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2006.08.03‐「Syrup16g presents “UP TO THE WORLD #2 静脈” in SHIBUYA-AX」 Home ◆Set List

ベスト盤を二枚同時に発売する。

その情報は、
瞬く間に、かどうかはハッキリじゃないけど、
ネットを通じて、シロップファンの間を駆け抜けた。
もっと細かく言えば、幸か不幸か、
ベスト盤ということが発表される前に、
「アルバムが出る」、「しかも二枚らしい」、
という噂だけが先行したので、
「ついに新譜が!?」と、
シロップファンは色めき立った。

けれどしかし、それはベスト盤だった。

そして兼ねてからこれも
噂というか、某所で宣言されていた、
今回の二日間ワンマンライヴが、
二日とも完全別メニューで行われるというもの。

これらの噂・事実を総合して、
ファンの間で導き出された、
今回のワンマンについての予測は、

「ベスト盤の内容を一枚ずつ、
二日に分けて演奏するんじゃないか」

というものだった。

そして予測は的外れではなかった。
厳密に言えば、演奏は必ずしも
ベスト盤に準じたものではなかったが。

2006年4月に、
Syrup16g presents -
“UP TO THE WORLD #1”
があった。
そのときから、終演後には、もう、
“UP TO THE WORLD #2”の開催が、告知されていた。
「ワンマン」なんてまだ一言もなかったけれど。
てっきりまた数バンドが集うイベントだと
思っていた人たち(僕も含め)は、
ワンマンライヴだということが明らかになるやいなや、
妙な興奮を覚えた(ハズだ)。
もちろん、音楽的に共振するバンドさん、
アーティストさんを呼んだイベントだって◎。
だけれど、やっぱり日比谷野外大音楽堂で、
彼らシロップ16gは、第一期に幕を降ろしてからというもの、
目立った動きを見せていないので、
「ワンマン」と聞いてしまえば、
ファンは否が応にも、鼻息が荒くなる。

*** *** ***

一日目がどうやら
『動脈』ベースの内容だったようなので、
ということは、二日目は、
おそらく『静脈』だろうと、誰もが思っていた。
もちろん僕も。
そして僕は、たぶんだけれど、
『静脈』に入っている曲たちの方が、好きな気がする。
いや、どっちも好きだけれど。
それでも、やっぱり両方の曲目を見ると、
「好き」の強さにいくらか違いが出る。
そんな気がする。

だから、僕はこの日に、
二日目に、行けてよかったと、そう思う。
マジで。

*** *** ***

今回のライヴでは、
非常口の灯りさえも、
演出上の理由ということで消された。
つまり、ステージの明かりが
なければ、会場は真っ暗である。
僕はこういう演出は、
NIN(ナイン・インチ・ネイルズ)以来である。
2000年1月10日、千葉県はベイNKホール。
トレント・レズナーは、
ホールの非常口の灯りを消させた。
なので途中で出ようという人が
いたとしても、なかなかあの中では、
出られなかったかもしれない。
なんて余談。
余談ついでに言うと、
NINのステージは異常に暗い。
どのくらい暗いか(シャレじゃねえよ!)ってえと、
誰がどこにいるのか分からないくらい暗い。
ステージのどこに誰がいるのか、
それすらもよく分からないくらい、暗い
(だからシャレじゃねえって!)。

ということで、今回のAXにおいても、
なんかあのときの興奮がだぶってしまい、
よけいに興奮した、かもしれない。

客電が落ちると、ほんのしばらくの間だが、
会場は闇に包まれた。真の闇。
圧倒的な闇に気圧された客席から、
ササヤキ声が漏れる。サワサワと。
しかしステージの上で、誰かがぼんやりと
動いていると見るや、
会場から悲鳴に近い歓声が飛ぶ。
真っ暗な中。何も見えないのに。
そして鳴り響く、ピアノ?の音色。
サティのような、
あるいはエイフェックス・ツインのような。
物憂げな音色が、闇を転がっていた。

バンドのメンバーは、
各自スタンバって、
ピアノの音を静聴している。
ギターのサポートは、
前回と同じく、VOLAの青木さんだった。

今思えば、そこからして、そのときから、
僕は何か今日は違うようだと、そう感じていた。

五十嵐さんが珍しく初っ端から
Tシャツ?を着ていたから、ではない。

中畑さんの髪が伸びて、色は金髪というよりも、
白に近くて、日比谷のときに近づいていた、
からでもない。

なんか、ほどよい、緊張と緩和。
それを、僕は感じていた。
あくまで「僕」は。
いつか体育のテキストで読んだ。
スポーツでよいプレイをするためには、
緊張しすぎてもダメだし、
リラックスしすぎてもダメなのだと。
その中間がいいのだと。

「んなこと言っても、緊張とリラックスを
自分でコントロールできねえよ!」

なんて僕は思ったもんだった。
それをコントロールできる人は、
優れたプレーヤーになれるのかもしれない。
まーとにかく、出来なくても、
その誰かさんの教えだけは、
頭の片隅にずっと転がっていた(る)。

今回のシロップが、
自らそれを作り出したのか、
あるいはたまたまなのか、
それともほどよい緊張とリラックスに
身を置くことができていたのは、
実は僕の側なのか。
それらの交互作用であるのか、
まったく不明であるが、
とにかく僕は、「よい」空気を感じていた。

*** *** ***

実際まさかとは思ったが、
1曲目は、そのまさかの“Reborn”
しかもなんか「バンド」っぽい。
「勢い」を感じる。
青木さんのギターがそんな
空気を特に出しているのかもしれない。
でもすごくね?
“Reborn”はたいていラストだよ?
別にベストアルバムどおりに
わざわざ最初にやる必要はないのは、
バンドも客も分かっているはずだ。
最後にやったって誰も文句言わない。
もちろんやらなくたって文句言わない。
なのに敢えてド頭にやるこの捻れた感じ。
なぜ?と考えると、
「なぜベスト(『静脈』)の頭に
“Reborn”を入れたのか?」
というところにまで、考えがいってしまう。
そういや“Reborn”は・・・なんて
書き始めてしまうと、妙に長くなりそうだから、
これはここで止めておくけれど、
あのイントロが鳴ったとき、
それは予定調和的でありながら、
だけど妙にドキドキした自分がいた瞬間であった。

2曲目が、これもまさかの“翌日”
すげーなあ、“Reborn”のあとにだよ。
シロップにとってもきっと大事な曲だろうし、
ファンからも人気が高い曲だ。
それをこんな冒頭でやったとしても、
やっぱりファンはついていく。
一気にヒートアップする。
次が・・・“I・N・M”・・・、
僕の中では、“Reborn”“翌日”
“生活”と続いた記憶になっていたのだが、
セットリストを見ると、どうやら違うらしい。
この“I・N・M”、前に日比谷で聞いたときには、
正直あまりよくなかった。
けれどこの日は、見事なバンド仕様の“I・N・M”
中畑さんのズンズンしたバスドラムと、
青木さんのジャキジャキしたギターが、
あの曲の持つ「流れる」ようなイメージを、
いい意味で別のものに変えていた。

続く、ゴロゴロガチャガチャした
イントロからの、“生活”
ここで僕は、というか他にも
気づいた人がいただろう。
中畑さんの叩きっぷりが、
久しぶりにキレていたことを。
一発一発が渾身のパンチみたいな叩き方なのな。
ダイナミックかつシャープ。
鬼神降臨(また言い過ぎ)。
ここで僕はちょっと押された。
その圧に。
僕の中では、ここがハイライト。
ひとつのピークであった。

フロアには少し遅れてピークが
やってきたような気もする。
だがその波はきっと“生活”から
起こっていたのだろう。
“神のカルマ”から“Inside out”
終えたところで、
シロップのライヴでは初めて、だろうか、
前のフロアの人たち全員が、
「少し後ろに下が」らなければならなかった。
バンドメンバーからそう告げられた。
前の方がちょっときっとやばかったんだろう。
この1曲目から6曲目の途中でも、
前線を離れる人がチラホラいた。

五十嵐さんはまったく喋らない。
いや他のメンバーも喋らない。
ライヴは淡々と、ピリリとした空気で進む。
最近はあんまりなかったことだ。
客席からの言葉にいちいち反応していた、
あのミスターイガラシは、そこにいなかった。
五十嵐さんは、曲が終わるたびに、
タオルで顔をふき、頭をワシャワシャかき回す。
少し短くなった髪のせいかもしれないが、
五十嵐さんはたくましくなったような
気がしないでもない。
腕とか、別に「太く」なったわけではないが、
それでも前よりなんか健康的な気がしないでもない。
服がタイトだったのかな。
あるいは33歳で体がユルんできたとか(笑)。

この後は、ライヴはしばらく落ち着いたモードだった。
「静」と「動」で言えば、「静」。
「静」な曲が入っているから、
だから『静脈』、ってわけでもないだろうけれど。
“センチメンタル”“My Song”
続く中で、僕は青木さんのギターに違和感を
感じなくなっている自分に気づいた。
前回のライヴでは、なんか硬い感じで、
どうもシロップの音から浮いているイメージが
あったのだが、今回は違った。
確かに音はでかいし、鋭いし、
「旋律を奏でる」という感じではないのだが、
鋭角な音で、不思議に、見事に曲をサポートしていた。
“delayedead”ツアーでサポートをつとめた
アッキーさんとは明らかに違うのだが、
魅力あふれるギタリストさんだ。

再び波がやってきたのは、
『静脈』には入っていない
“月になって”、そして、
五十嵐さん、中畑さん、青木さん3名の
声合わせから始まった“ex.人間”
それら2曲を挟んでの“Sonic Disorder”
イントロ中にメンバー紹介。
キタダさん、青木さん、中畑さん、
という順番で来たのだが、
珍しくキタダさんがステージ前に
グイグイ出てきてブリブリ弾いていたのには、
ビックリした。
・・・でもやっぱりクールなのね。
自己主張しないけど、いないとダメ
っていう、その感じ、カッコいいす。

ここでようやく
本日2回目の「今日はみんなありがとう」
という言葉に続いての、“パープルムカデ”
「戦場で死んだ紫のムカデ」、
というのは、いったい何を指すのだろうか。
もはやそれも気にならないくらい、
ファンには慣れ親しんだ曲になっていて、
幾つもの頭の間から、拳が次々と上がるのだが、
僕はそこで手を上げることはできない。
そんな僕は、日本人的であるのかもしれない。
・・・今回のレポートは脱線が多いが、
それは日にちが経ってから記述しているので、
頭が本筋とは関係ないところへ
はばたきがちなのである。
リアリティや臨場感は失われるが、
それはそれでいいじゃねーか。
日本人的、と書いたのは、
『CROSSBEAT』の2006年8月号に、
長谷川町蔵さんのこんな文章があるからだ。
「サッカー(ワールドカップね)に
国民一丸となって騒ぐなんて、ロックじゃない
という人たちは、ギャラガー兄弟に
殴られるぞ、なぜなら彼等(欧米人)に
とってはロックとサッカーというのは、
まったく同質だからだ」、という
旨の言葉があった後で――


 『ここいらの感覚は日本人には分かりにくい。
 というのも、日本の伝統的なスポーツ=相撲も、
 音楽=盆踊りも本来宗教儀式の一環として
 始まった神聖なものだから。お陰で我々には
 “祭りの参加者”DNAが刻み付けられてしまっている。
 スポーツの試合やロックのライブについつい
 真剣な態度で臨んでしまい、精神性とかを
 見出して、有り難がってしまうのである』
(p.157)


と書かれている。なるほど!
ってところで脱線は終わりにしよう。

紫のムカデのあとは、いつの間にか
Tシャツ脱いだ中畑さんを従えての
“明日を落としても”であった。
そして「AX大好きなんだよね」とか、
「二日間のSyrup16gフェスティバルが云々」とか、
言った後に、フロアからの言葉を受けて、


 「じゃあもうちょっと聞いてもらおうか。
 フェス、だからね」



そして僕にとってはライヴ初聴きの
“Your eyes closed ”
出だしのギターを弾く前に、
異様に間をとる五十嵐さんであった。
僕としてはクモの巣が編まれていくような、
非常に繊細なイメージがあったのだが、
さすがにライヴではそれはなかった、かな。
むしろ青木さんのチョークなギターの音が、
印象に残っている。たっかい音。
僕はこの曲、ベスト盤に入らないのじゃないか、
そう思っていた。
なぜって、「愛」って歌っているから、
五十嵐さんの中でどうなんだろう、
どんな位置付けなんだろうと、
色んな曲歌う中で、これは歌いにくくないのかな、
なんて思っていたからなのだけど、
見事『静脈』の最後に収められている。
僕も好きな曲なので、これは良かった。
第一期は、「愛」で終わったと、
そういう受け取り方もできなくない。
まったく違う意味かもしれないけれど。

『静脈』まんま、ではなかったけれど、
本編はこの“Your eyes closed ”で終了した。
あとで振り返ってみると、
ここまでで14曲しか演奏されていないんだけど、
ぜんぜん短くは感じなかった。
もちろん「けっこうな量」の曲数であるけれど。

途中で中畑さんの後ろからライトが照射されていたのだけど、
そのシーンは、奇妙に、異様に、神がかって見えた。
ステージ全体が、得体の知れない膜に包まれたようだった。
決して手の届かない感じ。
近寄りがたい感じ。
余計なモノをすべてシャットアウトするような。
その原因は何かと考える。
中畑さんの叩きぶりは確かに大きな要素だ。
しかし中畑さんの叩きぶりがキレていれば、
それだけでライヴが◎なわけではない。
きっと細かく言えば、その日の天気とか、
フロアの温度とか、人の入り具合とか、
隣の人の動きとか、香り(何であるにしろ)とか、
腹の減り具合とか、明日への不安とか、
彼女(or彼)との仲とか、好きな人の最近の態度だとか
もう天文学的な数の要因が、複雑に作用しあって、
あの空間に結びついているのだけれど、
そしてそれぞれがどう作用しあっているのか、
それは誰にも解き明かせないだろうけれど、
今回、その作用が、僕へどういう結果をもたらしたのか、
それだけは、もうハッキリしている。

「良かった」。

その一言に尽きる。

なぜアンコールに“もったいない”
歌ったのかはよく分からない。
そしてなぜ中畑さんがドラムに登って、
ゴリラポーズで「ウォッウオッ」と、
叫んでいたのかも、よく分からない(笑)。
ライヴ中は、他でドラム叩くときと違って、
やたらとピリピリしたオーラを出しているのに、
かと思うと、ああやってお客さんを
楽しませてくれる。不思議な人だ。
思えば、五十嵐さんにバンドやろうって、
そう持ちかけたのは、中畑さんなのだっけ・・・。
五十嵐さんの曲聴いて、そう決意したのだっけ。
ならば、あの2人には、きっと
僕なんかには到底知ることの出来ない、
不思議な、結びつきがあるのだろう。
中畑さんが、特にシロップのライヴで
他で見せない一面を見せるのは、
その辺の結びつきによるところ、なのかもしれない。

“もったいない”の後には、
五十嵐さんが一人で出てきて、
アコギを持って、イスに座った。
そしてピックをケースから出し、
顔を上げて、客の視線に気づいて
ビックリしたふりをする。

そして黙る。
日比谷の“Reborn”を歌う前、
あのときの空気と、似ていた。
言葉を探している。あの感じ。
なんか不吉なこと考えた人もいるみたいだけど、
僕はそうは感じなかったな。
しらばくギターを抱えて
ダンマリしていた五十嵐さん、
ようやく口を開いてまず言ったのは、
二日とも来てくれた人への礼。
そして次に、どっちか一日でも
来てくれた人への、礼。
僕は二日目しか行けてないわけだけど、
それでも気持ちは二日間行った人に
別に負けてるつもりはなかったので、
まず先に「二日とも参加した人」への礼を
言われたことが、ちょっと気に障った(笑)。
そう思った人、いないかな。
いねーか!! ハッハッハッ・・・。

最後に何を、どんな歌を歌ったのかは、
まーここには書きませんや。
行った人は分かってるだろうし、
行ってない人でも気になる人は、
他のところで調べればすぐに分かりますわ。
でもああいう歌を作れる、歌えるってことは、
もうモードはチェンジしきったのだろうか。
これからああいう歌を歌っていくのか、
それともアレはアレで、他は他、なのか。

よい曲でした。
やはり聴いたことない曲には、
ドキドキがある。
それってとても素敵。
そう思う。

*** *** ***

ライヴ全体を通じて見るに、
過去は現在に繋がった、のではなかろうか。
正直、第一期終了後の、
リキッドルームのライヴでは、
過去の曲たちを、もう新鮮に受け取れない
自分がいたし、曲に疲弊を見てしまっていた。
「過去」をそこに感じてしまっていた。
だが今回、「過去」は「現在」に繋がった。
とすれば、過去はもう清算されたはずだ
(ベスト盤にはそういう意味も
あるのだろうと、勝手に僕は思っている)。
すべては、ゼロになる。
厳密にはそんなことできないだろうが、
それでも過去を過去として消化できたなら、
自らの血と肉とできたなら、
次の一歩を踏み出せるはずだ。

そこにあるのは、今。現在。
過去に縛られることなく、
フラットな気持ちで、
「今」を、「現在」を、描き出して欲しい。

自分にとっての「今」が何であるのか、
それを明確にするには、
自分自身を見つめなければならず、
それはとてもしんどいし、
見つめた結果何か出てきたとしても、
それに自分自身が納得できるのか、
そこが一番難しいのかもしれないけれど、
僕は待ってますよ。

・・・なんて、勝手にザワザワ言って、
すいませんm(__)m。


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- SET LIST -
01. Reborn
02. 翌日
03. I・N・M
04. 生活
05. 神のカルマ
06. Inside out
07. センチメンタル
08. My Song
09. 月になって
10. ex.人間
11. Sonic Disorder
12. パープルムカデ
13. 明日を落としても
14. Your eyes closed
En1-1. もったいない
En2-1. タイトル未定
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引用文献

長谷川町蔵. 2006. シネマ酒 オン・ザ・ロック.
CROSSBEAT, No.8. 156. バーン・コーポレーション


2006/08/09
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