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ミドリカワ書房、メジャーデビューアルバム。2005年リリース。中身は、インディーズ時代に出した『みんなのうた』をメジャー仕様にしたもの。「+ α」として、ボーナストラックが収録されている他、初回限定で、なんと『みんなのうた』収録の10曲分のPVがDVDでついてくる!これはすごい。
ミドリカワ書房は、緑川伸一の1人ユニット。彼は1978年生まれで、僕と同い年だ。ということは、アートスクールの木下くんや、ストレイテナーのあの2人なんかとも、同い年(?)かな。なんか書けること沢山あるのだけれど、まずは本作、各曲の前に、「導入部ショートドラマ」なるものが用意されている、これは「スキージャンプ・ペア」でナレーターを務めた千葉レーダの茂木淳一(もぎ・じゅんいち)さんが、語りを担当している。これがねー、クスクス笑いが止まらない。そのあとに始まる各曲にひっかけたドラマを演じてくれていて、うっかり気を抜いて聞いていると分からないんだけど、じっくり聞くと、細かいところですんごく面白い。導入部の役割もちゃんと果してるし、お見事。1番好きなのは、“〜なまはげプロジェクト〜”。酔っ払いが留守電へのメッセージ入れてるってスタイルなんだけど、途中で時間がきて切れちゃうのね(笑)。2番目に好きなのは(長いけど書くよ)、〜Takanori Makes 朝帰り〜、タイトルも笑えるが、たたみかけるように放たれる「ンケチャアッッップ!」に笑いがもれてしまう。3番目に好きなのは(ってもういい?:笑)、〜同級生フォーエバ(“万引き is 窃盗”チューン)〜で、普通に結婚式でこんなスピーチありそうで、なんかいい。笑えつつもちょっとホロリ、みたいな空気。オチも上手くついてるし。あとは・・・、もうやめておこう。
で、そんなドラマの後に曲が始まるんだけど、スタイル自体はフォーキーでシンプルでPOP(それもかなり)。影響源がその辺のアーティストにあるということなんだろう、それはすぐにわかるんだけれど(余談を言えば、ほんっと初期のスネオヘアーに似たものも感じる)、独特なのはその歌詞世界だ。それぞれの歌詞にドラマがあるのだが、その歌詞は単独で読み物(orドラマ)としても成立するくらいに、「カチッ」としたものなのだ。それはたとえば、離婚する父親から娘へと送られる、苦くて暖かい言葉を綴った世界だったり、金はないけど新たな家族が増える、そのために夜居酒屋に働きに出る男の日常を綴った世界だったり、セックスアピール全開の保健室の先生の告白を綴った世界だったり、堕胎した子供が、実は自分の子じゃなかったかもしれないなあ、俺騙されたのかも、って、あとで悩む男の涼しげな開放感を綴った世界だったり。それらはもう完全に「ドラマ」で、決して明るくはないんだけどね(明るいというか、平和な曲もあるけれど)、緑川くんの歌い方が全然湿ってなくて、感情は入ってるんだけど、乾いた空気がフィクション性をすごく強く漂わせているから、それらは僕に、あくまで「うた」として響く。だから聴き終わったあとに、歌の世界を引きずって悶々とする、なんてことは、少なくとも僕は絶対にない。まさに大人のための「みんなのうた」。初めは、ショートドラマも邪魔かなあ、ミスマッチかなあなんて思ったのだけど(失礼)、これがあるせいで、作品のドラマ性がアップしているし、なんて言うかな、「作品」として統合されているというか、シリアスな空気をヒョイとかわしているイメージが楽曲と共通していることに気づいた(というか思った)。だからこのショートドラマがあるせいで、歌詞の持つ世界が薄まることはないし、むしろある意味で濃くなっていると言ってもいいかもしれない。たぶんこの飄々(ひょうひょう)テイスト、好き嫌い分かれるけど。
DVDは、10曲分のPVと書いたけれど、厳密には、丸まる1曲分の映像がついているものは数曲で、あとは1部分に映像をつけて縮尺したものになっている。独自の演出が加えられているのは、“雄と雌の日々”で、「俺の子供ではなかった」という部分をすべて、挿入される臨時ニュース内で説明してしまっている(笑:キャスターは茂木さん、レポーターは緑川くん)。なんてすごい。“顔2005”では緑川くん、女装してるしね。しかも違和感ないっていう(なんか個人的に鈴木蘭ヶ似だと思ったんだが)。それ以外のどの映像も、みな一癖あって、観る価値は大いにある。各曲で楽しむというよりも、このDVD1枚で1つの作品とみなした方が、より楽しめると思う。各曲の間に入る「みんなのうた!」というナレーションも何パターンもあって、(CDも含めて)こだわり具合、遊び心が尋常ではない。絶対ちょっと前だったらインディーズでしか流通し得なかったような気がするなあ、こんな遊び心。そんなことないかなあ。楽曲がちゃんと独自に輝きを放っているから、ということだろうか。久々に、こんなPOPな音楽をやりながらも特異なアーティスト(というか作品)に触れた気がする。聴くほどに、観るほどに、ハマる。
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