行ってまいりましたよ。
シロップ16gのライヴ。
つーか水戸から渋谷までの所要時間が
3時間弱というのが解せませんな…
[註:当時僕は茨城県は水戸市に住んでいたのだ]。
徒歩などの移動時間も全て含めるとさらに長くなりますな…。
なんともトホホな環境です。
さてさて、それでは会場に着くまでのお話から始めます――
まずはやるせない旅を終えて
JRは渋谷の駅に降り立った僕なのですが、
ここでチョットした報告が。
何を隠そうこのワタクシ、
以前に些細な手違いで渋谷駅で降りたことがあるんですが、
そのとき以外に、渋谷の地を踏んだことがありません!
ズバリ「ザ・田舎モン」。
そして渋谷を眺めてみて解ることはただ1つ、
「人が多い」っつーことです…。
いやあホント、東京は人が多いねえ。
買い物には便利だけどこんなとこには住みたくなあい、
と勝手に思ったりしました。
と、携帯の時計を見るとすでに5時20分を回ってる。
開場は6時だから、まっすぐに現場に向かった方がいいなと、
そう思ったんですよ。
思ったんですけどねえ…。
不覚にも、
いやまったく当然と言うべきか、
渋谷初心者の僕にはきっと当然なんだろう、
場所が、いや現場が、そうライブ会場が、
つまりクラブクアトロが、
どこにあるか分らなかったんですよ!(泣)。
いやマジで。参るよホント。勘弁してくださいよ。
何かどうでもいいような道がいっぱいありすぎて、
「何じゃあコリャア!」と
松田優作演じるジーパンのごとく叫びたい気持ちでしたよ。
まあ焦りに焦った結果、どうにかこうにか見つかりました。無事に。
でも僕の整理番号は結構あとの方だったりしたから、
そんなに躍起になって会場目指さなくても良かったみたいです…(笑)。
結構待たされた挙句、ようやっと入場すると、
開演前の会場には何かテクノっぽい音楽が流れてる。。。
んーどっかで聴いた音だなあと思っていると、
後ろの方で「アンダーワールド」という言葉が。
おお、こりゃあアンダーワールドの新譜ですかい。多分そうですね。
誰のチョイスか分りませんが、そのタイムリーさに思わずニヤリ。
っていうかこのアンダーワールドだけで
けっこうノリノリになれそうでした(笑)。
そんなダンスな音楽を聴きながら、
周りの方々が色々話してましたよ。
「こないだは何々のライブ行った」だの、
「今度はアレのライブ行く」だのと。
うらやましいぞ!僕だってもっと気軽にライブ行きたいよ!チキショウ!
と、半ば理不尽な怒りを感じつつ、
そしてタバコの煙に巻かれつつ、時間が過ぎました――
そんな状態が30分ほど続いたときだったかな、
ふいに客電が落ちて、会場が真っ暗になり、
僕も含めたステージ前に陣取っていたお客が前に詰め寄りました。
そしてBGMがアンダーワールドから切り替わって、
何かよく知らないけど硬いヘヴィ系の音楽が流れ始めました。
そしてそして、真っ暗なステージについにメンバー登場。
五十嵐さんと中畑さん、そしてサポートのベーシストの方。
拍手と歓声に包まれながら、メンバー各々が持ち場についていきます――
ステージ向かって右側に五十嵐さん、
左側にサポートの人(すみませんこのときは名前存じませんでした)、
そして真ん中後方にドラムの中畑さん、そんな布陣でした。
ギター担いでマイクを握った五十嵐さん、暗い中でボソッと一言、
「よろしくお願いします」。
そして演奏開始、ライブスタート――
初めにやってきたのは、スローなギターのつまびきだった。
印象的なフレーズ。
静かな水面に落ちた一滴の水が、幾重にも波紋を生むように、
わずかにディレイのかかったギターの音が、会場中にゆっくりと広がっていく。
“She was beautiful”だった。
『COPY』の1曲目。僕も大好きな曲だ。
ステージ後方からのライトアップで五十嵐さん他、
メンバーの顔がチラと見える。
ギターのつまびきに、ベース、ドラムといったリズム隊が加わり、
次第にステージ前のファンたちがユラユラと揺れ始める。
改めていい曲だなあと実感する。
白昼夢的な美しさ。どこかへ連れて行かれそうになる。
後半のギターソロでは、歯を食いしばって、顔全体を大きく歪めて、
頭を揺らしながら、さらなる高みへ上り詰めようとするかのように、
五十嵐さんはギターを弾いていく。
五十嵐さんは、見た目に関しては「普通の兄ちゃん」的な人だった。
雑誌等で写真を見たことはあったんだけれど、だいぶ印象が違って見えた。
さっぱりしているとは言えないモッサリした髪型に、丸みのない顔。
スペースシャトルだか何だかが描かれた黒っぽいTシャツを着ていた。
下はおそらくジーンズ。
そしてけっこう痩せ型の人だと思う。
Tシャツの袖から伸びる腕は、決してたくましくなかった。
何だかくたびれた雰囲気の人で、
もっと攻撃的な人かと思っていた僕には少々意外だった。
少なくともパッと見では
「自分自身を追い詰めすぎて2回入院した男」には見えなかった。
と、3曲目でいきなり“Drawn the light”が炸裂!
『COPY』収録曲の中でもけっこうアグレッシヴな曲で、
徐々に加速していくリズムと、間を上手く使っての「溜めて爆発」ギターが炸裂。
そしてそれに伴うライトの照射。
もう嫌が応にもファンのヴォルテージは上昇し、小さなモッシュピットが発生!
ちなみにこのモッシュピット、僕の眼前(笑)。
でも僕はまったくそれには加わらず。不動でライブ鑑賞。
後でチョット後悔するけど。
それにしてものっけからこんなノリノリナンバーでくるとは、
正直言って彼らのライブがどんなんか想像できていなかった僕は、
何故か分らないけど「おぉ」と恐れ入る始末。
「やっぱりこういうノリもあるんだ」と。
そして「おぉおぉ次はどんなんが来るんじゃい」と至極楽しみな状態に。
と、ステージが暗くなった。
五十嵐さんはギターから手を離し、
マイクに向かって、語りかけるように歌う――
「君に言いたぁいこぉとはあるぅかぁい」。
ん?これは“生活”の歌詞!
だけど…。
かなりスローなテンポだし。それに演奏がまったくついていない。
一息おいて、やはりスローに、演奏なしで――
「そしてその根拠ぉとはなぁんだぁい」。
うおお!これはもしや…。
このあと、このあと、あのギターフレーズが?
そして曲に入るのか?にくい演出だぜ!
ふいに右後方で女の子が「やばい!やばい!」と叫ぶ。
確かに、確かにこいつはやばいぜ!
焦らしすぎだぜ!
早く、早くぅ、ギターを……
と思ったら、一気にライト照射+イントロギターが!
うおおおおおおおおお!かっけえええ!
大歓声だよ!“生活”だよ!
おそらくこの日1番でかい歓声が上がったはず。
僕がシロップの曲を聴いたのは確か“生活”が1番最初だった。
そして彼らに惹かれたのもこの曲だった。
だから特別なのだ。
それは周りのみんなも一緒だったみたいで、
完全にステージ前の皆さんはスイッチオン!
モッシュ!
モッシュ!
またモッシュ!
でも僕はせず(チキショー、入りきれんかった:笑)。
こんな感じでボルテージを上手く引き上げられたまま数曲が進んでいきました。
曲の間にマイクに入る、
五十嵐さんのハアハアという息遣いがなんとも生々しい。
それに思ったのが、ドラムの中畑さん、かなりいい感じですね。
うまく言えないんですが、いい感じです。アグレッシヴかつ正確な感じで。
僕的にはCDのドラムもかなりいい感じなんですが、ライブも全然良かったです。
“神のカルマ”の前には五十嵐さんとアイコンタクトしたりして。息もバッチリ。
ベースの方も含めて、バンドアンサンブルはかなり強固な感じがしました。
スリーピースなんだけど、全然何というか音的に弱い感じはなかったですねえ。
MCらしいMCはまったくなくて、
曲の後に何回か五十嵐さんが
「ありがとう」という程度でした。
あ、中畑さんが1回、
「よく来たね」って言ってたかな(笑)。
でも五十嵐さんがふいに――
「初の、クアトロワンマンなんだよね」
みたいなことを言ったんですよ。
そしたらファンの歓声。
「皆さんは、来てます。来ちゃってます、ここに」
みたいなことをさらに五十嵐さんが。
またファンの歓声。
「ありがとうございます」
と最後に五十嵐さん。
何か妙な人ですね(笑)。
そう、何曲目か忘れたんですが、“ソドシラソ”のときに、
五十嵐さん、歌詞忘れてませんでしたかね(笑)。
なんか途中「ラララ」だけで歌ってた気がします。
「アラ」みたいに首ひねってたし。まあライヴのご愛嬌ですねん。
多分その“ソドシラソ”の後かと思うんですが、
五十嵐さん、ライトの熱が熱いのか、
曲の後にしきりに頭をワシャワシャとかき回してたんですね。
それを見たファンがヒソヒソ声で
「きっと熱いんだよ、クスッ」みたいなことをささやくと、
五十嵐さんはボサボサになった頭のまま、
大きい声で
「あー寒い」
と言ってきた(笑)。
女の子がフロアから「あっついよ!」と返すと、
「いやー寒い」 と腕をさする。
…………。
何か面白え人だなあ(笑)。
そしてその後、透明なギターフレーズがかき鳴らされた。
インディーズ時代の『Free-Throw』に収録されている“翌日”だ。
今の彼らからすると、少しばかりこれは前向きな曲じゃなかろうか。
僕はそう思う。曲調にしてもかなりPOPだし、歌詞も前向きに受け取れる。
こういった曲を今演奏することに彼らはどうやら抵抗感はないらしい。
ライブで聴いても、流石にそんなに違和感はなかったように思う。
ボコッと浮き出ているなんてことはなかった。
でも…なんだろうなあ、と僕はどことなくぎこちなさを感じる。
こういった曲をやるんだったら、
持ってくるのはライブの最後が良いんじゃないかなあ……
とか思ってたら、曲の後に五十嵐さんが言う――
「ホントはここで終わりなんだけどね」。
見ると、知らない内に、他のメンバーは姿を消している。
アレレレ、ほんとに終わりなんですかい?
僕は自分の読みが当って何気に嬉しい反面、
もう終わりかと思い、複雑な気持ちになる。
そんな中、五十嵐さんはスタッフに小さな声で何かを確認し、
うなずくと、ギターを肩にかけた。どうやらライヴはまだ続くらしい。
ギターをチューニングして、それから弾き語りが始まった。
薄暗いライトの中、
ディレイのかかったギターが、ゆっくりと、柔らかく弾かれていく。
一瞬、何か分らなかった。
次の瞬間――
「つらい事ぉばかぁりで 心ぉも枯ぁれて
あぁきらぁめぇるのにも慣ぁれてぇ」
僕の腕に鳥肌が!
なんだよ!“明日を落としても”じゃないか!
しかもギター1本で!いやー嬉しい! この曲が僕は大好きだったりするのだ。
演ってくれただけでも嬉しいのに。
こりゃあライヴでしか聴けないヴァージョンだ!
目を閉じて、少し上向き加減で、マイクに歌いかける五十嵐さん。
センチメンタルで、どことなく情けない曲。これは前向きな歌なんだろうか。
僕の中ではなぜかナンバーガールの“我起立一個人”とイメージが重なる。
鳥肌が立つと同時に、瞳が潤んでしまった。良い。今回のハイライトの1つ。
この曲の後、一旦ステージ上からは誰もいなくなった。
そしてお約束だけど、ファンの手拍子。
多分メンバーはまた出てくるだろうけど、出てこない可能性もある。
暗いステージを見つめながら、ドキドキしながら待っていると――
「ありがとうっ」。
――そう言いながら中畑さんが、続いてベーシストの方が現われた。
そして少しおくれて五十嵐さんも登場。
見ると全員が、
来るべきニューアルバム『Delayed』のロゴをあしらった
Tシャツに着替えている。
会場前で2000円で売ってたやつだ。
けっこうかっこいいかも知れんと思い、帰りに売っていたら購入することを決意。
この後、怒涛のアンコールが展開される。
2曲ぐらいで終わるんじゃないかと思っていたら、全然終わらない。
多分4曲は演ってくれた(と思う)。
1曲目は不覚にも忘れてしまったけど、2曲目は『Delayed』からの“Reborn”。
もうすでに他のライブでも演奏されているおなじみの曲だ。
僕はラジオでしか聴いたことがないのだけれど、良い。
おそらく『coup d'Etat』以前の曲なのだろうけど、
“明日を落としても”と同じく、青臭くて、やるせなさがあって、泣けてくる。
この曲の後、
メンバーがステージ上で顔を見合わせるようにして、何事かをささやく。
曲の確認?まさか曲が決まってないのかな。それはないか。
と、五十嵐さんのギターから柔らかい音が流れ始めた。
聴く度に、僕にパイプオルガンを思い起こさせる、荘厳なイントロギター。
『coup d'Etat』のラストを飾る“汚れたいだけ”だ。
どこか神々しさがある。
やっぱりシロップにはこういったミドルテンポの楽曲が似合うように思う。
アグレッシヴな曲も悪くないのだけど、
僕にとって光るのは、このユラユラしていて、
身体を、頭を、ジンワリと包んでいくような楽曲だ。
観客も身体や頭をわずかに揺らすだけで、じっとステージを見つめる。
「友好的なのは
心の奥に本当の事を
隠すから
小学5年から
人生なめくさってんだ
汚れたいだけ」
そう歌う五十嵐さんを、じっと見つめる。
途中、彼はギターを弾きながら、身体を傾けて、
声を限りに叫んだ。叫びつづけた。息が続く限り。
すんごい迫力だ。
物凄い強風が、瞬間的に僕に吹きつけた感じがした。ブアァッーと。
急に僕の中でこのライヴがでかい存在感になり、胸を打たれる。
すげえ。かっこいいとかそういうのとは違う感じがする。
何か、すげえ。
そして、ここで終わりかな、とそう思った。
これで締めくくられたらすげえ満足のいくライヴだよ、とそう思った。
そしたら急にドスン!としたバスドラムと一緒に、
鋭いギターがかき鳴らされた。ジャギャギャギャって感じで。
“真空”だ。『Free-Throw』のラスト。
そして次の瞬間、一気に場内の空気が変わる。
きっと観客もさっきの“汚れたいだけ”で、
何かムズムズと心に迫るものがあったんだろう、
かなりアップテンポのリズムが走り出した途端、
この日一番のテンションでモッシュが発生した。
歓声が1番でかかったのは「生活」だけど、
テンションが最も高くなったのは間違いなくこの「真空」だった。
脇や後ろの方は分らないけれど、
ステージ前に限っては、みんな完全に一体となっていた。
シロップの楽曲に反応する1つの小さな生き物がそこにいるような、
そんな感じ。
勢い余って体勢を崩しながらもギターをかきむしる五十嵐さん。
身体全体の動きでドラムを叩きまくりながら、
ときおり会心のシャウトを交える中畑さん。
ベーシスト特有(だと思う)の身体のくねりを見せながら、
頭を振り回しながら、弦を弾いていくサポートの方。
…………
…………
…………
ああ!かっこいい!
この曲の後、拍手喝采を浴びながら、メンバーはステージを去っていく。
五十嵐さんは僕らに向かって、顔の前で手を合わせて、頭を軽く下げて。
中畑さんは、しばらくドラムセットから動かず、
でかいピースサインを頭上に掲げていた。
誰もステージにいなくなり、客電がつくと、また例の手拍子が発生した。
延々と手拍子が続く中、ふいにライヴ終了を告げる場内アナウンスが。
「え〜」と声を上げるみなさん。でもすごすごと会場を後にする。
気が付くと時刻は8時半を回り、
ライヴは約90分、全部で14、5曲が演奏されていたことに気付く。
僕は会場前で売れ残っていたTシャツを買い、帰路に着いた。
で、当然のごとく、渋谷駅につくまでに少し迷いました(笑)。
ほんでまたゴトゴトと電車に揺られ、茨城まで帰りました…。
さて、ライヴを見て思ったのは、上にも書いたことなんですが
シロップの真骨頂はやはりあの白昼夢的なメロディアスサウンド、
そこにあるんじゃないかということです。
今回のライヴのハイライトを上げてみても、僕的には
“She was beautiful”や“明日を落としても”、
それから“汚れたいだけ”などなど、そういった曲が多いのです。
そういったサウンドに乗せられた方が、
「しっかり生きなきゃいけないのは分ってるけど、
どうにもそんなふうには生きられないよ」みたいな、
情けない、やるせない歌詞がじっくりと伝わってくる気がしました。
でも“生活”はかっこよかったなあ。
“空をなくす”がなかったのは残念だけど。
五十嵐さんが歌うときに始終目を閉じていたのは、
僕らの視線が気になってのことなのかな。
「基本的に人は嫌いじゃないんですよ」と、
『snoozer』のインタビューで語っていた五十嵐さん。
昔は人間が大嫌いだったけど、
最近は分ってくれる人もいるんだなと、そう思い、
コミュニケーションが取りたいと思うようになってきたという、五十嵐さん。
そんな五十嵐さんは、今回のライヴで、
僕らのことを少しでも好きになってくれただろうか。
次回、シロップのライヴに行く機会があれば、今度は一緒に歌いたいな。
向こうがそれを望んでいるのか分らないけれど。
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- SET LIST -
01.She was beautiful
02.落堕
03.Drawn the light
04.生活
05.負け犬
06.ハピネス
07.神のカルマ
08.天才
09.ソドシラソ
10.翌日
11.明日を落としても
12.Sonic Disorder
13.Reborn
14.汚れたいだけ
15.真空
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