2007.12.09‐「Syrup16g - END ROLL Tour - in NHKホール」




 ■Live ReportのTopへ


2007.12.09‐「Syrup16g - END ROLL Tour - in NHKホール」 Home Set List

やっぱりFINALはFINALで。
END ROLLはEND ROLLで。
“これで終わり”以外の何の意味もなかったんだ。

まともにレポートなんて書けないかも。

2007年12月10日未明、
バンドの存続に関する公式的なコメントが、
オフィシャルHPで発表された。
ライヴ終演時には、五十嵐さんが口にしていた―

 「2008年3月1日でいったん終了」

というもの以外に何もなかったので、
そこから想像を膨らませるしかなかったのだが、
残念ながら、もはや膨らませようもないだろう。
オフィシャルにはこんな言葉が―

 『Syrup16gは解散します。

 2008年3月1日(土) 日本武道館

 “LIVE FOREVER”

 The last waltz of Syrup16g』

ため息も出ないのだけれど。
涙は、これからもっと出るだろう。

嗚呼。あああ。

解散。
この言葉から、何か前向きなこと考えられる?
他の何かが始まるとか?
いや、終わりだろう。
これで、終わり。

The END。

そういうこと…なんだろうなあ。
他の捉え方するのは捻くれてると思う。
でも、捉えたい自分もいる。

・・・・・・。
現実ってヤツに、
追いつかれてしまったのか。
どうあがいても、
そこからは逃げられなかったのか・・・。

いずれにせよ、今後、これから先に、
アルバムのリリース、および
武道館でのラストライヴも予定されているし、
おそらく雑誌に何らかの記事も出るであろう。

彼らに関する(おそらく)最後のテキストは、
最大限それらに触れてから認めるとして、
とりあえずは、今回のEND ROLL――

***  ***  ***

僕にとっては、初めてのNHKホール。
場所は渋谷というか原宿というか。
関係ないけど、原宿って街は、
ダサいのかカッコイイのか、僕はよくわからない。

んでもって、
NHKとシロップって似合わない気がするのは、
僕の気のせい。

指定席ということもあって、
開場時間をたっぷり過ぎての入場でした。
なんかスタッフの方々はスーツ着用が義務なのですか?
みなさんスーツでピシッとしてらっしゃるから、
こっちは券をもぎられてるだけなのに、
面接会場に来たリクルーターみたいな、
フレッシュな気持ちになってしまった。
加えて、中がね、またいわゆるライヴハウスとは違うから。
通路は広いスペースがあるし、座れるソファーはあるし、
みんながそこをウロウロしてるから、今度は
どっかの美術館にでも鑑賞に来たような、高尚な心持に。
いやー新鮮でしたな。
で、2階のトイレは激混みでしたが、
コレコレ、1階にもトイレはあるのですぞ…。
ガラガラでしたよ…。
んでもって、女の子みたいな男子ばかりいたので苦笑。
髪の毛長めで、タイトなジーンズ穿いてるほっそい諸君。
いや、俺もそちらに入るのか…? いや違うか…。

僕は2階席のけっこう後方ね。
でも眺めは悪くない、決して。
非常に、遠いけど。
ステージにいる人の表情なんて、
まず見えないけれど。
なんかみなさんけっこうルーズなもんで、
開演10分前とかになっても、
席がチラホラ空いてるし、
あっちこっちで、ウロウロしてる人がいる。
3分くらい前になっても、まだそんな感じなモンで、
逆にこっちがソワソワしてきちゃいましたよ。

ステージにはギターとベースとドラム。
そう、3ピース。久しぶりに?
真ん中後方にドラム。
僕らから見てその右側にギターとマイク。
左側には、ベースが。
NHKホールって3階まであるということは、
僕の頭上にさらに人がいたわけで、
その辺の人はいったいどんな高みから
ライヴを見ることになったのであろう。
フロアの壁には実際に機能しているのかどうか、
パイプオルガンを思わせる筒状のモノが
ドドーンとくっついていたのだが、
ああいうどこか神聖なイメージは
決してシロップと遠いものではない。

僕はといえば、その時点では先に書いたような、
バンドの今後を知る由もなかったわけだが、
なぜだか妙にソワソワしていたのは覚えている。
まあ会場自体の新鮮さもあったのかもしれないけれど。
でも家を出る前に、『遅死10.10』を見返したりしていて、
時間ないから全部は観れなかったけれど、
ending部分を見て、五十嵐さんの言葉を、
そして“reborn”を聴いて、何をしたかったかって言うと、
思うに、あの日とこの日を繋げたかったのだと思う。
この日のバンド側にどんな思いがあったにしろ、
僕の中には、そんな思いがあったのだと思う。
待望のニューアルバムも予告されていたし、
何かを予感させるツアータイトルでもあったし
(その予感は悲しい方向で当たってしまったが)、
これまでとは違うんだろうという思いが少なからずあった。
だからここで、第一期が終わって以降観てきたライヴを、
Syrup16gというバンドを、切れ切れになっていたイメージを、
一本の糸で結び付けたかったのだ。
結びつけておきたかったのだ。と思う。

加えて言えば、
自分の大好きな“生活”を演奏してくれますようにと、
僕は出掛けに玄関に置いてある人形に祈ってきたのだった。

***  ***  ***

開演時間の19:30をやや回った頃に、
ホールの明かりが消えて、暗くなった。
みなさん、ゾロゾロと立ち上がる。

ステージは、かなり暗い。
かろうじて人がいるのが分かるくらいだった。

いい。僕はこういうシロップが好き。
表情なんてまるで見えてないけれど、
その方が、もしかしたら、
僕は好きなのかもしれない。
よせつけない、その感じ。

出だしの3曲で、たったそれだけで、
僕はもう今日のライヴはいいと確信した。
ギターは割りと金属的だったなあ、
思えば昔みたいにディレイかかりまくり、
っていう音はいつからか、なくなりましたね。
で、確かに音はこもり気味と言うか、
若干モコッとしていたが、僕は好き。
中畑さんのドラムも久々にハイパー。
いつもとちょっと違って聞こえてきたけど、
でもやっぱりハイパー。
スコーンて抜けてる感じじゃないんだけど、
それはホールのせいかもしれないし、
いやとにかく、気迫がここまで届いてたんですよ。
いったいその拳に何握ってるんだろうっていうような、気迫。
僕の見ていた2階席までね。
1曲目の、通称“ニセモノ”のイントロから、
彼のドラムが何かちげーなと、僕は感じたのです。
それに、そう、五十嵐さんの声!
なんか関西方面では、
「ぜんぜん声出てない」とかいう声もあったけど、
ぜんぜん出てるじゃん! でしょ?
直前にリリースされた『GHOST PICTURES』と比べてみんさい。
あんなだったらどうしようとか、
僕はちょっと不安に思っていたのだけれど、
別人みたいに、ハッキリしゃっきり歌っている。
なんか、違う。
あの、声。
金属的で、冷たいような、心にそっと触れてくるような。
たまにすごく暴力的で、こっちがヒヤリとするような。
急に刃物見せられて、ドキリとするような。
そのくせに、でも変に暖かいところもあって。
とにかく、すごくゾクゾクした。
ここ最近とは違いすぎて。
だって歌詞が聴き取れてるし
(僕がある程度把握してるからかもだけど)。
歌いながら弾いてるギターの音も、しっかりしてるし。
僕は、もう、なんか平手打ち食らったみたいになってしまった。
ものすごい、僕は嬉しくて、これはもう、
「おかえりなさい」って言葉を言ってもいいんじゃないかって、
そう思ったんだから、実際に。
解散なんて、言葉を知る前にだよ?
だから美化されてる感想じゃないんです、本当に。
3曲目の“生活”のイントロが。
おなじみのスローなイントロなんだけど、
そこに裏声を乗せてきてね、五十嵐さん。
すげーいい感じだったんだ。
夕暮れに吹く風みたいな、
いつまでも吹かれていたくなるような。
僕はそこだけで、そこまでで、泣きそうだった。
嬉しくてね。
ようやく、ついに、帰ってきたなと思って。
やっぱりやればできるんだよな、なんて、
えらそうに、思ったりしたんだった。

ホントえらそうに・・・。
何も分かってませんでしたね・・・。

***  ***  ***

今になって、読み返す。
第一期終了という名目で、彼らが、いや五十嵐さんが、
地下に潜る直前に受けた、『音楽と人』のインタビュー。

・・・・・・。

これってさあ・・・、
そのまま今にも当てはまるんじゃないの・・・?
だってこのあとのツアーのときにもすでに、
解散は意識してたわけだし、
音源はそこからここ、この日まで、
リリースされてこなかったわけだし、
結局第二期は始まらなかったわけだし、
あの時点から、この日までで、
いったいバンドには何があったのだろう。
表には何も出てきていないけれど。
なぜ、解散にいたったのだろう。
なぜ、あのときに、解散しなかったのだろう。
なぜ、新曲群は早い段階で形になっていたようなのに、
レコーディング、それからリリースという動きを
起こさなかったのだろう。

・・・・・・。

なにやってんだよ。
引っ張りに引っ張って、
第一期終了とかカッコイイこと言っておいて、
結局何も始められなくて、
いや始まりかけたのかもしれないけど、
それも打ち消してさ、
挙句に「ダメだった」って自分で認めちゃってさ、
なんだよそれ、
これ以上ないくらい、ホント、カッコ悪い・・・。
カッコ悪すぎる。

・・・・・・。

でも、それでも、そんなカッコ悪いあなたが、
大好きなのも、また、事実なんですよ。
本当に、本当に、本当に。
自分でも不思議でたまらないのだけど。
情けない唄ばっかり歌ってきて、
カッコつけようとしてたのかどうか知らないけれど、
無様に自分を、コントロールできない自分を、
悩んでる自分を、苦しんでる自分を、曝しまくってきて、
その姿、不器用なあなたに、たまらなく惹かれてました。

型どおりのカッコよさを体現する奴らよりも、
よっぽど、あなたの方が、カッコよかった。
僕にとっては。

***  ***  ***

“神のカルマ”のあとに、
来るべきニューアルバムからだろう、
新曲が立て続けに演奏された。
とりあえず仮タイトルでしかないと思うのだけど、
“さくら”“helpless”“途中の行方”“ラファータ”

“さくら”では、
その名の通り、バックに桜を模したライトが、
鮮やかに、桃色に、照射されていた。

 「悲しくて 悲しくて
 涙さえも 笑う」


いつか聞いた歌。
でもそのいつかよりも、
今の方が、断然いい。断然。
最後の「さよなら さよなら」が、
執拗に繰り返される。
“さくら”って言葉はたぶん1回しか
出てこないと思うんだけど、
でもとっても印象的だった。
桜にはサヨナラのイメージがあるから。

僕は“helpless”が好きだ。
直感的にそう感じた。
メロディも分かりやすいし、
歌詞も、簡潔にしてインパクトがある。
「賛美歌」(?)という言葉に、ホールの壁にある
パイプオルガンじみたオブジェのイメージが重なる。
「永遠を笑っているなら 今ココでそうさ未来を手放せよ」(?)、
この歌詞も、好きだなあ・・・。
ミドルなテンポにあわせて、
腰を振るようにしてギターを弾いていた
五十嵐さんも、印象に残っている。

“途中の行方”は、
これもだいぶ前に聴いたのを、
僕の頭は覚えている。
リキッドルームだったかしら。
ドラムがどこか“イマジン”みたいなんだよね。
ベースが何となく“I.N.M.”みたいで(笑)。
どこか妖しい曲。
「窓の外には身元不明の影が」
って誰のことなんだろう。いや何のこと。
嵐の夜に窓の外を眺めて、おびえているような、
そんなイメージが、僕の頭には浮かんでは消える。

“ラファータ”は一際フォーキーでポップで、
妙に歌詞も、なんというか、優等生?
って言うと語弊があるか、シロップらしからぬ印象。
これもリキッドルームで聴いたよなあ。
あのときはけっこう驚いた記憶がある。
こんなこと唄うんだなって。
ちょっと印象が今回は違うけれど。
バックに夕日みたいな、日に焼けた写真みたいな、
オレンジ色とセピア色の間みたいな、
絶妙な色合いの灯りが映っててね、
下から上に向かって段々淡くなってるんだけど、
何か小麦畑みたいなイメージだったなあ。
五十嵐さんアコギかき鳴らしてるしさ(笑)。
麦藁帽子とか被ったら、どう見えるだろ(それはない)。

 「小っちゃくてちっぽけな僕達は
 一人ぼっちにならないように出来ている」


新曲聴いてて思ったのは、シンプルだなあってこと。
複雑に感じたのは“さくら”くらいでしたよ。
途中で僕は曲変わったのかと思ってしまったもの。
まあ、それはいいとして、
新曲はシンプルで、いいメロディで、歌詞もそりゃあ、
かつての焦燥的な鋭さはないけれど、
やっぱりそこには最も新しいシロップ、
『Mouth to Mouse』以降のシロップがいて、
本当に、僕は楽しくて、嬉しくて、
仕方がなかったんだけど。
その時点ではね。

本当に吹っ切れてる印象だったんだ。
演奏も、歌も、気迫があって。
それはもう、気おされるくらいの。
音楽をやっていくこと、
自分の立ち居地をついに見つけたかのような、
やっぱりどんなダメなこと歌ってても、
自分の居場所はここにしかないから、
ここでやっていくしかないんだって、
そんな決意表明、
そんな想いが見事にバーストして、
あの空間を作り出していたのだと、
僕はそう思ったんだ。
だって、悲壮感なんて、まったくなかった。

もっともっと、新曲聴きたかったなあ。
だって抜群によいんだもの。
畳み掛けるように演奏された
“落堕”“sonic disorder”“天才”の流れも、
聴きなれた曲たちのはずなのに、奇妙に惹きつけられる。
“sonic〜”のイントロでは、
なかなかギターの音が決まらない五十嵐さんの後ろで、
タイミング待ちながら、それでも遊びながら、
あのドラムパターンをぶっ叩いている中畑さんがいて、
僕はちょっと、微笑ましくて、笑ってしまったんです。

いいライヴにぶち当たると、僕はそうなのだが、
自分がどこにいるか、忘れてしまう。
目の前の光景に耳を、頭を、奪われてしまって。
しまいには耳だけが働いて、
視覚は別のものを見始める。
頭の中の、どこかの景色を見始める。
すばらしい演奏を聴きながら。

・・・・・・。

そうだ、中ほどで演奏された“ハピネス”
良かったなあ。この日のハイライトの1つ。
バンドが演奏するその後ろで、
バックスクリーンの中央に、紫色の光が丸く照射されて、
それが、ゆっくり、ゆっくり回転していた。
ステージにあるスモークだろうか、
それが紫色のくぐもった光を放ちながらまとまって、
回転しているように見えた。不思議な光景だった。
まるで人間の悩みってやつを視覚化したような、
暗がりでグルグル回る、紫のモヤモヤ。
グロテスクで、そして幻想的だった。
あれはアドリブだろうか、
五十嵐さんはオリジナルにはない歌詞を、
つぶやくように曲に乗せていた。
聞き取れなかったけれど。
そして突然サビで弾ける彼の声。
たまらなく、ゾクゾクしたな・・・。

本編最後も新曲だった。
“scene through”
これもひたすら突っ走るギターと、
そしてそれを支えるドラムが印象的な、シンプルな曲だった。

 「心の中に 答えの中に
 確かなものは何一つ無い」


アウトロも長いし、いかようにもアレンジできそうで、
ブレーキかけるのも、途中でわき道に入るのも、
ナンだって出来そうで、
新しいライヴの定番曲になるんじゃないかなんて、
僕は本当にそう思いましたよ。

曲が終わると、メンバーは袖から消えていった。
当然、客電は点らない。
やや青みがかったように感じられる暗がりで、
僕らは彼らを称えるべく拍手をし、
そしてまだ唄が聴きたいんだという、
意思を示すべく、盛大に手拍子をした。
奇妙に息が合っている、ドでかい手拍子。
叩きながら、僕はニヤニヤしてしまった。
なんかスゲーなこれって思って。
3000人を超える人間達が、息を合わせて、
自分たちのために手拍子をしてくれてるって、
いったい、どんなふうに聞こえるんだろう。
自分だったらって想像すると、
嬉しすぎて、それだけで泣くかもしれない。

***  ***  ***

いつか僕の親愛なる人が言っていた。
やはりシロップのライヴを観たときだっただろうか。
どんなにダメなこと唄ってたって、
こうやって人前に出て、唄歌って、
そうやって生きていっているのだから、
ホントのホントにダメじゃないよね、というか、
なんか皮肉だよね、って、そういう旨の言葉。
皮肉ってのは、“ダメ”だけど、
でもよくよく考えたら、“ダメじゃない”ってとこだろう。
だってちゃんと生きていってるからね。
ダメなこと言いながらも。

でも、ね・・・。
ダメな唄歌ってた人が、作ってた人が、
自分で「ダメだった」って認めて、
(もしかしたら)表舞台から姿を消してしまうとしたら、
それはもう、“現実”的過ぎて、
あまりにも、リアル。

(だって彼が音楽をやるとしたら、
それは「Syrup16g」だろうし、
それを終わりにするということは・・・)。

そのリアルさは、どう受け止めたらいいだろう。
彼が作ってきた、唄ってきた歌を聴いてくれば、
特に『クーデター』あたりを聴けば、
納得はできるし、そのリアルさは、
皮肉にも、楽曲をさらに(ときにはグロテスクに)
輝かせることになるのかもしれないけれど、
でも彼の、彼らの歌を聴きたかった人にとっては、
そのリアルさは――本当にダメなんだな、
これが現実なんだなって、分かる瞬間は、とっても痛い。
“いつまでも甘えていられない”ということ。
シビア、ですね。
でも、当たり前のこと。

ある種の甘えの中でしか、
歌っていけなかったのかな、
そこからシフトし切れなかったのかな。
現実から逃げ続けること、
リアルはそこにあったのか。
そして、逃げ切れなかった・・・?

憶測の域を出ないまま、
散らかった頭の中を書き散らすけれども。
夫婦の離婚の理由ってやつが、決して1つではない様に、
解散の理由ってやつも、1つではないだろう。
きっと。
そいつは語られるのだろうか――

***  ***  ***

始まったアンコール。
暗がりの中で、
何かが滑るように移動している。
と思ったら、どうやらそれは、
五十嵐さんをおぶって動いている
中畑さんだったようである。
何やってんだよ(笑)。
お疲れ様!って感じですか(笑)。
ギターのトコまで運んで、サクッと下ろす。

一発目の通称“来週のヒーロー”は、
これは前の野音の方が印象良かったような。
なんか違ったなあ。ナンだろうか。
同じ曲に思えなかったな。いや言いすぎか。
そしてアウトロからいっきにスローテンポになって、
聞き取れないことをヘロヘロ歌い始める。
分かる人はすぐに分かっただろうけれど、“Coup d'Etat”
そして“空をなくす”
続く“真空”のイントロったら、
普通に、素直に、カッコよかったよ。
ちょっともったいぶった感じでね。
途中の早口言葉みたいな英語の歌詞は、
歌いもせずにすっ飛ばされてしまったけれど、
そこがちょっと残念。

アンコール1回目のラストは、“リアル”
俺、不覚にも、初めのドラムで分からなかった!
やっぱりいつものように、間をたっぷりとっての
あのイントロギターとなったわけだが、
これがちゃんと弾けてて「ああ」って感慨。
テンションはいつもより落ち着いていたけれど、
それはホールという場所の持つ雰囲気のせいだろか。
「もっと So real」を煽ったりとか、
拳突き上げたりとか、そういうアクションはなかったな。
だから正直インパクトはなかったけれど。
でもいい演奏だった。それは間違いない。

***  ***  ***

もうそろそろ、いいだろう。

2回目のアンコール、
僕はライヴで聴く“きこえるかい”が、
大好きなのだが、
そのあとにあの瞬間がやってきた。

今まで、自分のことを話してこなかった五十嵐さんが、
急に、それを話し出した。
彼が具体的に何を、どんな言葉で言ったのか、
僕のこのレポートにたどり着いている人は、
もう知っているだろう。
知らない人は、頑張って調べなさい(笑)。
いや、すぐに分かるから。

 「こんなところで歌えるとは思っていなかった」

嬉しそうに。僕らは拍手をした。

 「生まれてきて、良かったことって、
 あったような、なかったような」


なんで人生を振り返るの。それも笑いながら。

 「身勝手な僕を支えてくれたファンの人たち、
 スタッフの人たち」


“身勝手な僕”という、まさかの言葉。

 「僕が1番ダメなときに支えてくれたのは、
 やっぱりスタッフの人たちで―」


“僕が1番ダメなとき”
自分でそれを口にした。ついに。
今日は特別な日。そう感じた。
だって、この数年、
「もしかしてダメなのかな?」って
みんながそうじゃないかと思っていて、
でも直接訊けるわけないから、訊けずにいたことだから。

 「いつまでも甘えているわけにいかないので―」

やっと帰ってくるんだなって、僕はそう思って、
本当に、泣きそうになったから、慌てて天井を見た。

 「えー、シロップは・・・
 年内いっぱい、とは言わず―」


本当に、優しい声だった。穏やかだった。

 「来年の、3月1日に―」

3月? 新譜は1月だよね?って僕は思う。
3月に何があるのだろうって。
発売が、延びたのかなって。

 「僕の大好きな、日本武道館で―」

どっかで悲鳴が上がっただろうか。
歓声というか。まさかって。

 「ライヴを、します!」

歓声は上がったけど、やっぱり違和感はあって、
だってどう考えても武道館ておかしくて、
普通に考えて、そんなとこで出来るわけないし、
まさかって、僕の胸に、嫌な芽が芽生えた瞬間だった。

一生の思い出を作りましょうとかなんとか、
彼が言った後に、僕は覚悟した、つもりだった。

拍手が止んだ後に、本当はそんな仕種必要ないのに、
ギターを持ち直す動きをして、五十嵐さんは、
優しいんだけど、奇妙に力強く、言った―

 「えー・・・うちら、そこで、
 いったん、終了させてもらいたいなって、思います」


時が止まるって、言葉があるけれど、
それを使うとしたら、まさにあの瞬間だろう。
みんなが耳を疑っているのが分かった。
彼の言葉の意味を、どういう意味なのか、
考えているのが分かった。
ほんの一瞬だったのだろうけれど、
それは本当に、長く感じた一瞬だった。

でも実際には時は動いていて、五十嵐さんは、

 「100万回、ありがとうと言いたいです」

そう言っていた(らしい。僕は覚えていない)。
本当に現実味がなかったです。
好きなバンドの解散なんて、
音楽ファンなら、経験することだし、
客観的に、見れたらなって思うけれど、
どうしても見れない。
仕様がないとか、やっぱりな、とか、
分かりきったようなこと言えればなって思うけれど、
どうしても、言えない。
自分と切り離すことが、できない。

ベタな芝居みたいに、口を押さえる人や、
袖で涙を拭っている人、
ハンカチで涙を拭いている人、
鼻水を啜っている人(これは僕だ)。

かき鳴らされる“翌日”のイントロ。
憎いな。“reborn”じゃないんだ。
でも、似合ってるよ。あのタイミングに。
演奏が粗く聴こえたのは、
僕が冷静じゃなかったからだろうか。

 「嘘から抜け落ちた
 裸の様な目で
 美しいままの想像で

 ふがい無いまま僕が
 受け入れるべきもの今
 形に起こせないすべて

 急いで
 人混みに染まって
 あきらめない方が
 奇跡にもっと
 近づく様に

 喧騒も
 待ちぼうけの日々も
 後ろ側でそっと
 見守っている
 明日に変わる
 意味を」

見事にみんな、棒立ちだった。
ステージで光るライトの明かりが染み出して、
動かない何千人の黒い影を、虚しく浮かび上がらせる。
あんなに集中力のない空間は初めてだった。

とりあえずの拍手が鳴り響く中、
五十嵐さんは(僕は彼しか見れなかった)、
膝に手を当てて、深々と頭を下げてから、
ステージを去っていった。

客電が点る。

んで、ファンはみんなショックを隠すみたいに、
笑顔を見せてるのね。
「終わるんだ」とか言って。
僕もそう、涙ぐんだ目で(笑)。
一緒に行った人に、
「終わりにするんだね・・・」って、
なぜか半笑いで、繰り返し言った。

そのあとは、家に帰るまで、
そのことしか話さなかった。

***  ***  ***

なぜ、「いったん終了」なんて、
どうとでも受け取れる言葉を使ったのか。
何時間か後には、オフィシャルで、
「解散」という言葉が使われているのに。
その言葉を使えなかったのだろうか。
あまりにもインパクトでかいから。
そこも彼の優しさというか、
臆病さというか、不器用さなのか。
それとも。

「いったん終了」って聞くと、
じゃあいつか戻ってくるのかって考える。
でも「解散」て言葉を聞いた後では、
それはないなって、思い直す。
中畑さんは「ボラの人」になり、
「元syrup16g」になり、
キタダさんはキタダさんで、
多くのアーティストのサポートをして、
活躍、活動していくのだろう。

じゃあ、あとの1人は・・・って、
どうしても考える。
今後を示唆する情報は何もない。

そうだ――

今では昔の話だけど、
たとえばナンバーガールが解散したとき、
僕はそれほど悲観的というか、
ショックは受けなかったのだった。
だって彼、向井さんは絶対にまだ、また、
何かやってくれるだろうって、確信があったから。
いや、彼にだけ言及するのも、
何だか申し訳ないけれど。
でも彼が核だったわけで。
解散の理由も理由だったしで、
このまま終わりになるわけねーなって、
まだ面白いことやるはずだって、
ヘンな確信があったもんだった。

でも、対して、Syrup16gの核である、
五十嵐隆の人間性を考えると、どうだろう。
解散の理由が、おそらくだが、
彼自身にあるとしたら、どうだろう。
そもそも、“彼”が音楽をやっていくなら、
“Syrup16g”を解散させる理由などないはず。

ということは・・・、ファンの多くが、
意識的にしろ、無意識的にしろ、
「今後の活動に期待」などと言う、
常套句を使っていない理由が、なんとなく見えてくる。

終わり。

そうなのかな・・・。
もちろん現時点では、断言できないけれど。

でも、たぶん、そう。
終わり。
みんな薄々そう思ってるはず。

でもひょっこり帰ってきたら、
みんなで泣きながら殴りましょう。
恋人に死んだふりされて、
それにまんまと騙されたというように。

なんてな。
ダラダラ書きすぎ。
でも赦して。

***  ***  ***

ダサく言えば、青春の終わり。
なのかもしれない。僕にとっての。
たとえば、僕は「DRAGON BALL」が終わってからコッチ、
週刊少年ジャンプを読むことを止め、
ひいては、漫画雑誌を読むことを止めた。
もう何年前のことだろう。
それと何となく、
似たことが起こる(かもしれない)気がする。
どういうことかって、
よく分からないかもしれないけど、
そんな気持ちにもなった。

エンドロールって、映画の最後に流れるアレ。
でも、この日のライヴを、
最初から、ホントに“エンドロール”として、
観賞・体験できた人、どれだけいるだろうか。
強いて言うなら、最後の“翌日”の前に、
バンドの終了宣言(or予告)がなされたので、
あれが、“翌日”が、エンドロールになってしまった。

映画のエンドロール眺めてるときって、
僕はたいてい本編を思い出す。
余韻に浸る。
だいたいみんな、そうだろうと思う。
印象的なシーンとか、台詞とか、
クライマックスの場面を、頭が再生する。

でも、この日は、本編を思い出すには―
つまりこの場合の本編とは、
ライヴの本編のことではなくて、
Syrup16gというバンドの、辿ってきた道―
それを思い出して、余韻に浸るには、
“翌日”、あれじゃ短すぎた。

衝撃の大どんでん返しの映画を観た後だって、
もうちょっとくらい、エンドロールを眺めながら、
余韻に浸れるだろうと思う。

だから、何が言いたいかっていうと、
2008年3月1日の日本武道館、
そこで行われるライヴには、
すでにタイトルがついてしまっているけれど、
それはそれで、大袈裟だけど、
でも、似合ってると思うんだけど、
僕は武道館こそが、ファンにとっての、
本当のエンドロールになるんだろうなって、思ってる。

いろいろな思いが、光景が、頭をよぎるだろう。
いや、きっと僕はそう“する”だろう。

長かったような、短かったような、
彼らの歩みが、そこで終わる。
数多くの人間が、つまり数多くのファンが、
参加してきたその彼らの歩みは、
まるである種パレードのよう。

いつまでも続くはずがない、夢のような。

だから、優柔不断な先導役に文句を言いながらも、
最後まで彼らについて行かざるを得なかったファン達も、
どうやら、そのパレードを終わりにしなきゃならない。

そのときが来たということ。

きっと盛大だろう。最後のパレードは。

僕も参加しなきゃーな。
そして見送らなければ―

大袈裟かもしれないけれど、
僕には、そういうことなんです。

上記の文章には、
若干の聞き取り違いもあるけれど、
それもまた、よし(やっぱり勝手)。


-------------------------------------------
Set List
01.新曲(ニセモノ)
02.I.N.M.
03.生活
04.神のカルマ
05.新曲(さくら)
06.新曲(helpless)
07.新曲(途中の行方)
08.新曲(ラファータ)
09.ハピネス
10.ハミングバード
11.落堕
12.sonic disorder
13.天才
14.パープルムカデ
15.新曲(scene through)
16.新曲(来週のヒーロー)
17.Coup d'Etat
18.空をなくす
19.真空
20.リアル
21.きこえるかい
22.翌日

※新曲はすべて仮タイトル、もしくは通称。
-------------------------------------------

参考電子資料:
Vapour Trail シロップ第二期 新曲歌詞集(保存用)
 URL:http://blog.goo.ne.jp/qooo1234/e/e7d074a96d7ebf2f21bddceacabc197d

2007/12/13
▲このページのTopへ ■Live ReportのTopへ




Syrup16g, forever.