■Live ReportのTopへ


2006.12.10‐「Syrup16g presents “UP TO THE WORLD #3” in SHIBUYA-AX」 Home

Syrup16gプレゼンツのこのイベントも、
最終回?の三回目にして、ついに、新鮮味が出た。
第一回は同じ事務所の
VOLA & THE ORIENTAL MACHINE、
それからPERIDOTSという、
これ以外にも何度か一緒になったことのある
アーティストが並んだために、その新鮮味はなかった。
第二回はワンマン。これは個人的に素晴らしかったです。

そしてこの日が第三回。

おそらく年内はシロップを観るのは
これが最後になるであろうというこの日、
ゲストに招かれたのは、
Good Dog Happy Men、PaperBagLunchBox。
完全に(かどうかは知らないが)、
「外」からのゲストである。

Good Dog Happy Menは、
2004年に解散した元BURGER NUDSの2人――
(門田匡陽[もんでん・まさあき]、
内田武瑠[うちだ・たける])が在籍する4ピース。
BURGER NUDS自体がなぜ解散したのかは、
熱心なファンではなかった僕は知らない。
ある日雑誌でその情報を知ったのだった。
メジャーデビューして、
これからという時期ではなかったか。
確かにある種のカテゴリーに属してはいたけれど、
内省的な歌詞、疾走ギターと展開するリズムを組み合わせた、
独特の曲構成で以って、自分たちの世界観を作り上げていて、
耳の肥えた音楽ファンからも人気のあるバンドだった。

PaperBagLunchBoxはまだまだデビューして日が浅い。
2005年9月にデビューだもの。
フライヤーを見ると、大阪の芸大で結成とあるので、
全員がそこの出身ということだろうか。
そんなメンバーの記述は後にするけれど、
確かに佇まいに、「そんな」雰囲気がある。
ラジオで彼らのデビュー作を聞いたときには、
「なんかスーパーカーみたい」と思ったが、
実際プロデューサーは初期スーパーカーを手がけた
カナイ・ヒロアキ氏であったらしい。なるほど。

というように、こうして書いてきても、
確かに「外」からのゲストであるが、
決してシロップと遠く離れた音楽性ではないことが、
なんとはなしに、感じられてくる。
実際BURGER NUDSには、
シロップとの共演歴もあるようであるし。

なかなかに、楽しいイベントになりそうだと、
僕は結構な期待をもって、この日、観覧に臨んだ――


 Good Dog Happy Men 

一番最初に、暗いステージに現われたのは、
Good Dog Happy Menであった。
てっきりトップは、音楽活動の長さを考慮して
PaperBagLunchBox(ってかみんな長いな名前が:笑)
かと思っていたんで、ちょっと意外な。

みんな白いシャツを着て、衣装を統一している。
そしてこのとき初めて気づいたのだが、
このバンドは、リズム隊が3人である。
内田武瑠 (Dr) 、伊藤大地 (Percussion/Dr)
韮澤雄希 (B) という具合である。
もちろん門田くんはギターとヴォーカルだ。
ちなみに伊藤さんは、
いつの間にやら大きな人気を獲得した
インストバンドSAKEROCKのメンバーでもある。

ステージ中央のマイクを挟んで、
右側に伊藤さんのドラムセット、
左側に、ベースと、内田さんのドラムセットが並ぶ。

挨拶もないままに1曲目がスタートするが、
やはり、色んなところで見聞き(試聴も含む)した
情報から予想していたとおり、BURGER NUDSとは違う。
当たり前だけど。
同じことやるなら、解散した意味ないし。

リズム隊が入り始めると、
門田くんの声が埋もれてしまうのが残念であるが、
コーラスが豊富(全員がヴォーカルを取る)で、
歌詞が寓意的であり、全員の衣装が先にも書いたように
白シャツで統一されていて、照明も陽光を思わせる
肌色や黄色がかったものが多かった(と記憶している)ので、
どこか「聖」という言葉が似合うバンドだ。ホーリー。
突っ走るような曲はないが、
大らかなメロディと、かけあうようなコーラス、
ときにメロディとあいまって、
マーチングを思わせるリズムが印象的だった。
それから伊藤さん側にある、
名前のわからない楽器――あの、鉄琴を小さくして
吊るしたような楽器が、いい音出していた。
ウィンドウチャイムみたいな、星が流れるような音。
寓意的な歌詞は、表面的に受け取れば簡単なのであるが、
深読みしようと思えばできてしまうわけで、
ある意味とても難しいと言うことも出来る。
ときに「メルヘン」という言葉さえ、僕の頭には出るが、
そんな曲調にも、上のウィンドウチャイムのような音は、
すごく似合っていたと思う。

というわけで、BURGER NUDSとは全く違うと、僕は感じた。
あの、鬱屈し、出口を求めて迷走し、
そして爆発するという流れを、1つの曲の中で
やってみせていたような、まさに鬱々とした雰囲気はなかった。
本当に、小麦畑に射す日光というか、黄金というか、
日の光、それが似合うというイメージが、僕の頭に強くある。

また、ドラムの内田さんがえらいアクティブだ。
ドラムに上って見せたのは、演奏開始前と、終了時の2回。
さらに、スティックを新体操のバトンみたく、
頭上高く放り投げて、それを見事キャッチして
曲を締め括るなど、演奏以外の部分でも非常に魅せてくれた。

でも初めて触れる門田くんのキャラクターは
なんかちょっと浮世離れした感があった(笑)。
この前日、仙台でライヴを行った彼ら、

 「今日仙台から帰ってきたんだけどさぁ
 那須高原のあたりをこう、車で走ってきたらさ、
 景色がすぅっごいきれいでさあ、
 ホント心が洗われたよぉ」


って、ちょっとナルシスティックに話す門田くん。
長い前髪(きっと前からそう)の間から、
微笑を浮かべながら、けれどその微笑は決して
自分の言葉を笑うものではなく、
その綺麗な景色を見れた嬉しさであったのだろう、
彼は景色を頭の中で反芻して噛みしめるかのように、
小刻みにうなずいていた。

ところで、今、シロップのライヴに招かれるということが、
どんな意味合いを持っているのかという、
ややこしいことを、僕は考えたりしていたのだが、
門田くんは最後の方で、素直に、その思いを口にした。

 「前にやってたバンドで、
 何度かシロップとは一緒にやってて、
 めちゃくちゃ好きだったから、
 今日は呼んでもらえて、嬉しいです」


って。なるほど。
きっと、社交辞令、じゃないよね。

最後は一際神々しい響きを持った、コーラス満載の、
“(Can you feel?)〜Most beautiful in the world〜 ”
でもって、大団円。

拍手。


 PaperBagLunchBox 

ほとんど予備知識なしで臨んだ
PaperBagLunchBox(以下、PBL)。
上にも書いたように、
確か「スーパーカーっぽくなかった?」とか、
「女の子が1人居たような・・・」とか、
そんなアヤフヤな記憶で観てしまったのだが、
正直に言おう、僕は素晴らしかったと思う。

メンバーは伊藤愛(Dr)、倉地悠介(B)、
恒松遙生(Key)、中野陽介(G/Vo)の4人。
フロントマン、というか、外との窓口になっているのは、
どうやら伊藤さんであるらしい。
MCなんかも、挨拶はほとんど彼女である。おっとり。
おかっぱヘアの上に赤いニット帽をかぶり、
眼鏡をかけて、細い腕でドラムを叩く姿には、
どこかしらオサレな雰囲気が滲む。
キーボードの恒松くんは、
なんか機材準備のときから口元がモゴモゴしてて、
ガムでも食べてたのかな?あれは。
割と長めの髪で、指の間にペットボトルをぶらさげて
プラプラ歩く姿に、どこかルーズなイメージ。
ベースの倉地くんは角度的によく見えなかったのだけど、
黙して語らず的な、まさにベースな雰囲気の方だった。
そして肝心の中野くんであるが、
機材準備時に、ダウンジャケットを着ていたのが、
彼であろうか、背の大きくて、体の輪郭の大きい、
僕が勝手に音源のヴォーカルから持っていたイメージ、
つまりは「線の細い」というモノとは、
どこか一致しないような、そんな外観を持っていた。

*** *** ***

PBLのライヴは、フライヤーにあるように、
「圧倒的且つ、独特のパフォーマンス」だった。
どこが独特かといえば、
端的なのはVo/Gの中野くんの佇まいである。
声質は、他に言いようはあるのだが、
早く言ってしまうと、やはりフィッシュマンズだ。
別世界へと誘うような、あの感じなのだ。
曲が始まる前、暗がりの中、彼はマイクに手をおき、
小さく小さく息を吐きながら、天井を見上げた。
ベタな表現だが、その様子は、
何かの降臨を待っているようだった。
そして曲が始まると、
中野くんは、曲と一体化するかのように、
ギターを持って身をくねらせたり、体を抱きかかえたり、
曲によっては、一瞬一瞬で体を大きく折り曲げて、
閃光の中で、ひどくアグレッシヴにギターを弾(はじ)き、
あるいは、ゲストギタリストを招いた曲では、
大きな子供のように、マイクを持ったまま、
ステージをぴょんぴょんと飛び回る。
そして時折り彼は、(歌詞は決して明るくないのだが)
笑顔とも取れる表情をフロアに向ける。汗だくで。
「楽しいかい?」とでも言うように。
あるいはそれは感情の表現ではなくて、
歌っているときの自然な表情なのかもしれないが。
そして彼は、普通に、というのは、
僕等が一般的にやるようなやり方では、
ほとんど話さない。
まるで歌うように、いや実際歌で以って、
彼は話していた。
ラッパーの人の喋りが
ラップみたくなっている現象はままあるが、
中野くんは実際メロディに乗せて話す。

 「次はシロップ16gが〜♪
 甘かったり苦かったりするシロップを〜♪
 たくさんかけた食べものを〜
 出してくれるよ〜♪」


みたいに。歌うときの声のまま。
だから歌かと思ったらMCだった、
ということが、ライブ中数回あった。
これは独特だろう?
そうする理由が明確ではないが、
とにかくそんな様子だから、
完全に「そのような」人なのかと思ったら、
ライヴ終了の際に、大きな声で、

 「ありがとうございました!
 PaperBagLunchBoxでした!」


と口にした。

*** *** ***

というように、そこに作り上げられた、
いや生み出された、別空間に僕は魅了された。
確かに曲調は似通っていて、
アレンジもパターン化――
(ヴォーカルのみ→リズム入る→ギター入る
→リズムチェンジ:加速→ギター爆発
→リズムチェンジ:減速)――
している感はあるけれど、
僕が持っていたクールなイメージは、
いい意味で裏切られたのだ。
確かにクールではある――
リズムもかっちりだし、
キーボードがいいアクセントになって、
寂寥感、切なさ、あるいはマシーナリーな、
そういったイメージを感じさせる部分もあるのだが、
その冷めた音空間の中を、
圧倒的な熱量をもって泳ぎ回る、
中野くんのパフォーマンスが圧倒的だった。
序番はその声質と曲調のせいもあり、
「ずっとこのままだったらどうかなあ」なんて、
失礼にも思ったりしたのだが、
先に書いたように、曲と一体化するような、
そのパフォーマンスがあったのである、
小さな流れが、やがて川となり、
ついには大きな海へと変わるような、
その流れ、うねりを作り出しながら、
かつ自分がその中に入り込むような。
ライティングもナイスマッチ。
見事に演出の役割を果していた。

曲が終わるたびに大きくなる拍手も、
パフォーマンスの出来を物語っていたと思う。

と、僕はベタ褒めしたい気持ちなのであるが、
どうにもやっぱり人の好みは多種多様で、
いろんな意見を言う人がいるようだ。
僕は恒松くんのブログで、そういった意見を
知ったのだが、なるほど、としか思わない。
そしてそのルーズな佇まいから、
あまり好感を持っていなかった恒松くんに、
そのブログを読んでから、
僕は、好感を持つようになった。
気になる人は、読んでみるといい。

PaperBagLunchBox、
まだまだこれから変わるんでしょうね。
中野くんはなにやらソロワークも
並行して行っているようであるが、
とにかくちょっとでも興味を持っている人、
持った人は、ライヴ観てみることをオススメします。
是非是非。

しつこいかもしれないが、圧倒的だったぜ。
4曲しかやってなかったっけ?と思わせる、
濃密空間でした。

拍手。

Set List
01.スライド
02.ふらつく夜の
03.5度
04.acoustic boat



◆◇◆ Sryup16g ◆◇◆

登場すると、やはり歓声がすごい。
みんなが待っていた、この瞬間というやつ。
でもやはりどうなんだろう、
ベスト盤は出たけれど、新しい音源も出さず、
都内での四ヶ月に一度のライヴ活動だけで、
ファンは拡大しているのだろうか。
それともいつもライヴには、僕みたく、
同じ人ばっかり来ているのだろうか。
だったら、それはもったいない、そう思う。
誰にとってもったいないのかは、
よくわからないけれど。
バンドにとっても、ファンにとっても、か。

*** *** ***

ライヴの出来不出来の差が激しいという、
まるでプライマルスクリームに対するような
評価を頂戴しているシロップだが、
この日の出来は決してよくなかったと思う。
個人的に、ベストポジションで
鑑賞できなかったこともあり、
首が攣(つ)りかけた、ということも関係あるような、
・・・いやないな。ないない。

だって冒頭の二曲はせっかくの新曲だったのに、
なんかカツゼツが、
久々に絶好調に悪くてですね、五十嵐さん、
まるで聞かせたくなくて、
わざとやってるんじゃないかって、
そんなふうに思えるほどに、歌詞が不明瞭。
なにやらどうやら、全編通じて、
歌詞もトバしまくりだったじゃないですか、五十嵐さん、
それは珍しくないけれど、でも多かったすよ、
どうしたんすか・・・。

一曲目は“実弾”みたいなリズムだったかなー。
ズンガズンガした。
新鮮味はあったけれど、
どうもメロディアスではなかった。うーむ。
全編通して、音のバランスもベストではなかった。
青木さんのギターは要所要所で前に出るものの、
かつてに比べれば、ネットで色々言われた頃に比べれば、
全体的に、ちっさい。アレレって思うくらいに。
五十嵐さんのギターも、勿論でかくない。
だもんで、リズムだけが暴れている感があって、
そのリズムも決して切れ味抜群な、
ハイパーなテイストは放っていなかったので、
全体としては、なんかモッサリとした印象になってもうた。
偉そうに言ってみれば、この日のイメージは、
剃刀じゃなくて、ハンマーだね。鈍器。
僕は剃刀の方が好きなんです。
シュッ、スパッ、アツッ、ギャーという感じ。

それでもやっぱり、シロップを観たくて
来ているファンは、旧曲には敏感だった。
特にこの日は割とアグレッシヴな曲が
連発されたこともあり、フロアは久々に熱かった。
“天才”“神のカルマ”
久々の“Drawn the light”“ソドシラソ”
それに“落堕”!!
というように、間に“月になって”“ex.人間”といった
クールダウンは挟んだものの、
これでもかっちゅうくらいに、畳み掛けてきた。
そして本編後にはダブルアンコール――
一回目は“coup d'Etat〜空をなくす”“真空”
二回目は渾身の“リアル”――を叩き込んで
気がつけば、ワンマンライヴと何ら変わりない
14曲を演奏して、彼らは去っていった。
“リアル”の前に、袖から走ってきて、
フロア全体に背中をばっちり見せるくらいに、
稀に見るハイジャンプを決めていた五十嵐さんが、
とても強く印象に残っている。
曲が進むごとに、フロアの熱が増すごとに、
ボッサ具合を増していく五十嵐さんの髪は、
もはや整理・収拾のしようがなく、
みんなは暗黙の了解で観ているのだが、
誰かちゃんと切ってあげてください、やっぱり(笑)。
そうすりゃ今よりもっと格好よくなるはずだ。

あと強く覚えているのは、
やっぱりあのイントロは難しいのだろう、
“Your eyes closed”のイントロを
案の定失敗して(笑)、フロアに泣きの一回を
請うように、指を1本立てた五十嵐さん。
まさか二回目も、とハラハラしたが(失礼)、
二回目はさっくり上手くいったのだった。

と、あまり事細かに記せないくらい、
僕の記憶があやふやになるくらい、
フロアは割と荒れていたわけだが、
ライヴが終わってみれば、あらまあ、
結局今後の活動について分かったことは、
四月からツアーというか、
四ヶ所を回るライヴがあるということだけ。
音源については何の情報もない。
そんなシロップには、彼らの唄である
“パッチワーク”を捧げよう。もちろん愛を込めて――

『いったいいつまでこうやって
一寸先も分かんなくて
言ってることすらなんだったけな』


なんてな。

でもしかし、四月からのツアーは、
告知されている情報を見る限り、
今のところどうやらワンマンであると、
そのように受け取れるし、
さらには、この2006年いっぱい続いた自主企画イベント、
“UP TO THE WORLD”が、
そのタイトルから読み取れるような、
「世界」に向けて「浮き上がる」という、
まさにその過程であったとすれば、
これはもしかすると、もしかするかもしれない、
なんて思ってしまう。きっと他の人も思うように。
次のツアー前に、もしかするともしかするかもって。

帰還の挨拶があるかもしれない、なんて。

楽しみだ。

でもまたこういうイベントもやって欲しいな。
思わぬ素敵な出会いをまた提供してください。
もちろんワンマンが一番ですけれど(欲張り)。


Set List
01.MURDER SEA PARADISE (仮タイトル)
02.ONE (仮タイトル)
03.イエロウ
04.天才
05.神のカルマ
06.月になって
07.ex.人間
08.Drawn the light
09.ソドシラソ
10.落堕
11.Your eyes closed
12.coup d'Etat〜空をなくす
13.真空
14.リアル


2006/12/15
▲このページのTopへ ■Live ReportのTopへ




welcome to my world.