2004.10.10−「Syrup16g at 日比谷野外大音楽堂」 | ●Home | ◆Set List |
前書き: MCらしいMCをまったくせずに、五十嵐さんがそう言って、 それを合図に1度袖に引っ込んだメンバーが、 再び出てきたあと、(確か)“イマジン”や “不眠症”(これも僕の大好きな曲だ、聴けて嬉しかった。 「うるせぇ テメェ」の部分を叫び上げる歌い方も、 ライヴならではで、印象的だった)、 “I・N・M”(途中でわざとメロディを崩して歌った箇所で、 五十嵐さんの「シンガーソングライター」としての側面が 急に浮かび上がったように感じて、僕はハッとした)などを経て、 “ハミングバード”を演奏した。 そして再度のアンコールで、 “遊体離脱”、“ハピネス”なんかが演奏されたと思う。 “ハピネス”の前だったか後だったかに、 五十嵐さんはマイクスタンド前で、 ギターを持って椅子に座ったまま、(ようやく)客席に語りかけた、 「寒いですかぁ、ごめんなさい」、 一息置いて 「あんま速い曲ないんで、僕のバンドは」。 これは、会場が屋外で、曇り空の下で、 しかも客席にほとんど動きがない状況を見て、 つまりお客さんは少し寒いのではないかと思い、言ったのだろう。 確かにいつもシロップのライヴはお客さんに動きがない。 この日は全席指定ということもあり、余計に大人しかったように思う。 でも絶対に内側は燃えていると、僕は思う。 別に体を動かすことだけが、盛り上がっている証拠ではないのだ。 と、会場の外からだろうか、 「熱くなれよぉ!」(?)というような声が小さく聞こえ、 五十嵐さんは声の方を向いて、軽く「フッ」と笑った。 アンコール中に“My Song”も演奏されたことは間違いないんだが、 どこで演奏されたか、まったく記憶が飛んでいる (※セットリストを見ると、“ハピネス”の 後に演奏されていたようだ)。 “My Song”の印象は、前のAXで見たときより、全然良かった。 AXのときはギターの音が大きすぎたように思うんだけど、 この日は(僕には)バランスがよく聞こえた。 たしかに音は音源と違って「バンド」然としているのだが、 そこにまったく違和感がなく、 見事な“My Song”ライヴヴァージョンが、そこにあった。 それから“リアル”も、何回目かのアンコールの、 ラストに演奏されたのだが、これまた記憶がはっきりしない (※これは“My Song”の後だったようだ)。 人力(じんりき)“リアル”は、中畑さんのドラムが映える映える。 テンポは大分速いし、リズムパターンも コロコロ変わってると思うんだけど、乱れないんだよなー(当たり前か)。 圧巻です。 イントロのライトサーベルがスパークしてるみたいな ジィィィビリリリリィというギターも印象に残った。 いったい何回アンコールがあったのか。 再びステージに誰もいなくなった後、 客席が見守る中、中畑さんのみがステージに登場した。 上半身裸で(笑)。 途端に会場が盛り上がる。 中畑さんは、 少し高い位置にあるドラムセットの場所まで登りながら、 さっきの五十嵐さんの言葉を受けてのことだろう、 「寒いかい?」 と、誰にともなく言う。 続いて、 「運動会で、短パンで…」 とか何とかボソボソ言いながら、 ドラムセットに座り込む。 確かにこの日は旧体育の日、各所で運動会が行われているだろう。 しかし上半身脱ぐことと、何の関係があるのか(笑)。 準備万端、中畑さんは、1人胸の前でスティックを叩き始めた。 カウント開始。客席がそれにあわせて手拍子を打つ。 盛り上がってるからだろう、手拍子はドンドン、ドンドン速くなっていく…。 と、中畑さん、手を止めて、 「速い」 と駄目出し(笑)。もう1度叩き始める。 今度はバッチリの手拍子。 その手拍子の進行をまるでぶち破るように、 中畑さんのドラムが快進撃を始めた。 押し寄せる音圧。 相変わらず、すごい。もうこんな言葉でしか表せない。 髪が大分伸びた中畑さん(前髪は目の下まであるかな)は、 まるで歌舞伎役者のように頭を振り回しながら、 髪を振り乱しながら、ステージの真ん中、高台でドラムをぶっ叩く。 そのリズムは、まぎれもなく“落堕”!!!! 会場は今日1番の盛り上がり(これ確実)。 「わしはドラムが大好きなんじゃあ!」とばかりに 中畑さんがドラムを叩く中で、 けたたましいリズムにのって袖から現われたのは、 ベースのキタダさん。 僕はキタダさんにはクールって印象しか持ってなかった (だっていつも黙々とベース弾いてるから)のだけど、 なんとここではドラムセットのとこまで登った挙句に、 こちらを向いて片手を挙げているではないか!! もちろん中畑さんはドラムぶっ叩き中。 しかしキタダさんの手の挙げ方も、特に煽るような感じではなく、 「ヨオ」って友達への挨拶みたいで、やっぱりクールな印象(笑)。 キタダさんが所定の位置でベースをかつぐと同時に、 なめらかなベースラインが走り始める。オオ、かっけえ。 続いて現われたのは、ギターのサポートの方。 五十嵐さんがよくやるみたいに、 胸の辺で両手を合わせながら現われた。 そしてベース、ドラムの前を抜けて、ギターをかつぐと、 鋭いギターフレーズを刻み始める。 さあ、後は1人、あの人の登場を待つだけだ。 しかし、これだけでも大分かっこいい(この表現も、なんだかな)。 こういったいわば「焦らし」に近いイントロで、 ライヴを引っぱれるバンドってのは素晴らしいなあと、僕は思う。 「まだかよー早く歌えよー」なんて全然感じない。 もっと焦らして欲しいという、マゾ的(?)な欲求さえ感じるではないか。 と、ついに現われた五十嵐さん。 まるで「遅れてゴメン」とでも言うみたいに、 軽めのダッシュで、手を合わせながら登場した。 ステージぎりぎりまで前に出ると、 客席に向かってゆっくり大きく両手を広げ、僕らの歓声を独り占めした。 さあ、今回は、どんなふうに演出してくれるのだろうか。 ハンドマイクか? と思ったら、五十嵐さんはあっさりギターをかつぐ。 なるほど、いつもいつもハンドマイクではないわけだ。 それはそれで嬉しい。やっぱり予定調和はつまらない。 が、歌い始めても五十嵐さんはギターを弾かない。 かついでるんだけど、弾かない。 力を入れる度に体を傾けながら、歌っていた。 しかし 「寝不足だって言ってんの」 の箇所ではやはりマイクを客席に向けた。 客席がそれに応えると、「サンキュゥ」と返す。 アンコールに入ってから、五十嵐さんはよく喋るようになった。 何回目のアンコールのときだろう(※これは“落堕”の後)、 「今までたくさん音楽作ってきたけど…」 と、ふいに言う。 「俺が1番言いたい言葉、言、言葉…、言いたい、言葉、 言いたいことを、歌った歌を、歌うよ」 とカミカミ(笑)。 客席からひそやかな笑いが洩れると、 慌てて付け足すようにマイクに口を近づけて、 「相変わらずMCうまくできねぇ」 と、苦笑いしながら言う。 そして、高らかなファンファーレのごとき、ギターイントロ。 “パープルムカデ”。 この曲の歌詞が、一番言いたいこと、なのだろうか―― 「好きな言葉何? 好きな人は誰? 遠い空の下でしたじきになったって 怖いものは無い 怖い人だらけ 俺は俺のままで下じきになる 戦場で死んだムカデ むらさきの 戦場で死んだムカデ むらさきの Sun will shine 進め 三輪車 この坂の向こうまで 行け 行け 行け 好きな事は何? 好きなことをやれ 君は君のままで 下じきになる 不協和音と君がいて 銃声は空から舞い降りた 付け足さないで そのままで ただの名もなき風になれ 戦場で死んだムカデよ 戦場で死んだムカデ達よ 好きな言葉 何? 好きな人は 誰? 遠い空の下で」 これはシロップにとって、そんなに重要な歌だったのだろうか。 僕は歌詞の意味を、自分なりにすら解釈できていない。 それが少し、悔しかった。いったいどんな意味を込めているのだろう。 それから“神のカルマ”(記憶は定かでないが)を経て、 終盤中の終盤に、“クーデーター”〜“空をなくす”が演奏された。 音源より長いアウトロを経て、“空をなくす”が終了すると、 (あるいは何か他の曲の後かもしれないが) メンバーはぞろぞろ袖に消えていったが、 五十嵐さんが1人残り、椅子にドッカリ腰かけた。 そして言う、 「俺が貸しきったァ、ココ」。 五十嵐さんの声と話し方は、 時折JUDEの浅井さんとかぶるときがある。 この瞬間がそうだった(ファンの方は反論するかもしれませんが)。 この後、五十嵐さんは、 「こないだ、仙台でカヴァーやったんだけど…」、 客席から歓声が上がる、女の子の声が強い。 「そんときはそこでしかやんないって言ったんだけど…」 五十嵐さんはわざとらしく頭をかいて言う、 「何かやりたくなっちゃったなあッ」。 喜びの声が会場を走る。僕も嬉しい。 いや、何を演奏するのだろう?という思いが強かった。 歓声の中、 五十嵐さんは袖の方を向いて、 「じゃ、出てきてェ」 と軽い口調で、 1度は引っ込んだメンバーを呼び戻す(笑)。 現われたメンバーの内、中畑さんは、 ドラムセットに座りながら、 少し片言っぽく、 「まだヤリタイノカ」 と言う。 まだ、まだまだやって欲しい、僕はそう思った。 五十嵐さんは、サポートのギターの方を見ると、 何か合図だか確認だかをしていた。 何が始まるんだろう? 聞こえてきたのは、 ギターの音か何かわからないが、まるでシンセ音のような、 透明で薄い音色、そして淡々としたリズム。 なにか神秘的というか神聖な感じだ。 夜が明ける前の、ホンの一瞬の静けさのような。 この曲は、僕は何度か聴いたことがあった。 U2の曲だ。 特にU2ファンではない僕も知っている、 そのくらい有名な、U2のあの曲。 “With or without you”。 僕は原曲をいつでも頭の中で鳴らせるわけではないので、 ここで、原曲とこのカヴァーの単純な比較はできない。 しかし、シロップの曲として聴いても違和感はないくらい、 そのくらいバンドに溶け込んでいたように思う。 そう考えると、シロップの楽曲、 というか五十嵐さんの作る楽曲は、当然90年〜00年代仕様なのだけれど、 その衣の下には、80年代的な何かが(何かは分らない)、 ヒッソリと脈打っているのかもしれない。 とにかく、このカヴァーは、素晴らしかった。 曲が良いというのもあるのだろうけれど。 このカヴァーの後、五十嵐さんは、 「ありがとうございます」 と言い、マイクの前で座ったまま、しばし沈黙した。 何か言うのだろうか? ふと、「今日は」と切り出す。 「すごく、台風で、どうなるかって心配してたんだけど…」、 一呼吸。 「お客さんが来てくれるかどうかってのも、心配だったし…」、 また一呼吸。 「でも、こんなに沢山集まってもらって、すごく、感謝してます」。 再び長い間。何か言葉を選んで、あるいは探しているようだった。 会場は水を打ったように静まり返っている。 「すごく…、僕らは…」 と、五十嵐さんは口を開いて、また言葉を探す。 次の言葉は、何か少し、ショッキングだった。 「別に解散とかするわけじゃないし…、 これまでも、好きなように音楽やってきたし、 だから、すごく、今日集まってくれた人には感謝してますし…、 これからも、音楽は続けていくんで、 それに付き合ってくれる人は…、 ついてきて下さい」。 会場と一緒に拍手を送る僕の目は、なぜか潤んでいた。 なぜ「解散なんかしない」と、改めて言うのか。 誰が心配しているのか。 今後のスケジュールが決まっていないから、 誰かそんなことを妄想している人がいるのか。 関係者や、情報収集に熱心なファンの方々の中には、 シロップの今後のスケジュールついて、 何か知っている人もいるのかもしれない。 安易に「活動休止」という言葉を使う人も見受けるが、 そこに根拠はあるのだろうか? ないならどうか使わないで欲しい。 しかし、いずれにしろ、僕は何も知らない。 僕は、五十嵐さんの言葉を、 「しばらく会えないけど、忘れないでくれよな」 という意味に、受け取ってしまった。 いやひょっとしたら、全然そんなことはなくて、 ただ感謝の意を表したかっただけなのかもしれない。 僕の恥ずかしい思い込みかもしれない。 ただ、僕の目は潤んだままで、 鼻から出かかった鼻水も、 寒さのせいなのか(僕は半そでだった)、 根拠のあやふやな悲しみのせいなのか、 もはや僕には分らなかった。 この後、ライヴは“Reborn”で締めくくられ、 メンバーは引いていった。 五十嵐さんはいつものように、僕らに手を合わせ、 最後に出ていった中畑さんは、 上半身裸のまま、僕らに手を振ってくれた。 今後、シロップは…どうなるのだろう。 すぐにヒョッコリ作品を出したりするのか。 それとも、初めて長いインターバルを空けるのか。 僕には何も分らない。 今の僕にはただ、 彼らの今後に思いをめぐらせながら、 彼らの作品を繰り返し聴くこと、 ただそれだけしか、できないようだ―― (※1度書き上げた後、 公式HPのセットリストを参照しながら、 再構成した箇所があります。 なるべく当日のライヴの流れにそった レポートにしようという考え、 そして筆者の記憶違いから その流れが妨げられないようにとの 考えによっています) ------------------------------------------ - SET LIST - 01. クロール 02. 前頭葉 03. Heaven 04. もういいって 05. これで終わり 06. 水色の風 07. 明日を落としても 08. Inside out 09. エビセン 10. 生活 11. 翌日 12. Good-bye myself 13. Sonic Disorder 14. 真空 15. 土曜日 16. きこえるかい 17. イマジン 18. 不眠症 19. I・N・M 20. ハミングバード 21. 遊体離脱 22. ハピネス 23. My Song 24. リアル 25. 落堕 26. パープルムカデ 27. 神のカルマ 28. 空をなくす 29. with or without you 30. Reborn ------------------------------------------ | ||
2004/10/12(最終修正日:2004/10/15) |
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