■Occasional ThoughtsのTopへ


『GANTZ』と『座敷女』

「死者は使者となる…」

そんな文句が帯に書いてある漫画がある。
『GANTZ(ガンツ)』という漫画だ。
人気があるのかなー。
まあないってことはないと思う。
作者は『HEN』を描いていた奥浩哉さん。
とはいっても、
僕は『HEN』は読んだことないんだけど。

自分の趣味、
それも特に映画とか小説とか、
ストーリーのある創作物に関してのものを考えてみると
どうも僕は地に足が着いてないモノは駄目みたいだ。

この場合、地に足が着いてないってのは、
現実世界、
それも僕が生きている現実世界から
あまりに遠い世界の話のこと。
そこにはあまり入っていけない。
勝手なことを言わしてもらうと、
僕の生きているような平和な何気ない日常、
そこにフト非現実的な要素が訪れるといったような、
そういう話が僕はたまらなく好きだったりする。

ガンツの主人公は、玄野計(くろの・けい)。
高校一年生だ。
第一巻の冒頭で彼は地下鉄のホームに立ち、
雑誌をめくり、
グラビアの女の子を眺めて、
「ホケー」としている。
ごく普通の高校生。
まあ話が進むにつれ、
彼が日常生活でかかえている
フラストレーションが徐々に描かれていくのだけど、
ここではそれには触れません。

ちなみに「玄野」って苗字は、
カタカナ読みにすると「クロノ」で、
これは「chrono」という「時」を意味するギリシャ語の、
日本語読みにも相当する。
英語においては、
「chrono」は「時」を意味する連結語として機能する。
この辺のことを考慮に入れてガンツを読むと、
また面白くなるのかもしれない。

『ガンツ』はハッキリ言うと、
SFミステリーだと思う。
現時点で物語はきわめてミステリアスな展開を見せている。

さて、ここから先、
第一巻の内容に触れることになるので、
粗筋を読みたくない方はここでストップしてください。
まあ第一巻はホンの触りだとは思いますが。
それでもやっぱり何も知らない状態で
ドキドキしながら読み進めるのが最高かと思いますので、
自分で買って読むぜ!という人はここで引き返してください。
チョット粗筋見るのもいいかもって人は、
下を読んでいってください。

*** *** *** ***

地下鉄のホームに立っていた玄野は、
となりに立ってきた「ロン毛で目つきの悪いヤンキー風」のオトコが、
小学校時代にもっともよく遊んだ相手、
「加藤勝(かとう・まさる)」であることに気づく。
向こうはこちらに気づく様子もなく、隣に立っている。
玄野は「しょうもねえヤンキーになっちゃって…」と、
加藤を憂い、声をかけることはしない。怖かったのかもしれない。

電車を待つ二人。

と、そこで事件が起きる。
酔っ払ったホームレスらしき男性が、
ホームから線路へと転落する。
だが誰も動かない。
落ちた男性を見つめるばかり。
玄野も胸の鼓動が速まりはするものの、
行動は起こさない。
周囲の人々は、
「駅員来ねーのかよ」、
「えーマジ?」と、
自分から進んで助ける気は皆無であり、
反応はいたってクール。

が、玄野の隣で震えている男がいた。
加藤勝。
玄野は「びびりやがって」と内心で加藤を笑う。
加藤は汗をかき、震えながら、
目を閉じたまま、何事かを考え込む。
そして彼は不意に目を開けると、
「よし、決めた」と言って、線路に下りていく。
ここで加藤が心優しき男だということが判明する。

電車はまだ来そうにない。

必死でホームレスの男性を抱きかかえる加藤。
だが彼だけでは、酔って力の入らない成人男性を
ホームに押し上げることはままならない。
加藤は独りで男性を抱えたまま、
地下鉄の線路上に立ち、
「あのなーお前ら!俺も見殺しかよ!」と、
ホームに立つ人々に怒り、
同時に助けを求めて、周囲を見回す。

そして玄野と加藤の目が合う。

小学校以来の再会。

「計ちゃん!計ちゃんだよな?」と加藤。

周囲から玄野に注がれる視線。
名指しで呼ばれてしまったため、
引くに引けず、線路に降りる玄野。

二人で力を合わせた結果、どうにかこうか
男性をホームに上げられそうになった瞬間、
駅に電車の到来を告げるアナウンスが――

男性を急いでホームに上げる二人。
続いて自分たちも上がろうとするが、
気ばかりあせって二人とも上がれない。
両腕をホームに乗せ、
必死で踏ん張るが、上手くいかない。
カベを支えに上がろうとするが、 足は虚空をける。

電車が近づいてくる――

加藤が「走れ!」と叫ぶ。
停車する先頭車両よりも先に行ければ助かるだろうと、彼は叫ぶ。
そうか、まだ助かる、と玄野の心に光が刺す。
全速力で走り出す二人。
その瞬間――

「通過列車だぞ!バカ野郎」と、ホームから叫び声が。

立ち止まる二人。
後ろを振り返り、
死の恐怖におびえる玄野。

電車はスピードを緩めることなくホームに入ってくる。
線路上の二人の姿に、急ブレーキがかかる。
だが、止まらない。

玄野と加藤は必死で隙間を探すが――

見つからない――

次の瞬間、
列車は二人に激突し、彼らの体は弾け飛ぶ。
家に帰って、ぐるナイのゴチバトルを見るつもりだった玄野。
彼の頭はホームに落ち、加藤の頭もまた、宙を舞った。

目の前で起きた悲惨な事故に、ホーム中が慌てふためく。

周囲の喧騒に包まれながら、薄れていく玄野の意識。
そして訪れる死の実感。

フェイドアウト。

…………

が、次の瞬間、
列車にはねられたはずの玄野と加藤は
列車から必死に逃げていたときのスピードで駆けたまま、
とあるマンションの一室に走りこんでくる。
あたかも「瞬間移動」したかのように。

慌てて立ち止まり、肩で息をしたまま、
「あぁ?」と、疑問の声を上げる二人。

わけが分からない。

見ると、部屋の中には他にも何人か人がいる。
その中で、サラリーマンらしき格好をした、
スーツを着て、ネクタイを締めて、メガネをかけた人物が、
二人に話しかけてきた――

「キミ達も……死にかけたの?」

それと同じころ
二人がはねられたはずのホームでは、
確かにさっきまで存在していたはずの
二人の体が、死体が、消えていた。

*** *** *** ***

これが一巻の第一話。
一話にして主人公が死んでる様子だって言う(笑)。
しかしこの後、謎が謎を呼ぶような感じで物語りは進み、
現在は単行本で第七巻まで出版されてます。
どうですか?読みたくなりませんか?

果たして玄野や加藤、
その他にも、
あの部屋に「転送」されてきた人物は、
みな生きているのか、それとも死んでいるのか?
そして彼らが直面している状況は、
夢なのか、現実なのか?
あるいは現実の中での虚構なのか?

もうこれ以上は書きませんけども、
ものすごいアクロバティックなストーリーなんですよ。
どうなってるんだろう?という推理よりも、
どうするんだろう?という作者への心配が沸いてきます。

あらゆる場所で飛び立たせた謎を
うまく着地させることができるのか?
すべての謎に対して論理的な答えが用意されているのか?
今は虫食い状態のパズルであるけども、
最後にはパズルのピースをピッチリとすべて揃えた形で
僕らに物語の全貌を知らせてくれるのか?
果たして作者の奥浩哉さんの頭の中に、
もう頭から尻までのストーリーは存在しているのか?
それともこれからすべてにつじつまを合わせるかたちで
物語を紡いでいくのか?

期待と不安が入り混じります。

漫画には、往々にして
尻すぼみで終わってしまうものがあります。
僕の中では望月峯太郎さんの『座敷女』がそうでした。
あの作品は独り暮らしのオトコには、
抜群に怖いものがありますし、
物語のネタというか、設定というか、
そのエッセンスから生み出されるところの
恐怖感についてはもう言うことなしなんですが、
ストーリーの終止符の打ち方が納得いきません。

納得できる人も多々いるかと思うんですが、
同時に「どうなんだろう?」と、
僕のように首をひねる人もいるはずです。

『座敷女』は一巻読みきりの物語で、
概要はこんな感じです――

主人公は大学生の森ヒロシ。
彼は独り暮らしをしていて、
物語は彼が部屋で眠っているところから始まる。

ベッドに寄りかかったままの状態で
眠りに落ちかけていたヒロシは、
きちんと寝ようと思い、
ベッドに入ろうとするが、その前にトイレに立つ。

時刻は午前二時。

そのとき、となりの部屋のチャイムが鳴る。
ボタンを連打しているようで、
何回もチャイムの音色が鳴り響く。
そして「開けてよ」という女の声。

ヒロシはチョットした好奇心からか、
ドアを開け、
となりの部屋、
同じ大学の山本の部屋の前を覗き込む。

見ると、女が立っている。
長身の女だった。
黒い髪を腰のあたりまで伸ばし、
ロングコートを着て、
手には紙袋やらバッグやらを提げている。
薄汚れた感じだった。

そして女はヒロシを見る。
二人の目が合ってしまう。

女はヒロシが「山本君」と
同じ大学であることを確認すると、
またチャイムを押し始める。
激しくドアを叩きながら。

ヒロシは「変な女だ」と思いながら、
部屋に戻り、
ベッドに突っ伏し、耳をふさぐ。

そして翌日。
またとなりの部屋のチャイムが鳴る。
時刻は午前二時。
激しいノックと絶え間ないチャイム。
同じ女が来ているらしい。

ヒロシがドア越しに外の様子を伺っていると、
ふと、チャイムとノック音が途絶える。

静けさの中で耳を澄ますヒロシ。

次の瞬間、ヒロシの部屋のチャイムが鳴る――

そしてこの後、
ヒロシは女に執拗に執着されるようになり、
ヒロシの友人の佐竹や、
ヒロシが思いを寄せる高校生のルミを巻き込んで、
物語は展開していくことになります。

果たして女の正体が誰なのか、目的は何なのか、
そしてヒロシは逃げ切れるのか、
そういったところが見所になっていくわけですが、
さあ最後はみなさんの目で確かめてください。

僕としては、
終わり方がいささか現実的でない気がするんです。
現実という枠の中で、
論理的な説明が可能であるような、
そんな終わらせ方をしてほしかった。

だからこそ、
ガンツはそうなって欲しくないなあと、
そんな気持ちでいっぱいです。
頼むから末期ドラゴンボール的展開にはならないで下さい(涙)。
チョット、いやかなり僕は心配してます。
七巻を読み終わってから。

「そうだったのか!それは考えもしなかった」と、
誰もが思わずヒザを打つような、
そんな驚きでトリッキーな終焉を迎えることができれば、
これは凄いことになるんじゃないかと、密かにそう思っていますから。
絶対にアヤフヤな形では終わって欲しくないなあ。
某サイトさんでも同じようなことが書かれていて、至極共感できましたし。
(ちなみに今回のテキストは、
その某サイトさんの文章に多少感化されていると思いますので、
もし似たようなテキストを読まれた方がいらっしゃるとすれば、
それはソチラの方がオリジナルで、
僕が後発ですので、誤解のなきよう頼みます)

最後に、より詳細な粗筋が読みたい方や、
主要キャラクターたちの顔を見たい方は、
『Web Young Jump』内に掲載されていますので、コチラへどうぞ。

-----------------------------------------

参考資料

奥浩哉 2000-2002『GANTZ』 1巻〜7巻 集英社
望月峯太郎 1993 『座敷女』 全1巻 講談社


2002/11/10 (最終修正日:2003/05/22)
▲このページのTopへ ■Occasional ThoughtsのTopへ



welcome to my world.