なのだろう。
いずれにせよ、その虚構を現実するために
派閥が利用され、その派閥の底辺の人間は、
作られた派閥争いの犠牲になったわけだ。
ときには誰かを殺し、またときには誰かに殺されるような。
その現在の抗争自体が
過去の「シルバー事件」に起因していると、
みなは信じ込まされてしまった。
利用された底辺の人間としては、ナカテガワが良い例だ。
彼は言動からするに、
「K・M」、「A・M」に派閥が関係ないことを
おそらく知っていた。
しかし彼はまたムナカタ曰く
「働きバチ」にしか過ぎなかったわけだ。
上の人間の言うとおりに動くことしかできなかった。
ナカテガワがどこまで
「シルバー事件」を知ってたのかは分らないが、
彼もまた「虚構」を現実にするために、
動かされていたのだろう。
過去に起きた「シルバー事件」の真相を覆い隠すために
積み重ねらた沢山の虚構、流された情報、
これらのイメージもまた、「カコヲコロセ」という言葉に
リンクしないだろうか。
真の「シルバー事件」を消す(殺す)ために、
利用された人間たち、彼らは
「カコヲコロセ」という見えない命令を、
背負っていたのではないか。

僕はそんなふうに考える…。
と、ここでフト思うが、
そもそも「シルバー事件」の真相を隠すのは何のためか。
区長が「銀の眼で不老不死」という事実を
知られたらまずいからであろうか。
だからあれやこれやと
まことしやかに作られた「事実」が並べられたのか。

それに、なぜ真実を知るクサビが
生きていられるのか、そんな疑問も残る。
もしかすると彼の言葉もまた
真実ではないのかもしれない。なんて。
ミもフタもないな、それは。

さて、
これで僕の「シルバー事件」に対する追想は終わりになるが、
最後に音楽ファンにとっての余談を。
シルバー事件では各シナリオの終了時に、
画面にあるメッセージが表示される。
きっとたいした意味はもっていないと思うんだけど、
なんとこのメッセージは1つを除きすべてが
NEW ORDER(ニュー・オーダー)の曲名、
残る1つもJOY DIVIJON(ジョイ・ディヴィジョン)の曲名なのだ。
公式HPでは須田さん自らコメントをつけて、
メッセージに使用した各曲を紹介してくれている。
考えてみれば、
「ゲームを作る人が音楽ファンではない」と、誰が決めたのだろう。
僕らと同じ音楽ファンであったって、
そしてその音楽の大好きさをメッセージという形に託して
ゲーム中で表したって、何もおかしくないじゃないか。
須田さんはその愛情表現を行っているだけに過ぎない。
しかしここまであからさまなのは見たことがないけど(笑)。

とにかく、ここで紹介した
(というかまったく仕切れていない)
『シルバー事件』の膨大なシナリオを
構築したのが須田剛一さんなのだ。
僕は本気で尊敬する。すごい。
ちなみにグラスホッパー・マニュファクチュアは、
この後PS2でビクター・インタラクティヴ・ソフトウェアより発売された
『花と太陽と雨と』を制作、そして今現在は、
この冬にゲームキューブでCAPCOM(カプコン)より発売予定の
『Killer7(キラー・セヴン)』を鋭意制作中だ。
ちなみに『キラー・セヴン』の概要は、

『“7人の人格を持つ殺し屋”ハーマン・スミスと、
国家転覆を謀る“神の手を持つ男”クン・ランとの対決を
5つの世界と4重の世界構造で描いた作品。
現時代(ネガ)と2005年(ポジ)とで世界観が構成されており、
主人公が犯罪を追う過程での行動は、2005年の未来に影響を与え、
物語が変化していく』


とのことだ(公式HPより)。
ディレクターはもちろん須田剛一。
…これまたどえらい物語になりそうだ…。

最後の最後に、
ここまで飽きもせずに熱心に読んでくれたみなさん、
あるいは飛ばし飛ばしでも読んでくれたみなさん、
またあるいは何となくでも読んでくれたみなさん、
つまりこのテキストに少しでも興味を持ってくれたみなさん、
そんなみなさんに、感謝の意を捧げたいと思います。
ありがとう――

もしも、もしも、
『シルバー事件』への興味を抑え切れなかったら、
今からでも遅くはない、
その世界に触れてみてはいかがですか?
行ってみてはどうですか?
トビラノムコウヘ――


2003/12/27(最終修正日:2006/10/25)
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