2004.10.10‐「SYRUP16g at 日比谷野外大音楽堂」


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2004.10.10−「Syrup16g at 日比谷野外大音楽堂」 Home ◆Set List

前書き:
10月15日、僕は本屋で
『音楽と人』の2004年11月号を読んで、
ここで初めてSyrup16gが、
「第一期をここ(『delayedead』)で終わらせる」
ことを、宣言しているのを知った。
いや、正直に言えば、
ライヴの2,3日後に公式HPで、
その情報は目にしていた。
しかし、五十嵐さん自身の口から
「それ」について語られていたことは、
初めて知った。
…………。
…………。
…………。
なるほど。そういうことだったのか。
10月10日のライヴは、やはり
「長いお別れ」を意味するものだったのか。
インタビューを読むと、
五十嵐さん自身、第一期を終わらせる理由について、
分っていることと、分っていないことがあるような、
そんな印象を受ける。
音楽に対してトコトン真面目な五十嵐さんだからこそ、
これからの自分たちが鳴らすであろう音、
いや、歌うであろう歌について、
ここで思いを巡らせる必要がでてきたのだろう。
ハイペースでの楽曲制作から来る、心の疲弊もあるだろう。
リスナーに対して間口を広げつつ、
同時に、歌詞の純度は高いまま維持する、
しかもリリースぺースは早いとくれば、
曲作りの労力は尋常なものではないだろう。
また、きっと、これまでと同じようなことは歌えないのだと思う。
一言でいえば「暗くて内向的」と言えるかもしれない
音楽性を持ってきた彼らが、『Mouth to Mouse』では
驚くことに「愛」を歌った。
これは五十嵐さん自身に
何がしかの変化が起きているからだと思う。
たとえば、思春期って時期は、焦燥的だと僕は思っている。
常に何かに追い立てられているような感覚がある。
今、すぐやらなきゃ駄目なんだ、って気持ちがある。
それは何かから必死に逃げたいからかもしれない。
何か、とは「現実」であることが多いようにも思う。
まあ僕の場合は「読書」でもって、「現実」から逃げたわけだが。
五十嵐さんの場合は、もしかすると、
その思春期的な焦燥感が、「音楽」で爆発していたのかもしれない、
なんて僕は思う。
上記のインタビューで、五十嵐さんは、
専門学校時代に今の道に進む転換期がおとずれたと語っている。
そしてその転換期に、
現実から逃げて音楽にすがったのだと、認めている。
これまた「もしかすると」だが、
五十嵐さんは、そのときの、
現実から逃げたい一心によってもたらされた焦燥感に駆られて、
『HELL-SEE』までを突っ走ってきたのかもしれない。
そしてそこで、もっとも「吐き出し」感の強い『HELL-SEE』で、
その焦燥感は(消えるとはいかないまでも)軽減されたのかもしれない。
だから、その次に出された「My Song」や「リアル」、
「I・N・M」、それから『Mouth to Mouse』等においては
表現の矛先がこれまでと違うものになっていたのかもしれない。
(すべて、「かもしれない」だが)。
焦燥感ってのは取り戻そうとしたって、できるもんじゃない。
そう考えると、以前のような焦燥感に満ち満ちたアルバムは、
もう作れないことになる。必然的に。
曲を作るにしても、ペースも当然落ちるだろうと思う。

そういった曲作りによる疲労や、表現の矛先の自然な変化、
そして、自然なものであるにも関わらず、
その変化に対する自身の戸惑い、
それから他にも色々理由はあるだろうが、
それらが一緒くたになっておとずれたら、
確かに、時間が必要になるだろう。

何がしたいのか、どこに向かっているのか。
いや、何が、どんな曲がこれから出てくるのかすら、
今の五十嵐さんには、シロップには、
まったく分らないのかもしれない。
しかし、どうかゆっくり考えて欲しい。 考えてください。焦らずに。
答えらしきものが出せるまで、僕はゆっくり待ってるから。

ということで、以下の文章は、
筆者が「シロップは『delayedead』で第一期を完結」
という事実をまだ知らない状態で書かれています。
もしお読みになる場合は、そのことを念頭に
読んでいただけると幸いです。


-----------------------------------------------------

2004年10月11日午前1時過ぎ。
僕は自宅へ帰りついた。
そして、ひとっ風呂浴び、
自分の部屋へ入り、
買ったばかりのTシャツ、通称「16Tシャツ」に袖を通した。
左肩にプリントされた白い「16」の文字が、
僕に正体不明の誇らしさ(のようなもの)を与えてくれる。

さて、何から書こう。

*** *** ***

日比谷公園内では、
鉄道関係のフェスティバルが行われているようで、
多くの出店が見受けられた。
昼飯を食べていなかった僕は、
ちょうど良いとばかりに、フランクフルトを食らう。

家族連れや、カメラを肩から下げた鉄道ファンの方を
横目に見ながら、僕は公園内を歩いた。
会場である大音楽堂を目指して。

僕が会場に着いたのは16時少し過ぎだったが、
その前にはすでに列ができており、
スタッフがその整理にあたっていた。
僕は列に並びながら、
木の枝に半ば隠された空を見上げ、
その曇り空に雨の不安を感じたりもした。
そう、この前日に関東を襲来した
強烈な台風22号は過ぎ去ったとは言え、
東京の空は暗かった。
しかし山梨は、僕が出てくるときには
全然晴れていたので、僕は
事前に準備していたレインコートを持ってこなかったのだった。
しかしまあ、少しくらいの雨なら
濡れるのも良かろう、なんて思い、
また、シロップにはカンカン照りよりも
こんな曇り空が似合うのではないかと思い、
自分を納得させる。

開場時間になると、列はあっという間に
会場内に吸い込まれていき、
僕も簡単な荷物チェックを経て場内へと入った――

場内は、僕が予想していたよりも、
正直狭かった。いや、いいことなのだが。
僕はあまり大きい会場は好きではないから。
会場の左右には緑を蓄えた木々がこんもり生えているのだが、
その木々の向こう、
それからステージ後方の壁は客席側にせり出しているのだが、
その向こうにも、
そこには都会らしい「高層」とはいかないまでも、
かなり高いビルたちが目についた。
ステージ後方のビルたちの間に目を向ければ、
東京タワーも視界に収めることができる。
ビルの上の階で働く人たちは、
窓からヒョイと下を見れば
ステージが見えるのではあるまいか。
などと、会場をグルッと眺めた僕は、
どうでもいいことを考える。

相変わらず客入れのときに流れているのは、
エレクトロな響きの音楽だった。
デトロイトテクノとでも言えばよいのか。
リズムと簡素なシンセ音だけで構成された音楽。
WARPのアーティストっぽい感じもする(違うかもしれないが)。

僕はCブロックの前の方の列だったので、
あまり良い席とはいえなかったが、
会場を半ば見渡せる位置であり、そのことは、
お客さんの盛り上がりを目で感じられるという意味で、
良かったかもしれない。負け惜しみかもしれないが。

席に腰かけて、
入場の際にもらったフライヤーなんかを
ボンヤリ眺めているうちに、
時間はいつの間にか開演の5時に近づいていた。
なぜか僕はあまり緊張感がなかった。
どこかぼんやりしている。

5時を5分ほど回っても、
まだメンバーはステージに出てこない。
なんだまだか、なんて思い、
雨を不安に思いながら、空を眺めていた。

と、ステージを見ると、
ヒョロヒョロした細い方が袖から登場してきてる!
アレ?っていうか五十嵐さん?
あまりに普通で登場に気が付かなかった(笑)。
屋外で見る五十嵐さんは遠目にも色白で、そして細かった。
普通に歩いているところを見ると、
何か頼りなく見えるときがある。
服装はすっかりお馴染みの、黒いシャツに黒いパンツだった。

なーんて僕が五十嵐さんの普通っぽさに
眼を奪われていると、
中畑さんの叩く1発の強烈なバスドラムの音が会場に喝を入れた。
なんていうパンチのあるドラムだろう。
会場中が3ミリくらい浮き上がったんじゃないだろうか。
身に付けているものが音厚で揺れて、体に触るのが分る。

途端にギターを下げた五十嵐さんがマイクをつかみ、
「イヨェォー!!!」
と、「イエー」とも「イヨー」ともつかぬ声で
ライブの開始を告げた――

*** *** ***

そう、まとめて書いてしまうのなら、
今回のライヴはここまでの「シロップ16g」というバンドの
集大成的なものだったように思う。
「delayedead tour」とは銘打っているものの、
演奏された曲目は新作から旧作まで幅広いものであり、
この日(10月10日)より先の予定がまだ明確でないということも
関係あるのかもしれないが、「ここまでを一括り」といったような、
ベスト的な意味合いの強いものに感じられた。

今僕が覚えている限りで、
演奏された曲目を挙げてみよう。
“クロール”、“前頭葉”、“Heaven”、“もういいって”、
“これで終わり”、“水色の風”、“明日を落としても”、
“Inside out”、“生活”、“翌日”、“Sonic Disorder”、
“Good-bye myself”、“エビセン”、“真空”、“土曜日”、
“きこえるかい”、“イマジン”、“パープルムカデ”、“遊体離脱”、
“ハピネス”、“I・N・M”、“不眠症”、“落堕”、“神のカルマ”、
“ハミングバード”、“My Song”、“クーデター〜空をなくす”、“リアル”、
“Reborn”、そしてU2のカヴァー(!)。

ギターのサポートの方は、
前回のツアーと同じプレクトラムの方なのだろうか?
失礼ながら、顔を知らないので僕にはどなたか分らなかった。
僕はサポートの人が入るライヴは
(単なるイメージとしてだが)好きではなかった。
「そのバンド」だけではライヴができない、
だからサポートを入れる、
というような、ネガティヴなイメージを持っていたのだが、
今回のライヴを見て、そのイメージは良い方向へ変わった。
そう、ギターが2人いないとできないことがある。
アンサンブルといっていいのだろうか、
2つのギターの音を編みこむこと。
曲によってはこれがすごく映える。ゾクゾクするのだ。
そのとき僕は初めて、
ああギターが2人ってことはすごいことなんだなあと、
今更に思ってしまった。

この日の布陣は、
頭っから4人体制だったので、
中心にギター/ヴォーカルの五十嵐さん、その後方、高台にドラムの中畑さん
そして僕らから見て五十嵐さんの左側にベースのキタダさん、
そして反対側(五十嵐さんの右側)にはサポートのギターの方が立った。
こうして4人で立っているところを見ると、
妙にまとまりがいい。
3人だけだとどうしても不安定な印象があるが、
4人だとまったくそれがない。
五十嵐さんを中心に据えて、
まさに「五十嵐隆のバンド」、といった感じだ。
(もちろん中畑さん抜きでは、シロップのライヴは語れないが)。

僕は今回のライヴも、きっとすっ飛ばして、
アグレッシヴな曲を沢山やるのではないかと思っていたが、
どうも様子が違った。
確かに頭の方では、“クロール”“前頭葉”“Heaven”
それから“もういいって”など、
『delayedead』の中でも激しいものを次々と演奏していったが、
それも次の“これで終わり”のあたりまでだった。
『delayedead』の中では、僕はこの“これで終わり”と、
“Inside out”が似たような(透明感を備えたPOPな)曲調にあり、
その2曲が、アルバム全体のバランスを
激しすぎないものにしていると、そう思っている。

出だしの4曲で高めた熱を“これで終わり”という
(僕の大好きな)曲で徐々に冷ましていったあとに、
五十嵐さんはギターを持ち替えて、マイクの前で椅子に座った。
その光景に、僕は何となく“落堕”のPVを思い出す。

ステージ上は相変わらず暗い。
シロップはあまり自分たちを目立たせようとしない。
もちろんステージ上にいるから、
僕らはその姿を見ることができるわけだが、
決して意識的に「見せよう」とはしていない。
ときには白いスモークが秋風に流されて、
メンバーをフワッと包み込んだりする。
そんなところにステージ足元のライトが
下から光を照射すると、
霧が立ち込める樹海に木漏れ日がさしている、
そんなふうにも見えてくる。

五十嵐さんが持ったのはアコースティックギターだろうか。
僕らから見て、五十嵐さんの右側にいるギターの方が、
ものすごく電子的な音で、ギターを弾き始めた。
細く、たゆたう、黄昏た音色。染み込んでくる。
“水色の風”
肌寒い天気に、ものすごく、似合う。
青いぶつ切りの光線が、アチコチで、ステージをゆっくりと照らして回る。
聴きながら、僕はどこかへ連れて行かれそうになった――

「消えないで 照れないで
君がいて 宇宙の中へ
見違えって キレイになって
透き通って 水色の風――」


曲と、歌声と、目の前の光景だけが、ドンドンクローズアップされて、
次第に自分がどこにいるのか分らなくなりそうだった。
やっぱり僕は『delayed』に収録されている曲が好きなんだなあと、
身に染みて思う。

確かその次に演奏されたのは、“明日を落としても”だった。
まさかこんな序盤にやるとは思わなかった。
五十嵐さんが、引き続き椅子に座ったまま、
この曲のイントロを弾き始めたときには、
まじめに鳥肌が立った。
別に僕はこの曲に特に思い入れがあるわけではない、
ただ、好きなだけだ。それは「特別」ではない。
なのに、なぜか目が潤んできた。
五十嵐さんは途中までギター1本で歌い上げる。
「機械みたいな声で――」
の部分から、ベース、ドラム、そしてもう1本のギターが入る、、、。
いいなあ、ホントいい曲だ。
前向きか後ろ向きかなんて、関係ないよ、もう。

口惜しいことに、この後の流れを、僕は正確に把握していない。
それは、ライヴという意味では1本筋が通っていたが、
楽曲が新旧各アルバムからのもので、
バラエティに富んでいて、やや散漫だったということも
関係あるかもしれない。あるいは、
30曲も演奏してくれた、そのことの方が、
流れを把握できていない理由としては、強いのかもしれない。

僕が確かに覚えているのは、
上の「アコースティックモード」が“Inside out”で終了し、
続けて“生活”“翌日”といった必殺ナンバーが
演奏されていったところまでだ。
“生活”“翌日”を続けて聞く中で、
僕は、シロップはシングルほとんど出してないけど、
こんなに人気のある楽曲をいくつも持っているんだよなあ、
きっとファンは(僕も含めて)アルバムを延々と
聴いてる人ばっかりなんだろうなあと、何か嬉しくなる。

僕が断片的に覚えているのは、
“Sonic Disorder”のイントロのたまらないカッコよさ、
そしてそのイントロ開けの
凄まじい五十嵐さんの叫び(ノド壊れるかと思うほどに長かった)。
それから、“エビセン”のようなミドルでしかも大人しいナンバーが、
何故か赤いライトの中で演奏されたこと。
下から照らされたメンバーがみな赤く染まり、血に塗れたように見えた。
五十嵐さんは椅子に腰かけて、上向き加減で歌っていたので、
まるで力なく喘いでいるようにも見えてしまった。
だけど楽曲はPOPなのだ。このギャップは印象的で、
「POPなんだけど歌詞は黒々」っていうシロップの楽曲に通じる
部分もあったりして、
そんなシロップの持ち味に改めて考えが及んだ箇所だった。

それから多分“真空”なんかを経て演奏された(逆かな)のは、
なんと“土曜日”だった。『COPY』の最後の曲だ。珍しくないかな。
僕は、
「土曜日なんて来るわけない」
という歌詞に、
暮れかかった空の下、会場の外にそびえ立つ、
ビルを見上げた。
明りの点いている階では
当然働いている人もいるだろう。
忙しすぎて、「土曜日なんて俺にはねえよ」
なんて実際に思ってムスムスしてる人もいるかもなあ、
などと考え、「まさかな」と1人内心で笑った。

意外に早くおとずれた本編のラストは、
多分、“きこえるかい”だった。
ゆっくりとした、
寄せては返す波のようなイントロを、ギター1本で奏でた後、
五十嵐さんはそこで手を止めて――

「いつのまにか ここはどこだ
君は何をしてる
乾かぬまま 白いシャツは
風に揺られ飛ぼうとする
大空へ…」


と、自身の声だけでもって、歌っていく。
途端に、五十嵐さんの声の良さが、浮き上がる。
あったかいような、冷たいような、
求めているような、拒絶しているような、
それでも僕らの心のどこかをそっと撫でる、声。
撫でられて感じるのは、悲しみや切なさかもしれないし、
怒りかもしれない。虚無感や諦念かもしれない。
あるいは、優しさかもしれない。
いずれにしろ、僕らに何か感じさせずにはおかない声。
伴奏が加わっても、五十嵐さんの声は僕らにしっかり届いてきた――

「ありがとうございました」。
MCらしいMCをまったくせずに、五十嵐さんがそう言って、
それを合図に1度袖に引っ込んだメンバーが、
再び出てきたあと、(確か)“イマジン”
“不眠症”(これも僕の大好きな曲だ、聴けて嬉しかった。
「うるせぇ テメェ」の部分を叫び上げる歌い方も、
ライヴならではで、印象的だった)、
“I・N・M”(途中でわざとメロディを崩して歌った箇所で、
五十嵐さんの「シンガーソングライター」としての側面が
急に浮かび上がったように感じて、僕はハッとした)などを経て、
“ハミングバード”を演奏した。
そして再度のアンコールで、
“遊体離脱”“ハピネス”なんかが演奏されたと思う。
“ハピネス”の前だったか後だったかに、
五十嵐さんはマイクスタンド前で、
ギターを持って椅子に座ったまま、(ようやく)客席に語りかけた、

「寒いですかぁ、ごめんなさい」、

一息置いて

「あんま速い曲ないんで、僕のバンドは」。

これは、会場が屋外で、曇り空の下で、
しかも客席にほとんど動きがない状況を見て、
つまりお客さんは少し寒いのではないかと思い、言ったのだろう。
確かにいつもシロップのライヴはお客さんに動きがない。
この日は全席指定ということもあり、余計に大人しかったように思う。
でも絶対に内側は燃えていると、僕は思う。
別に体を動かすことだけが、盛り上がっている証拠ではないのだ。
と、会場の外からだろうか、
「熱くなれよぉ!」(?)というような声が小さく聞こえ、
五十嵐さんは声の方を向いて、軽く「フッ」と笑った。

アンコール中に“My Song”も演奏されたことは間違いないんだが、
どこで演奏されたか、まったく記憶が飛んでいる
(※セットリストを見ると、“ハピネス”の
 後に演奏されていたようだ)

“My Song”の印象は、前のAXで見たときより、全然良かった。
AXのときはギターの音が大きすぎたように思うんだけど、
この日は(僕には)バランスがよく聞こえた。
たしかに音は音源と違って「バンド」然としているのだが、
そこにまったく違和感がなく、
見事な“My Song”ライヴヴァージョンが、そこにあった。
それから“リアル”も、何回目かのアンコールの、
ラストに演奏されたのだが、これまた記憶がはっきりしない
(※これは“My Song”の後だったようだ)
人力(じんりき)“リアル”は、中畑さんのドラムが映える映える。
テンポは大分速いし、リズムパターンも
コロコロ変わってると思うんだけど、乱れないんだよなー(当たり前か)。
圧巻です。
イントロのライトサーベルがスパークしてるみたいな
ジィィィビリリリリィというギターも印象に残った。

いったい何回アンコールがあったのか。
再びステージに誰もいなくなった後、
客席が見守る中、中畑さんのみがステージに登場した。
上半身裸で(笑)。
途端に会場が盛り上がる。
中畑さんは、
少し高い位置にあるドラムセットの場所まで登りながら、
さっきの五十嵐さんの言葉を受けてのことだろう、

「寒いかい?」

と、誰にともなく言う。
続いて、

「運動会で、短パンで…」

とか何とかボソボソ言いながら、
ドラムセットに座り込む。
確かにこの日は旧体育の日、各所で運動会が行われているだろう。
しかし上半身脱ぐことと、何の関係があるのか(笑)。

準備万端、中畑さんは、1人胸の前でスティックを叩き始めた。
カウント開始。客席がそれにあわせて手拍子を打つ。
盛り上がってるからだろう、手拍子はドンドン、ドンドン速くなっていく…。
と、中畑さん、手を止めて、

「速い」

と駄目出し(笑)。もう1度叩き始める。
今度はバッチリの手拍子。
その手拍子の進行をまるでぶち破るように、
中畑さんのドラムが快進撃を始めた。
押し寄せる音圧。
相変わらず、すごい。もうこんな言葉でしか表せない。
髪が大分伸びた中畑さん(前髪は目の下まであるかな)は、
まるで歌舞伎役者のように頭を振り回しながら、
髪を振り乱しながら、ステージの真ん中、高台でドラムをぶっ叩く。
そのリズムは、まぎれもなく“落堕”!!!!
会場は今日1番の盛り上がり(これ確実)。
「わしはドラムが大好きなんじゃあ!」とばかりに
中畑さんがドラムを叩く中で、
けたたましいリズムにのって袖から現われたのは、
ベースのキタダさん。
僕はキタダさんにはクールって印象しか持ってなかった
(だっていつも黙々とベース弾いてるから)のだけど、
なんとここではドラムセットのとこまで登った挙句に、
こちらを向いて片手を挙げているではないか!!
もちろん中畑さんはドラムぶっ叩き中。
しかしキタダさんの手の挙げ方も、特に煽るような感じではなく、
「ヨオ」って友達への挨拶みたいで、やっぱりクールな印象(笑)。
キタダさんが所定の位置でベースをかつぐと同時に、
なめらかなベースラインが走り始める。オオ、かっけえ。
続いて現われたのは、ギターのサポートの方。
五十嵐さんがよくやるみたいに、
胸の辺で両手を合わせながら現われた。
そしてベース、ドラムの前を抜けて、ギターをかつぐと、
鋭いギターフレーズを刻み始める。
さあ、後は1人、あの人の登場を待つだけだ。
しかし、これだけでも大分かっこいい(この表現も、なんだかな)。
こういったいわば「焦らし」に近いイントロで、
ライヴを引っぱれるバンドってのは素晴らしいなあと、僕は思う。
「まだかよー早く歌えよー」なんて全然感じない。
もっと焦らして欲しいという、マゾ的(?)な欲求さえ感じるではないか。

と、ついに現われた五十嵐さん。
まるで「遅れてゴメン」とでも言うみたいに、
軽めのダッシュで、手を合わせながら登場した。
ステージぎりぎりまで前に出ると、
客席に向かってゆっくり大きく両手を広げ、僕らの歓声を独り占めした。
さあ、今回は、どんなふうに演出してくれるのだろうか。
ハンドマイクか?
と思ったら、五十嵐さんはあっさりギターをかつぐ。
なるほど、いつもいつもハンドマイクではないわけだ。
それはそれで嬉しい。やっぱり予定調和はつまらない。
が、歌い始めても五十嵐さんはギターを弾かない。
かついでるんだけど、弾かない。
力を入れる度に体を傾けながら、歌っていた。
しかし
「寝不足だって言ってんの」
の箇所ではやはりマイクを客席に向けた。
客席がそれに応えると、「サンキュゥ」と返す。

アンコールに入ってから、五十嵐さんはよく喋るようになった。
何回目のアンコールのときだろう(※これは“落堕”の後)

「今までたくさん音楽作ってきたけど…」

と、ふいに言う。

「俺が1番言いたい言葉、言、言葉…、言いたい、言葉、
言いたいことを、歌った歌を、歌うよ」


とカミカミ(笑)。
客席からひそやかな笑いが洩れると、
慌てて付け足すようにマイクに口を近づけて、

「相変わらずMCうまくできねぇ」

と、苦笑いしながら言う。
そして、高らかなファンファーレのごとき、ギターイントロ。
“パープルムカデ”
この曲の歌詞が、一番言いたいこと、なのだろうか――

「好きな言葉何? 好きな人は誰?
遠い空の下でしたじきになったって
怖いものは無い 怖い人だらけ
俺は俺のままで下じきになる
戦場で死んだムカデ
むらさきの
戦場で死んだムカデ
むらさきの
Sun will shine 進め 三輪車
この坂の向こうまで 行け 行け 行け
好きな事は何?
好きなことをやれ
君は君のままで 下じきになる
不協和音と君がいて 銃声は空から舞い降りた
付け足さないで そのままで
ただの名もなき風になれ
戦場で死んだムカデよ 戦場で死んだムカデ達よ
好きな言葉 何? 好きな人は 誰? 遠い空の下で」


これはシロップにとって、そんなに重要な歌だったのだろうか。
僕は歌詞の意味を、自分なりにすら解釈できていない。
それが少し、悔しかった。いったいどんな意味を込めているのだろう。

それから“神のカルマ”(記憶は定かでないが)を経て、
終盤中の終盤に、“クーデーター”“空をなくす”が演奏された。
音源より長いアウトロを経て、“空をなくす”が終了すると、
(あるいは何か他の曲の後かもしれないが)
メンバーはぞろぞろ袖に消えていったが、
五十嵐さんが1人残り、椅子にドッカリ腰かけた。
そして言う、

「俺が貸しきったァ、ココ」。

五十嵐さんの声と話し方は、
時折JUDEの浅井さんとかぶるときがある。
この瞬間がそうだった(ファンの方は反論するかもしれませんが)。
この後、五十嵐さんは、

「こないだ、仙台でカヴァーやったんだけど…」、

客席から歓声が上がる、女の子の声が強い。

「そんときはそこでしかやんないって言ったんだけど…」

五十嵐さんはわざとらしく頭をかいて言う、

「何かやりたくなっちゃったなあッ」。

喜びの声が会場を走る。僕も嬉しい。
いや、何を演奏するのだろう?という思いが強かった。
歓声の中、
五十嵐さんは袖の方を向いて、

「じゃ、出てきてェ」

と軽い口調で、
1度は引っ込んだメンバーを呼び戻す(笑)。

現われたメンバーの内、中畑さんは、
ドラムセットに座りながら、
少し片言っぽく、

「まだヤリタイノカ」

と言う。
まだ、まだまだやって欲しい、僕はそう思った。
五十嵐さんは、サポートのギターの方を見ると、
何か合図だか確認だかをしていた。
何が始まるんだろう?
聞こえてきたのは、
ギターの音か何かわからないが、まるでシンセ音のような、
透明で薄い音色、そして淡々としたリズム。
なにか神秘的というか神聖な感じだ。
夜が明ける前の、ホンの一瞬の静けさのような。
この曲は、僕は何度か聴いたことがあった。
U2の曲だ。
特にU2ファンではない僕も知っている、
そのくらい有名な、U2のあの曲。
“With or without you”
僕は原曲をいつでも頭の中で鳴らせるわけではないので、
ここで、原曲とこのカヴァーの単純な比較はできない。
しかし、シロップの曲として聴いても違和感はないくらい、
そのくらいバンドに溶け込んでいたように思う。
そう考えると、シロップの楽曲、
というか五十嵐さんの作る楽曲は、当然90年〜00年代仕様なのだけれど、
その衣の下には、80年代的な何かが(何かは分らない)、
ヒッソリと脈打っているのかもしれない。
とにかく、このカヴァーは、素晴らしかった。
曲が良いというのもあるのだろうけれど。

このカヴァーの後、五十嵐さんは、

「ありがとうございます」

と言い、マイクの前で座ったまま、しばし沈黙した。
何か言うのだろうか?
ふと、「今日は」と切り出す。

「すごく、台風で、どうなるかって心配してたんだけど…」、

一呼吸。

「お客さんが来てくれるかどうかってのも、心配だったし…」、

また一呼吸。

「でも、こんなに沢山集まってもらって、すごく、感謝してます」。

再び長い間。何か言葉を選んで、あるいは探しているようだった。
会場は水を打ったように静まり返っている。

「すごく…、僕らは…」

と、五十嵐さんは口を開いて、また言葉を探す。
次の言葉は、何か少し、ショッキングだった。

「別に解散とかするわけじゃないし…、
これまでも、好きなように音楽やってきたし、
だから、すごく、今日集まってくれた人には感謝してますし…、
これからも、音楽は続けていくんで、
それに付き合ってくれる人は…、
ついてきて下さい」。


会場と一緒に拍手を送る僕の目は、なぜか潤んでいた。
なぜ「解散なんかしない」と、改めて言うのか。
誰が心配しているのか。
今後のスケジュールが決まっていないから、
誰かそんなことを妄想している人がいるのか。
関係者や、情報収集に熱心なファンの方々の中には、
シロップの今後のスケジュールついて、
何か知っている人もいるのかもしれない。
安易に「活動休止」という言葉を使う人も見受けるが、
そこに根拠はあるのだろうか?
ないならどうか使わないで欲しい。
しかし、いずれにしろ、僕は何も知らない。
僕は、五十嵐さんの言葉を、
「しばらく会えないけど、忘れないでくれよな」
という意味に、受け取ってしまった。
いやひょっとしたら、全然そんなことはなくて、
ただ感謝の意を表したかっただけなのかもしれない。
僕の恥ずかしい思い込みかもしれない。
ただ、僕の目は潤んだままで、
鼻から出かかった鼻水も、
寒さのせいなのか(僕は半そでだった)、
根拠のあやふやな悲しみのせいなのか、
もはや僕には分らなかった。

この後、ライヴは“Reborn”で締めくくられ、
メンバーは引いていった。
五十嵐さんはいつものように、僕らに手を合わせ、
最後に出ていった中畑さんは、
上半身裸のまま、僕らに手を振ってくれた。

今後、シロップは…どうなるのだろう。
すぐにヒョッコリ作品を出したりするのか。
それとも、初めて長いインターバルを空けるのか。
僕には何も分らない。
今の僕にはただ、
彼らの今後に思いをめぐらせながら、
彼らの作品を繰り返し聴くこと、
ただそれだけしか、できないようだ――

(※1度書き上げた後、
 公式HPのセットリストを参照しながら、
 再構成した箇所があります。
 なるべく当日のライヴの流れにそった
 レポートにしようという考え、
 そして筆者の記憶違いから
 その流れが妨げられないようにとの
 考えによっています)


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- SET LIST -
01. クロール
02. 前頭葉
03. Heaven
04. もういいって
05. これで終わり
06. 水色の風
07. 明日を落としても
08. Inside out
09. エビセン
10. 生活
11. 翌日
12. Good-bye myself
13. Sonic Disorder
14. 真空
15. 土曜日
16. きこえるかい
17. イマジン
18. 不眠症
19. I・N・M
20. ハミングバード
21. 遊体離脱
22. ハピネス
23. My Song
24. リアル
25. 落堕
26. パープルムカデ
27. 神のカルマ
28. 空をなくす
29. with or without you
30. Reborn
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2004/10/12(最終修正日:2004/10/15)
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