□Comment …
魚喃キリコ(なななん・きりこ)さん原作の『blue』を安藤尋(あんどう・ひろし)監督が映画化、そのサウンドトラックが本作。手がけたのは大友良英(おおとも・よしひで)さん。一時期は菊地成孔(きくち・なるよし)さんのデートコースペンタゴン・ロイヤルガーデン(DCPRG)にも参加していましたが、大友さんの活動の場は当然そこだけではなく、もんのすごく多岐に渡っています。関わっているジャンルらしいジャンルをいうなら、フリー・ジャズ、即興音楽、電子音楽/ノイズetc...。某雑誌からの情報に寄れば、大友さんの関連ユニットの作品はコンピレーションを除いても150枚近くあるそうな!(すんげー)。
僕は勝手に大友さんは電子音楽の人だと思ってたんですが、そういう括りは間違いだと、本作は教えてくれます。なぜって見事にバンドサウンドですよコレは。DCPRG人脈で形成された「blueバンド」が奏でる音は、「blue」の不安定で、分りにくくて、しかしそれでも澄んでいる世界観をさりげなくイメージさせてくれる。最も印象に残るのは、やはり“blue”の各ヴァージョン。基本的にメロディは同じなんだけど、使われている楽器や尺が異なっている。M-1やM-5で鳴り響くリコーダーでの旋律はスコーンと抜けた夏の空に浮かぶ入道雲を、M-3のアコギは、そんな空の下で、寄せては返す小波(さざなみ)をイメージさせる。僕は大友さんの作品をそんなにたくさん聞いていないけれど、彼の作品にある一音一音の間(電子音だろうと、生音だろうと)が、とっても好きだ。今作でも、ギターのつま弾きや、あるいはゆるやかな音の重なりの中に、ふっと静寂がおとずれる。その瞬間に、僕の頭にはボーッと何かが浮かんで消えていく。それは映画「blue」の映像でもあるし、あるいは関係のない、記憶の断片だったり、まったくの想像だったりする。それがすごく心地よい。
映画音楽、特にスコア的なもの、インストゥルメンタルは、映画を観終わった直後は、その映画を思い出しながらよく聴くものの、時が経つにつれて音が映画と直結しなくなり、聴かなくなるものが多い。しかし今作は、単独でも充分にアルバムとして楽しめる素晴らしい作品です。大友さんの作品には、ポップミュージックに耳がなじんだ僕には絶対「ん〜?」という作品もあると思うんですよ。理解できないというか。しかしこれは違う。実験音楽や現代音楽の側面も感じさせつつ、決してとっつきにくくないところが凄いなあと思う。
ちなみに映画の主演は市川実日子(いちかわ・みかこ)さん。その友人役に小西真奈美(こにし・まなみ)さん。実日子さんの、透明なんだけど存在感がある独特のたたずまいは実に映画にマッチしてると思いますが、20歳の半ばをすぎても女子高生役に違和感のない小西さんに拍手。僕は原作は読んでませんが、『blue』は魚喃作品の中でも異質なもののようで、なるほど映画もストーリーがパキッとしてないですね。大筋としては、女の子が女の子を好きになる話ってことで◎なんでしょうかコレは…。こういう日常を描いたよな作品は、無理に筋つける必要もないのかな。そういえば大友さんは、実日子さんの姉である実和子(みわこ)さんが主演した『コンセント』の音楽も担当していた気がするなー。しかしサントラは見当たらず…。 |