□Comment …
VASTは、1976年LA生まれのJon Crosby(ジョン・クロスビー)のソロ・ユニット。1998年に『ヴィジュアル・オーディオ・センサリー・シアター』でアルバムデビュー。2000年には2nd、『ミュージック・フォー・ピープル』をリリース。そしてそれから4年後、2004年に今作をリリース。おそらくユニット名のVASTは、1stのタイトルでもある「Visual」,「Audio」,「Sensory」,そして「Theater」という単語の頭文字を取ったものだろう。
VASTの音楽性は1stと2ndの間で大きく変化しているように思うけれど、1stの頃は明らかにインダストリアル・ロックであった。ミニストリーやナイン・インチ・ネイルズが一般的なレベルにまで押し上げた音楽性を、このVASTも持っていた。ただしVAST、ジョン・クロスビーが凡百のフォロワーと異なっていたのは、その音楽的引き出しの多様性だった。彼は1stで、ブルガリアン・ヴォイスや聖歌隊/僧侶などのコーラスをサンプリングして、曲中に挿入していた(おそらく、それまでメジャーで活躍するどのインダストリアル・ロック・バンドも、やったことがなかったと思う)。加えてクロスビーは、盤/弦楽器などのクラシカルな要素をふんだんに使用、自身でアレンジも行っていた(そのため「ゴス」というジャンルに当てはめられもした)。そういった非凡な要素、言わば「肉付け」を取っ払うと、そこにあるのがパキパキしたマシーナリーなリズムに、ハードエッジなディスト―ションギターという骨格だった。そして陰鬱でありながらどこか耽美的なメロディ。そんな素晴らしいソロ・ワークである1stを経て、一転バンド形態で制作された2ndは、「雲が晴れた」ような作品になっていた。音が有機的であり、メロディもより開けた感じになっていた(相変わらずゴス色の強いサンプリングは使用)。POPと言えばPOPなんだけど、何かアクがなくなった気がして残念だった。
で、本作だ。個人的には、これは1stと2ndの中間に位置付けられる音楽性だと思う。クレジットを見ると、録音はバンド形態だが1曲ごとにメンツが変わっているようで、2ndよりはソロ的なニュアンスが強い(ただしベーシストだけは前作と変わらず一緒)。やっぱりこの人は全部自分でコントロールした方が輝くんじゃなかろうか。M-1のイントロなどは久々にゾクゾクきた。デロデロした不穏な電子音と平板なリズム、タメの後に一気に炸裂するディストーションギター。やっぱカッコイイなあこういう音は。ただ、ソロでやったとしても、彼の表現はハードな方向には向かっていかないようで、2ndの解説に掲載されているクロスビーの発言を引用すると、『ぼくはフューチャー・ミュージックを作りたい。自分自身を表現したい。誰かにショックを与えようとはしてないよ。フューチャー・ミュージック…つまりエレクトロニクスとワールド・ミュージック、それとロックを組み合わせているんだ』とある。なるほど、エレクトロニクス、ワールド・ミュージック、そしてロック。まさしくこれらはVASTの音楽を表していると思う。個人的にはエレクトロニクスの比重が増してくれると嬉しい(なんてな:笑)。僕は今作ではM-5が1番好き。バックに漂う賛美歌のようなコーラス、左右の耳で絶え間なく浮遊するストリングスの透明な波、終わりに響く哀愁漂うアルト・サックス!「超都会の教会」みたいなイメージ(なんだそれ;笑)。全体通して、どっちかっていうと機械寄りなんだけど、最後のM-12では、ほとんどギター1本で弾き語り、機械に頼らない表現もきちんとやってのけるクロスビーであった。ちなみに、今作はCMJチャートでなかなか好評であったようで、嬉しい限りです。 |