□Comment …
米出身L'altra(ラルトラ)の3rdアルバム。2005年リリース。ラルトラは97年に結成で、当初は4人組。その4人+数人のゲストを招いて、2000年に1stアルバム『MUSIC OF A SINKING OCCASION』、02年には2ndアルバム『IN THE AFTERNOON』をリリースしています。当時から中心メンバーであり、現ラルトラの構成員であるJoseph Costa(ジョセフ・コスタ:Vo,G他)とLindsay Anderson(リンゼィ・アンダーソン:Vo,Key他)はもともと恋人同士だったようですが、1stアルバム時に別離。ラルトラはその後も存続しましたが、2ndを作り上げる中で不協和音が生じ、4人での活動は終了。と、ここで終わりに思えたラルトラですが、その後も連絡を取っていたジョセフとリンゼィの2人によって作り上げられたのが本作。かつて蜜月のときを過ごした男女が作り上げた作品で、しかもタイトルが『ディファレント・デイズ』。本作にそんなドラマが隠されていたとは解説を読むまでまったく知りませんでしたが、ちょっと感動しました。もう恋人同士ではないけれど、それでも音楽的に惹き合うものが、再びラルトラという形に2人を結びつけたのだと、そう思います。
その2人を結びつきを淀みないものする役割を果したのが、以前このコンテンツでも紹介したTelefon Tel Aviv(テレフォン・テル・アヴィヴ)のJoshua Eustis(ジョシュア・ユース)。彼は本作のプロデューサを務め、作品自体にも様々なパートで参加しています。そしてラルトラ自体もこれまでのレーベルAesthetics(エスセティクス)から、テレフォン・テル・アヴィヴと同じHefty Records(へフティ・レコーズ)へ移籍。まさに心機一転の再スタートを切ったわけです。で、前置きが長くなりましたが、肝心の音についてのコメントを。1st,2ndと、どちらかというと「生」的な感触が強かったように思うんですが(1stの冒頭はエイフェックス・ツインばりのブレイクビーツですが)、今作はかなりエレクトロニクスによっているように思います。2人組みになったということもあるだろうし、プロデューサがJoshuaということも大いに関係あるでしょう。もう少し生っぽくても良かったんじゃないかなあと、僕は思う。なんだかんだで、テレフォン・テル・アヴィヴ色が強すぎる。ちりばめられたエフェクトやストリングスの使い方、曲の盛り上げ方などが、類似しすぎているように思えて、「うーん」と思ってしまう。僕はテレフォン・テル・アヴィヴも大好きだから、好きは好きなのだが、聴いてる途中でラルトラの作品であることを忘れる瞬間がある(苦笑)。細やかなエレクトロニクスを大胆に取り入れた本作は決して失敗ではないと思うけれど、音数が多すぎるかな。もっとシンプルでよいと思う(ここで言うのもなんだけれど、1stの音が僕は1番好きだ)。
スロウコアやサッドコアといわれる音に馴染みのない僕は、1stを聴いたときに、歌声のあまりの枯れっぷりに衝撃を受け、歌における感情表現ってのは声を張り上げるだけじゃないんだなあ、こんな表現もあるんだなあと度肝を抜かれたことを覚えている。あの枯れっぷりには2人の別離の悲しみも含まれているのかもしれないが、あの頃から比べると、2人の歌声は大分伸びやかになっているし(M-7におけるリンゼィの伸びやかな声はどうだ)、曲調にも温もりを感じさせるものが出てきた。その温かさに無理が感じられた2ndよりも断然良い。M-5が僕は1番好きで、けだるげながらも切ない2人の歌声、ざらついたジョセフの声と、滑るようなリンゼィの歌声の対比が素晴らしい。その歌詞がまた切ない。ラルトラ、日本でも普通に紹介されてますが、聴こうかどうしようか迷っている方は、聴いてみて損はないと思います。
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